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「続いて、『ニューカラーTokyo』にエントリーされている、UniteWave 代表、一条さんにお話をお伺いします」
女性司会者の呼びかけに、響が「はい」と応えステージに上がる。スリーピーススーツは細身のシルエットで、彼のスタイルの良さが際立っている。
ライトとテレビカメラが集まる壇上に立つ響を、壱弥は瞬きする間も惜しむように見つめた。
――ああ。本当に綺麗。
彼と再会してから、そう思わない日はない。
いや。初めて会った日から、記憶の中の彼に対してもずっとずっと思っていた。
「こんにちは。UniteWaveの一条です」
響がマイクを前に話し始めると、場の空気がざわつき、皆の視線が彼に集中する。
「……なにあれ。モデルじゃなくて社長?」
「顔良すぎ」
「身体の半分以上足なんだけど」
近くにいる女の子達から囁き声が聞こえ、壱弥はまるで自分が誉められたような気持ちになる。口元が緩みそうになるけれど、ボディーガードは常に冷静沈着・無表情であれと英司から指導を受けている。奥歯をぐっと噛み、顔を引き締めた。
多くの来場者や報道関係者で賑わう会場では、海外ブランドのポップアップストアオープンのプレスイベント、というものが行われていて、響の護衛と送迎のため壱弥も同行している。
この呪文みたいなイベントがどんな物なのかまるで分からなかったけれど、「新商品を紹介する店を期間限定で開くから、そのオープンを知らせるイベント」だと響が教えてくれた。このイベント内で、コンペのカラーを紹介する時間が設けられているため、一次通過企業は皆参加しているということだった。
響が予定よりも二週間ほど早く迎えたヒートは、結局一晩でその症状を落ち着かせた。オメガになってから、ヒートの期間があんなに大きくズレたのも、一日で終わったのも初めてのことだったらしい。
響の主治医である木之原に診てもらったけれど、身体の数値などに異常はないとのことで、とりあえずは経過観察となったようだ。
「それでは早速ですが、弊社がご提案させて頂くカラーを紹介いたします」
響のよく通る声に合わせて照明が絞られ、会場が薄暗くなった。
壁にかけられたスクリーンにカラーの全体像と、『オメガカラー・Resolve・Sub 』の文字が映し出される。
「カラー名のリゾブル・サブには、『断固たる服従』という意味があります。オメガの私たちが従うべきもの、それはアルファでも他の存在でもなく、自分自身であるということを強く訴え、カラーのコンセプトとして掲げています。……ただ、僕は赤ワインが大好きなので、偉大なるロマネ・コンティの生産者には、服従してもいいかなと思う夜もありますが」
響の冗談に周囲が笑い、壱弥も微笑みそうになってまた唇を噛む。
「この『リゾブル・サブ』は、皆さんの自己主張と自己信頼の強化をサポートするカラーです。その優れたデザインと性能をご説明します」
スクリーンの映像が切り替わり、カラーの詳しい概要が表示される。
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