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第73話 どうか逃げて

 雅成の体調は激しいめまいに襲われることはあったが、吐血や鼻血などはなく、病気のことを知っているミモザ以外、誰も気付かなかった。  そんな日が続き、雅成とミモザが連れてこられてから、一ヶ月が経った。 「雅成喜べ。わしらの結婚式の日にちが決まったぞ」  歓喜に震えながら、サムナンは雅成を抱き上げる。 「司祭様が星を読んでくれてな、一ヶ月後の満月の夜になった。しかもその時、闇のオークションも開いて、わしらの結婚を大々的に知らしめるんだ」 「本当ですか! 嬉しい!」  サムナンの首に抱きつき喜んで見せたが、恐れていたことが間近に迫っている。  一ヶ月後。  結婚式までに囚われた人達も、拉致され同時に行われるオークション出される人達も救い出さないといけない。  まだ計画を実行するには早いかもしれないが、もうするしかない。  計画の最終段階に進んだ。 「一つ聞いてもいい?」」 「どうした?」 「おもちゃ達はどうするの?」  サムナンの傍で立たされている女性達を指差す。 「特に考えておらんが、どうかしたか?」 「僕がお嫁さんになっても、まだおもちゃが必要?」 「まあそれもそうだが。雅成は嫌なのか?」 「うん。だっていつサムナン様が目移りするかわからないじゃない」  視線を落とす。 「あはは、心配するな。そんなことありえない」  サムナンは豪快に笑う。 「そんなのわかんない。だから……」  雅成は小さく息を吸い込み、 「おもちゃ達を国から追放して」  緊張を悟られないように、面倒くさそうに言う。 「オークションで売ってもいいかなって思ったんだけど、大切なお客様にお下がりは売れないでしょ? だから追放したらどうかなって思って」  楽しいことを思いつたように、クスクスと笑う。 「しかもね、捨てる場所は治安の悪いところがいいな。そしたら、まだ誰かに拾われるかも」  雅成が「名案でしょ?」と付け加えると、サムナンはニヤリと笑い「名案だ」と頷いた。  すぐにサムナンに囚われていた女性達とミモザの追放準備が始まる。  女性達は常に露出の高い服を着せられていたが、雅成が「慣れていなさそうなのが気に入られるかもしれない」と、市民の服装にした。  金品も少し持っていたほうが、捕まった時に利用価値が増えるかもしれないと、お金も持たせた。  女性達とミモザの出国はその日の夕方には整い、夜の船で国外追放となった。  謁見の間で王座に座るサムナンと雅成の前に、女性達とミモザが一列に並べさせられる。 「今までご苦労だったね。またいいご主人様に拾われるといいね」  雅成は笑顔で言ったあと、 「僕のおもちゃにプレゼントがあるんだけど、渡してもいい?」  サムナンに聞いた。 「何をやるんだ?」 「これなんだけど……」  ポケットの中から、中が空洞になっているアナルプラグを取り出す。 「これをね、お尻に入れていたら、もし誰かに拾われた時、一番にご主人様が見つかるかなって思って」  天使のような笑みで悪魔のようなことを言う。 「わしでも売人が喜びそうなそんな凄いこと、思い浮かばなかったぞ。あれは雅成のおもちゃだ。好きにするといい」 「ありがとう。大好きサムナン様」  頬にキスをしてミモザに駆け寄り、 「元気でね」  スカートを捲し上げ蕾にプラグを差し込む。 「い、痛い……ッ」  ミモザの目に涙が浮かぶ。 「泣かないで。すぐに慣れるよ」  そう言いながら、雅成はミモザを抱きしめた。  そして、 「プラグの中に、嶺塚はじめという最も信頼できる人の連絡先と僕のサインが入ったメモが入っている。街に降ろされたら、その街で一番恐ろしそうな人にそのメモを渡して。嶺塚さんが……僕のお義祖父様がきっとみんなを助けてくれる。希望は捨てないで、絶対に……」  耳元で囁き伝えた。 「でも、雅成さんは……誰が……」  ミモザが言いかけたが、雅成は体を離し振り向かずサムナンのところへ行く。 「連れて行け」  サムナンが言うと、彼女達は城から出ていった。 (どうか無事でいて……)  彼女達が国を出て故郷に帰れることを祈り、 嶺塚が人身売買のことに気付いて動いてくれることを願いつつ、雅成の使命は残された時間すべてで、サムナンの気を引き続けることだった。  雅成の寿命が尽きるのが先か、彼女達が助けられ、人身売買が阻止されるのが先か……。  誰にもわからなかった。

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