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弱い心
授業が始まる鐘の音が聞こえる少し前に俺は教室を出て律を探しに出た。律がどこに行ったのかなんて分からなかったけど、とりあえず校内をウロウロしていた。
電話してみようとスマホを出すと、メッセージが入ってるのに気付いた。それは少し前に来ていたもので、律からだった。
『屋上で待ってる』
嘘だろ……二人と話してて全然気付かなかった。
急いで階段を駆け上がり、屋上のドアを開けると、ちょうど授業が始まる鐘が鳴った。
「律ー!いるのかー?」
「遅いよ」
姿が見えなかったので呼び掛けると、すぐ横から声がして驚いて振り向くと、ドアの横の所に律が座っていた。
いつも笑顔の律なのに、今は無表情だった。
「ごめん、気付くの遅くなった」
「夏樹は俺の事嫌いになった?」
「ならないよ、なんで?」
「俺が高城くんの事嫌いだから」
「…………」
「律の事、取られちゃうと思うと嫌なんだ」
「弘樹はそんなやつじゃない」
「分からないじゃんそんなの。現に澪くんが俺の事好きだったのに、夏樹も俺を好きになったじゃん。仮にその時の澪くんが俺で、夏樹が弘樹くんだったら?」
「それは……」
確かに俺は澪が律の事を好きなのを知っていて、律を好きになり今付き合っている。
そうか、律の言うことも分からなくないか。
俺は座る律の横に座って近付くと、律は悲しそうな顔をした。
「本当は夏樹を困らせてるの分かってる。でも好きだから、不安で嫌になるんだ。夏樹の事を独り占めしたいんだ」
「うん。確かに、俺も律の立場だったらいい気はしないかもしれない。律って誰にでも好かれてるから当たり前って思っちゃってるけど、俺より律と付き合いの長い人が居て、その人が律の事にベッタリだったらすげぇやだもん」
「夏樹もそう思ってくれるの?」
「うん。もしそうなったら律は俺を不安にさせないようにキッパリその人に言うんだろうな。ごめんな、俺がハッキリしないやつで不安にさせて」
「優しすぎるんだよ夏樹は」
俺が反省してそう言うと、今度は不貞腐れたような顔をしてフイッと向こうを向いてしまうのが何だか可愛くて、俺は更に近付き、ほっぺにキスをしてしまった。
すると、律はバッと俺を見て驚いていた。
「な、夏樹?」
「俺がこんな事をしたいと思うのは律だけだよ。今の俺律を怒らせてるのに、凄く愛おしく思う。初めてだから分からないけど、これって好きって事なんだろ?こんな感情他のやつには沸かなっ……んっ」
俺が言い終わらない内に、今度は律が俺に抱き付きながら唇にキスをしてきた。
律とのキス。昨日、別れる時にした筈なのになんだかしばらくしてないみたいで少し懐かしく思った。
律は俺から離れると、困ったような笑顔をしていた。
「夏樹の事が大好き。誰にも取られたくない。俺だけのものにしたい。他の誰かと話してるのを見るのが嫌。夏樹には俺だけを見ていて欲しい。ごめんね、俺弱くて」
「ううん、嬉しい。律、俺も大好きだよ」
俺からキスをすると嬉しそうに笑った。やっぱり律は笑顔が似合う。俺も笑顔になれた。
でも律の希望を叶えてやるのは難しそうだな。他の誰かと話すのってやつ、それやったら俺めちゃくちゃ嫌なやつになるじゃん。他の人ならまだしも、澪と弘樹は避けられないもんな。
「夏樹、ずっと一緒にいて」
「うん、ずっと一緒だよ」
うーん、律の事も不安にさせたくないし、でもどっちも大事にしたいなんてそんな欲張りな事できない。何かいい考えはないものか。
「そうだ!こうしないか?」
「何?」
「俺は律を安心させる為にキチンと弘樹に言うよ。
その代わりに律はもう弘樹の事を気にしないで欲しいんだ」
「本当に言ってくれるの?」
「言うよ。澪から聞いた事は秘密にしたいからもしかして~みたいな感じで言おうと思う。その方が俺もスッキリするしな。律は出来るか?」
「うん。夏樹がそう言ってくれるなら、今後高城くんの事は気にしないようにする。でも、仲良いの見たらヤキモチ焼いちゃうかも」
「ヤキモチぐらいなら許す。じゃあ早速今日言うから三人で話そうぜ」
「夏樹、ありがとう。本当に嬉しいよ」
嬉しそうに笑う律。きっと弘樹ならしっかり話せば澪の時みたいな言い合いにはならないと思うんだ。俺は律の事が好きで大切にしたい。だから律の悩みの種である弘樹に俺の気持ちを伝えて安心させる方法を選んだんだ。
「それと、ごめんね」
「ん?」
「俺が弱いから友達に言いにくい話する事になっちゃって」
「弱い?誰でも不安はあるだろ。俺の方こそ不安にさせてごめんな」
「夏樹かっこいい」
「本当か?それあまり言われないから凄く嬉しい!」
「夏樹は真っ直ぐで友達想いでとてもかっこいいよ。憧れだよ」
「そんなに言われると照れちゃうだろ!」
「あと、授業サボる事になっちゃってごめんね」
「あ!ヤバい!」
律の事に夢中で授業すっぽかしちゃった!もう始まってるし、先生に怒られるんだろうなぁ。でも律とのモヤモヤが晴れたしいっか。
その後授業が終わるまで律と話しながら屋上で過ごした。
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