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第48話 もしかして、これってそういう………?
ええっと、何故にこんなことに?
ぐるぐる回る思考を抱え、そろりとラニットを見上げると彼は精悍な顔に艶めいた笑みを浮かべた。
「何故急に発情したのかと考えてるのか?」
「う……あ……、えと……」
「急にではないぞ。前回人間界に拉致されたあとから、俺はオマエを手に入れるつもりだった」
ええっと、ユオ様の魔法陣で人間界へ移動したあとから?
あれから少し時間がたってるけど、魔王様から性的な気配は感じなかったけど……。
………………ん?
いや、そう言えば接吻 されたな……。それ以外にも、アレコレあった……気がする。
え?ええっと??
もしかして、大公か「貴方は随分と鈍感だ」って言ったのって、そういう意味?
僕はバクバクと激しく鳴り狂う胸の鼓動を自覚する。
「あの、もしかして………。本当にもしかしてなんですが、ラニットは僕の事、ええっと……好き、なんですか?」
「……………」
無言で見下される。
「あの……?」
「多分そうだろうとは思ったが………。オマエは俺からの接触を何だと思ってたんだ」
明らかに呆れている。多分、正直に言うと怒られそうな気がす………。
「ーーー言え」
「ま……魔族ってスキンシップが濃厚だなぁ……と……はは……」
誤魔化す言葉を考える間もなく問い詰められ、正直に答えてしまう。
可怪しい、僕、魔王なのに、ラニットに勝てる気がしない……。
ラニットは視線を天井に向けて難しい顔になった。
「成る程、理解した。オマエは他人から向けられる感情に鈍感になることで、今まで自分を守っていたんだな」
天井に向けてい視線をチラリと僕に流し、ラニットはニヤリと笑った。
「では、これからオマエが勘違いする隙を持たせないくらい、俺の気持ちを言葉で表現しようではないか」
「………ひょ…?」
変な声が洩れる。
いや、今までのラニットの行動だけでも、僕は結構ギリギリだったんだけと、言葉も加わっちゃうの?
ゾワワっとした刺激が背筋を走る。
「覚悟しておけ、俺の魔王」
ーーえ、怖……………。
★☆★☆★☆
「人間界への援助って何か案があるんですか?」
ちょっと怖い宣言の後、僕達はソファに並んで座りこれからの事を話し合った。
一応敵地である大公の屋敷でのんびりしてて大丈夫かなって心配になったけど、そこは問題ないってラニットが自信満々に保証したんだ。
ラニットの能力である懐柔と支配の『支配』を使って、この部屋をラニットの支配下に置いたらしたらしい。
良く分からないけど凄い……。
ライラが淹れてくれたお茶を飲みながら、予測と対策をたてる為に情報を共有する事にした。
「先ずは魔界にある備蓄を開放しよう」
「魔界に備蓄が?魔族って必ずしも食事を摂る必要はないのに何故……」
人間にとって食事は生きる上で必要不可欠だけど、魔族にとっては嗜好品扱いなんだ。
魔族って、魔界の濃厚な魔素を取り込んで生命を維持するんだって。
人間界にはその魔素が少ないから、魔界で取れる魔石に魔素を封じ籠めて魔族領へ流通させているんだそう。
「魔族領に人間が在住しているように、魔界にある人間領にも人間が在住している。そいつ等のための食料だな。何百年と活用する事なく倉庫に積まれているぞ」
え、何百年もって腐ってそう。
僕の考えを読んだのかラニットが苦笑いをした。
「勿論、倉庫には状態保存の魔法陣が描いてある。いつまでも新鮮なままだぞ」
「そうなんですね!因みにどれくらい備蓄されてるんですか?」
「ん?人間界全土の人口を1〜2年は喰わせる事ができるぞ。何せ数百年、溜め込むだけ溜め込んだからな」
魔族の人達って限度って言葉を知らないのかな?
でも、今の人間界にとっては有り難いかも。
「それだけあれば、飢え死には免れますね」
「心配するな。暖を取るための薪も毛皮も備蓄がある。無論、それも開放しよう」
そうラニットが言ってくれて、僕の気持ちは随分楽になった。
僕が人間界を選ばなかっただけで、沢山の人が苦しむなんて絶対に嫌だったから。
僕は感謝の気持ちを籠めてラニットを見つめた。 そしてガッチリとした肩にコテンと頭を預けると、小さくお礼を言った。
「………本当にありがとうございます、ラニット」
こんなに心からお礼を告げるほど嬉しかった事なんて、いつ振りだろう。
「俺がオマエの憂いをなくすのは当然だ。礼などいらん」
サラリと髪を掻き上げ、サラリと頭を撫でてくれる。それが気持ちよくて、僕はうっとりと目を閉じた。
「あとは大公と人間界側がどう出てくるか、ですね」
「そうだな………」
飽くことなく髪を梳き、時々悪戯するみたいに首筋を指先で擽ってくる。
僕はぱちりと目を開けて意地悪なラニットを、「もうっ!」と睨めつけた。彼はクスッと笑いを洩らし額に口付けを落として囁いた。
「恐らく、事を起こすなら此処だ。この魔族領で、と企んでいるだろうな」
甘い瞳も、優しい笑みも、何一つ変わらないのに、その口調は淡々としていて恐ろしいほと冷たく響いた。
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