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最終話 よい夢を
秋も深まった11月。
その夜は、ヒューゴの誕生日を2人きりで祝い、シャンパンが無くなるのを待ちかねたように、ベッドになだれ込んだ。
いつもにも増して、長くとろけるような愛撫を与えられ、この後に起こることを期待しておれの身体はじくじくと熱くなる。
毎週末の逢瀬のごとに乳首を蹂躙され、その射精を伴わない長い絶頂の最中にヒューゴは1本2本と指を増やしておれの内側に強烈な快楽を教えていった。
覚悟していたよりも早くに慣れていく自分の身体が怖かったが、それにも増して喜びが大きかった。
乳首から脳がどろどろに溶けるほどの快感を与えながら、ヒューゴはおれのものをぬるりと咥え、後ろにも指をそっと挿入する。
2本目の指が入ってきた瞬間、少しだけ射精してしまう。
「なんて身体してんの」
「おまえの、せい、だろッ」
もっと、とねだったのはおれだが。
「才能だと思うけどね」
ぜえぜえと全身で呼吸を整えるおれを尻目に、ヒューゴはからかうような笑顔で横臥し、余裕綽々だ。
「苦しい?少し休憩する?」
口ではそう言いながら、覆いかぶさってくる。
「続けて……」
「うん。透の身体も、僕を待ってるみたいだ」
再びつるりと指が入れられ、またぞくぞくと電流が腰に走る。
気持ちいい場所すべてを同時に責め立てられ、何がなんだか分からない状態に、目を閉じてただ身を任せる。
「透。こっちを見て」
目を開けると、荒い呼吸で上体を微かに上下させながら見下ろしている鋭い瞳とぶつかった。
おれの足は大きく広げられ、尻にはヒューゴの脛が差し込まれている。絶対に足を閉じることも伸ばすこともできないようにしておいて、ヒューゴはぐいと自分のそそり立ったものを掴み、先端をおれの方へ向ける。
雄々しく輝く瞳に見据えられ、ぞくりとする。
「おれの中、ヒューで満たして」
そう言った瞬間に内部を広げていたヒューゴの指がずるりと引き抜かれ、衝撃に悲鳴を上げてしまう。
「うあ、あ、」
間髪入れず、ずぷりと熱い先端が入れられたその瞬間、あまりの快感でおれは即絶頂してしまった。
ヒューゴが長くため息をつき、そのままぐっと突き進む。
熱い塊が少しずつ少しずつおれの粘膜を拡張し、その度に快感がビリビリと身体に走る。
「あ、また……、ね、ヒューゴ」
「ん?」
「なか、開かれるの、気持ちい……」
ヒューゴは獰猛な表情で目をギラギラと輝かせ、さらにぐっと腰を押し込んでおれを呻かせる。
「まだしばらく続くよ」とヒューゴが少し腰を揺らす。
「あっ、それ、待って」
快楽の波が何度も何度も押し寄せてくるせいで、いやいやをする子供みたいに頭が勝手に動いてしまう。
「僕にコントロールされるの嫌?」
笑いを含んだ声で言われ、ペニスを掴まれる。
「ね、もっと」
「もっとゆっくり?」
「うん」
「はは、透は美味しいものも、気持ちいいことも、好きなんだな」
「ヒューゴの」
「僕の?」
「どっちも、ヒューゴの、だから……」
大きくヒューゴはため息をつき、先端がぐっと膨らむ。
突然の拡張で今まで以上に押し広げられ、おれは未知の刺激にのたうった。
「ぅあ、あ、なに?」
「危ないな。いかされるところだった」
まだこの先の快楽があることを知らされ、じん、と下半身が疼く。
「透のが揺れてる。想像したんだろ?僕が中に出すところ」
おれは頷くのが精一杯だった。
「かわいいね」
ヒューゴがおれの頭を撫で、また少し奥に入る。時間が経てば経つほど、覚えたての快感への期待で腹の中がぐずぐずになる。
「ヒューゴ、もう、お願い。欲しい」
ズンと奥を広げられ、衝動的におれはヒューゴにしがみついた。
「愛してるよ、透。本当に愛してる」
ヒューゴが口付けてきて、ゆっくりと舌を絡める。
互いの唇の隙間から熱く息が漏れ、それすら欲しくて吸い込み合う。
もう限界だった。
おれたちは絶頂感の崖っぷちに立ちながら飛び降りるのをもったいぶって、もがいていた。
お互いが与え合う快楽で頭の中が焼き切れてどうにかなってしまいそうだ。
***
ぐっしょり濡れた身体を洗い流し、寝具をすべて取り替えてから、おれたちは再びベッドに横たわった。
気だるい身体を、ヒューゴがさらりと撫で続けてくれていて、とても心地良い。
「からだ、平気?」
「うん」
「ねえ、透」
「んー?」
「たとえセックスがなくてもね、キミを好きでいられたら、僕はそれでよかったんだ」とヒューゴが優しく微笑む。
「今は?」
「毎晩抱かせて」と冗談めかして笑う。
「……じゃあ、一緒に暮らそうか?」
人生は一度きりで、そんなに長くはない。労働時間と睡眠時間は仕方がないとしても、それ以外の時間を全て共に過ごしたいと思うのは自然だろう。1秒でも長く触れ合っていたい。
「また先を越された」
「なにが?」
「もうこの先、これ以上は何も言うなよ。プロポーズは僕がするって決めてるから」
「えっ?!いつ?ど、どこで?」
「教えるわけないだろ」
「プロポーズするって先に教えることはプロポーズになんねぇの?」
真顔で聞くおれをヒューゴはくっくとおかしげに笑った。
「違うね。ここには指輪も花束もごちそうも無いだろ。僕の誕生日ケーキは食べちゃった
し。……ね、透。そんなに先じゃないと思うから、待っててくれる?」
「わかった。待ってるよ。……ごちそうか、楽しみだな」
さっそく食い意地を発揮するおれをヒューゴは横目で睨んでみせる。その優しくて鋭い視線がとても好きで、からかうのがやめられないんだよな。
「透に、毎晩おやすみのキスができればいいなって、ずっと夢みてた」
おれの前髪を掬うように頭を撫でながら、ヒューゴがそっと囁いた。
「おれも。毎晩してほしいと思ってた」
「愛してる。これからもずっと」
「愛してるよ」
瞼を閉じると、甘い囁きとキスが降ってきた。
「Goodnight and 良い夢を」
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