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第8章 K家倒産(けいかとうさん)

      1  とんとん拍子で出世している。面白くないかなり、  こわい。  後ろばっか気になる。  誰かが足首つかんで引きずり下ろそうと企んでいやしないか。 「後ろめたいことがあるからだろう」KRE社長が嫌味を言う。  こんなのは他愛無い挨拶に過ぎないから本気にしたほうが負けなのだが。  後ろめたいこと。  ありすぎてヤバイ。「あ、昨日だったんすわ。知ってると思ったんで」  例の日。  Xデイ。 「報告はいい。さっさと済ませろ」 「お見通しすか」小細工はやめよう。  どうも慣れない。  元上司のやり方は。「四年も経てば時効じゃないすかね。安心してくれていいんで。俺しか聞いてませんし、それに俺、三歩ですっこ抜けるんで」  逮捕できなかったのは、  俺の。  墓まで持ってく落ち度。 「共犯なんかじゃないんすよね」 「何のことを言ってる?」社長はモニタから眼を離さない。 「とぼけちゃってまあ。社長さん、いんや。おにーさん」  よっしーが。  両親を殺したという証拠が。まったくもって出なかったことがすなわち。  よっしーが、  やったという決定的な証拠に他ならない。俺のない頭で考えた。  四年もかかった。 「いまさら隠す必要もないっしょ?」 「何を言ってるのかわからないが」とぼけている。はぐらかしている。  の類だったら、もっと。  余裕がある。 「そっちこそ今更だろう」社長はキィボードを叩き続ける。「今更のこのこやってきて。わけのわからない質問に付き合っているほど暇じゃあない。帰ってくれて構わない」 「俺が見たのは」放心して座り込むよっしーと。その頭上で、  ぶら下がった。  二体の男女。密室。 「助けを求められたりとかして」着信履歴なんか消されてたが。 「俺が、偽装工作に手を貸したと言いたいのか。腹違いの弟のために」  真実を知りたい。というのはエゴだ。  真実なんかない。この四年で充分に思い知った。  あの黒鬼が。  初代と。先代とその側近を。  殺したとかで出頭してきたあの日に。黒鬼以外の全人類が完敗した。  なにもかもが上を行っていた。  先を見通していた。その眼は。 「なんでなんも言わないんすか」 「言ったところで何がどうなる。あいつは知らない。俺も知らない。それで」  よくない。  俺が。「知らないんすよ。よっしーが」当の本人が。 「知らせてどうなるのかと聞いてるんだ。知らなくていいことを無理矢理に知らせることのほうが」悪。 「知らなくていいってのは社長の判断すよね?なんで社長が決めるんすか」 「あいつがそう言ったのか」知りたい、と。  それは。  確認を取りたくても。「訊くんで」これから。 「結果あいつが不幸になったらお前は責任を取れるのか」 「嫁にもらえってことすか」 「んなことは言ってない」社長は。リモコンで。  外部を完全にシャットアウトする。  照明にも一時休憩を言い渡す。「電話はもらった」 「ほら」やっぱり。よっしーが助けを求める人間は。俺じゃないなら。  兄しかいない。 「指示したんでしょう?これこれこうやってこうすれば」完全犯罪。 「自首を勧めたよ。聞き入れてもらえなかったがな」モニタは休憩をもらえていないので社長の顔が。  いまいち見えない。人工的に眩しい。 「なにもせずに電話しろと言った。お前のところに」指を、  差される。 「次はお前の番だ。電話が行ったはずだが?」  ああ、そうか。  それで。よっしーは。「助けて、てのは」そうゆう意味。  駆けつけてみれば。  駆けつけてみると。 「思い当たったことを言ってみろ。俺の手札は全部見せた」  共犯は、  社長じゃない。共犯は。  俺でもない。  三人。  三人が三人全員で。隠蔽した。よっしーが、  被害者だと。  やってないと。やるわけがないと。 「知らないほうがよかったろ」外部と再びつながる。社長がリモコンで。  人工的でない光が。  眼を射る。 「あんまり会いたくないな。お互い」 「同感すね」  三歩で忘れる。  昨日で終わってたんだった。四年前は。       2  四年前に。なるのかもう。まだ。とっくに、  終わってるんだ。  受付嬢がいささか美人すぎるせいで、本社ビルが一種の観光名所と化しつつある。由々しき事態だ。用のないやつらは帰れ。  そもそも受付嬢という制度自体に反対だった。だから置いていなかったのだ。簡素な事務所に事務員を数人設置すれば事足りる。はずだった。が、  新規で雇った女性社員がどうしても受付嬢をやりたいと。受付嬢でなければ自分の能力が最大限発揮できないのだと。あまりに熱心に訴えかけるので、まあ、やってみろと。言ってしまったのがいけなかった。落ち度は俺にある。  ロビィにうじゃうじゃと。懲りもせず厭きもせず。よくもまあ毎日毎日入れ替わり立ち代わりやってくるものだ。何の企業かわかりゃしない。  しかし、これを逆手に取り、むしろ利用しロビィに。自由に調べものができる情報端末を置いたのは大当たりだった。喫茶軽食という案もあったのだが、やってくる有象無象の性別とその如何わしい目的を加味すれば自ずとそれは却下となる。  それらの思わぬ展開と英断たる発想のお蔭なのか、数字は上昇増加上向きの運びとなった。要するにがっぽがっぽ。会長は左団扇で大喜びだ。結構結構。  重役通用口から車に乗る。  運転手も新たに雇った。お世辞にも丁寧で思慮深いテクニックとは縁遠いが、速い。それだけでかなりの好印象だ。目的地への最短ルートを、最高速で突っ走る。のだと運転手談だが、衝立があり、後部座席からスピードメータが見えないのがいいような悪いような。  駐車場に入る。  大型バスからわらわらと。過ぎ去るまで長いこと待った。  迎えには一旦戻ってもらうことにする。カウントダウンを刻む時限爆弾に尾行されてるみたいで嫌だったし、彼はすでに団体客の都合に苛々の限界を突破している。運転手は「はい」も「うん」もなく元来た道を引き返していった。  風が薄紅の花弁を吹雪かせる。山の中腹といったところ。頂上付近まで連れてってくれるバスはちょうど団体客ですし詰め状態。  仕方ない。頼りない二本の脚を酷使する。  電話が掛かってきた。図ったように。  図っていたのだ実際問題。 「上まで何キロあると思ってる」何キロあるんだ本当に。純粋な質問。 「片手が不自由になるがなあ。我慢してくれや」切らずに登れということだ。  ひっくり返りそうな坂道となだらかな上り坂が無作為に組み合わさる。車一台通るのがぎりぎりなのにばんばん車が下りてくる。タクシーやら業務用のワゴンやら。  左右に展開する家屋は登山客相手の店だけなのかと思ったが、そこを生活の基盤にしつつ、登山客を相手にしようとあの手この手を。休憩の茶屋。土産物兼食事処。 「花見気分で来ちゃいねえかい。社長サンよ」 「前置きはいい」どうも俺の周りのやつらはそうゆう手口が善だと思ってていけない。  さっさと終わらせろ。  俺の時間は世界一高値で取引される。 「単調な道なりを楽しくしてやろうってゆう気遣いでもあったんだがなあ。使いもんになってんか。自慢の手足だ。元、でいけねえが」 「知ってることは訊くな。どうやって生き返った?」 「そちらサンも、知ってるこた訊かんでくれな。優秀なお医者サン紹介してくれたのは、どこの親切な社長サンだったか。是非礼が言いてえもんだなあ」  新規で雇い入れたのは4人。  美人すぎる受付嬢。  高速すぎる運転手。  饒舌すぎる管理人。  冷酷すぎる立案者。  どいつもこいつも数字に貢献してくれて困る。 「もひとつおまけに弁護士はどうだ。公明正大なKREには不要だろがな」 「突き返したらどうなる?決定事項をわざわざ疑問形で訊くな」お抱えるしかない。さぞ有能なんだろうが。  有能すぎる弁護士。 「そーかそうか。よかった。仲良くしてやってくれな。ちょいとばかし真面目すぎる嫌いがあっていけねえが、使えるのは確かだな」真面目すぎる弁護士。 「未遂でも三人を射殺しようとした男が二年で出所()てこれたのはそいつの力か」 「力じゃねえやな。頭だ。使えるってのの裏付けにしかならねえや」電話口に呼気が爆発する。耳障りな。「進行方向に石段が見えてきたろ。そいつを上がって」  なんたら寺。  なんたら、の部分が風雨に晒され消えかけていた。石段も苔むしてところどころが欠けている。崩れ落ちそうな印象しか抱けない古い寺。国宝だか重要文化財だかに指定されているらしいがもう少し手を入れても罰は当たらないと思われる。  薄気味悪い枯れ木があっちこっちに伸び、正体不明の雑草が生い茂る。手入れという概念がどういうわけかこの境内で消滅してしまったらしい。  その廃れた境界で桜だけが妖しく禍々しい存在感を放っていた。境内そのものを養分に花をつけているのかもしれない。  長く留まると生気を吸い取られそうだ。妖しげな美しさに魅いられて。  黒く巨大な影。  桜の樹に背を向けて立ち尽くしていた。電話の類は持っていない。 「そいつも面倒みろとは言わねえが、話くらいは聞いてやってくれな。んじゃあ道案内はこのへんで」切れた。 「俺はここで生まれた」黒鬼の声が言う。  ああ、そうか。やはり、  その無駄にでかい黒い影は。 「んなぼろ寺、潰れちまえと思って出てきたが、本当に潰れるとは」 「お前の出生はどうでもいい」顔を合わせたくなかったので、樹を挟んで反対側に。「二度と会うな。それだけ云いにきた」 「無理だな」 「あいつに人殺しをさせたくない」これ以上。すでに二人。「お前は殺されたいのかもしれないが」そんなのは心中と変わらない。 「俺が嫌いなだけだろ」 「わかってるじゃないか」大嫌いなお前に、  ツネを。  奪られたくないだけだ。嫉妬も甚だしい。 「とにかく、会うことは許さない。このまま静かに消えろ」 「あいつらは?元気でやってやがんのか」元部下。 「お前のとこに置いとくのがもったいないくらいにいい働きをしてくれる。返せといっても無理だ。手放す気はない」 「ならよかった。あいつら、行くとこねえだろうから。その点は感謝する」黒い影が揺らめいた。頭を下げたのかもしれない。俺の気のせいだろうが。  黒鬼が俺に頭を下げる?  天変地異の前触れだ。 「その感謝を態度で表してくれてもいいが」 「惚れてるとしても?」 「知るか。お前の都合は」 「俺じゃねえよ」お前がツネに惚れてるという意味でないとしたなら。  誰が?誰に。  惚れてるって?「言うに事欠いて」ツネがお前なんかに。 「俺はまだ復讐されてない。こいつが証拠にならねえか」  気づいてる。感づいてる。  まさか、当の本人にばらすような真似をツネがするはずがないから。 「俺が憎きゃあいくらでもチャンスがあった。俺の部屋で寝てやがったんだ。俺が眠ってるのとおんなじ部屋でな。俺とおんなじもん食べて、丸腰の俺の傍にいたんだ。時間はたんまりあった」 「お前がその沸いた考え出すのにか」二年あった。  ツネも。  二年掛かった。回復するのに。ぱっと見まともに戻るまでに。 「俺はヨシツネに惚れてる。ヨシツネも俺に惚れてる。そんだけのことじゃねえのか」 「誰が人の弟呼び捨てていいと許可を出した」内容も内容だが。  軽々しくツネの名前を呼ぶな。人殺し。  二年前。  ツネを殺したのは間違いなく黒鬼だ。  二年後。  生き返ったツネはツネじゃない。ツネの皮を被ったツネ以外の。  俺が。お前を大嫌いな理由はここだ。  お前がツネを殺した。  二年前。両親が吊る下がってるのと同じく。ぶら下がった。 「お前が殺したのは三人ばかじゃない」 「だろうな。いちいち数えてねえよ」  会わせたくない。会ったら確実に。  どうなる?  考え得る最悪の結末は。       3  クッキーも煎餅も要らなかった。  お茶受けのつもりだったんだろうが。 「気が利かないんだよね、ホント」カウンタの向こうで店長サンが言う。「ムードもなにもあったもんじゃないんだよ。電気は消さないし、デリカシィの欠片もないし」  コーヒーが飲めないと言ったら、生ぬるいココアを出してくれた。できたらアイスほうがよかったのだが。 「急いでるんじゃないんだよね?」一杯くらい飲んでいけ。そうゆうことだ。  甘い。  飽和砂糖水の味覚実験をやらされてるみたいだった。 「なんか喋ってよ。僕まだ君の声聞いてないんだけど」店長サンがカウンタ上で腕を組む。その狭間で行き場を失っている二つの脂肪の塊が。 「ほんまもんですか?」 「オンナでイけると思ってる?」 「オーナさんのはニセモンやろ?必要あらへんのと」 「好きで付けたわけじゃないんだけどなあ」店長サンが身を乗り出す。メガネのレンズの度の入り具合がわかる距離まで。「嫌な子だね、君は」 「すんません」てっきり好きで付けたもんだと。 「用事は?早く行けばいいよ」店長サンの機嫌価が暴落する。 「やっぱガキはあかんのですやろか」 「接し方がわかんないだけじゃないの?後ろめたさがあるとは思えないし」  ケータイが震えた。  サボってるのがバレた合図。 「ほな、行きますわ」ココアを一気飲みする。「ごちそーさんでした」眩暈がするくらい甘かった。 「次はデートでおいでよ。邪魔してあげるから」店長サンが手を振る。  電話はアホ社長から。  取り立てに行けとかいう。町内会費を。  町内会長サンが困っているだとかで。「払ってくれればこっちだってねえ。いいのよ、見廻りとか当番とかは。私たちもそもそも有志の集まりだしねえ」 「払ってくれへんのですか?」 「それがね」払ってくれと伝えていないらしい。 「そんなん」町内会の存在を知らないんなら。「ゆうたったらええやん。これこれこうゆうわけで町内会費ゆうのがありましてな、て」 「それがねえ」町内会長サンはそこで口籠る。 「村長サンやさかいに?」  あのアホ社長の情報だが。  そのつい先月越してきた町内会費二ヶ月分丸々滞納の男というのは。昨今の市町村合併で村がなくなり、村長の任期を不本意な形で閉じたとかいう。 「こういっちゃ失礼なんだけど、そのね」見た目が鬼のごとく怖いらしい。元村長というよりはむしろ。「あっちの人っぽいのよ。回収に行った子がみんな逃げ帰ってきてるの」 「それをこっちで代わりに」回収して来いと。  KREが多芸だとか揶揄される所以がここいらへんにある。  てことをどうして気づかないんだ。だからお前はアホ社長なのだ。 「お願いできるかしら?」  できるもできないもない。「ああ、はあ。気張ってきますわ。ところでなんぼです?」  町内会長サンは、右手でピースをした。 「二千?」 「二百円」  KREの管理する住居集落の一画にそれはあった。  家賃は中の下といったところか。1Kかそこらの独居専用安アパート。広くはないが狭くもない。手狭に感じてきたら引っ越しという選択肢にすぐ飛びつける。終の棲家にするには情緒が不安定。暫定的で取り替え可能な、無個性の部屋。  家賃は払えているのにどうして町内会費が払えないのか。いや、支払い能力の問題云々ではなくて、単に。情報が行き届いてないだけ。  たかだか二百円のことで。いや、二ヶ月分だから四百円か。  とにかくそれぽっちのことで。  わざわざ俺を使うな。  アパートは二階建て。階段を上がってすぐの部屋。表札が出ていたが難しい名字で読めなかった。  鬼のように(見た目が)怖い元村長。  ピンポンを押した。       K  ピンポンが鳴った。  なんだろう。手紙だったら黙って投げ込んでいけばいいし、書留?宅配便?  そんなものを送ってきそうなやつらに、この住所を教えた憶えがないので。勝手に調べて送りつけた?んなら話は別だが。なんだろう。  テレビがあると問答無用で金を徴収に来るあれか。性懲りもなく。テレビがないと言って追い返したが、そんなにも疑り深いのか。  ピンポンが鳴った。  信用できないなら見ろ、と。わざわざドア開けて確かめさせたのに。どこぞに隠したと思ってやがるのか。そんな面倒なことしねえっての。ねえんだから。  のぞき穴をのぞく。のが面倒だった。 「あ?なんだって」ドアを開ける。  ドアの前に張り付いてたんなら確実に吹っ飛んでたが、そんなの張り付いてるほうが悪い。俺の側に非はない。  心配は特に杞憂だった。 「あのお、すんません。KREのもんなんやけど」その小さいガキは、首から提げてた自己証明をケーサツ手帳よろしく見せつけて。「町内会長サンのご依頼で、町内会費の回収に来ましたゆうわけで」依頼状と銘打たれてる紙を逮捕状のごとく突き付ける。「すんませんけど、先月分と今月分。合わせて」 「いくらだ」とんでもない額が飛び出てくるのを期待したが。  四百円。 「一ヶ月分が二百円やさかいに」 「はあ?んなもんでいいのか」たかがそんなちんけな額のために。  わざわざガキ使って。  何考えてやがんだ。  あのペド社長は。ペドだからか。そうか、なるほど。 「払うてくれます?」 「払うもなんも。そうゆう決まりなんだろ?ちょっと待ってろ」財布に細かいのがなかった。十円だの五円だの一円だのじゃらじゃら。いちいち数えるのも面倒せえ。「こいつで悪いが」 「もってへんの?」 「崩れねえか。だったら先払いでいいや。できねえこたねえだろ?」 「たぶんええと思いますよ。払わんよりはずっと」KREのお遣いは、持参した封筒にそれを仕舞う。「せやけどええの?こんだけあったら」  一万円。  一ヶ月が二百円だから。 「しばらく動くつもりはねえし」行くところもねえし。計算もめんどくせえし。 「まあ、使わんかった分は返すや思いますえ。まいどおおきに」  ドアを閉める。  急いで窓を開けてベランダに。駐車場を横切ろうとしているガキの頭を目掛けて。「次いつ来る?」  ガキが顔を上げる。お前は何を言ってるんだ、と言わんばかりに。  俺だって何を言ってるのかわからない。  でも、  どうしてもそれだけ言っとかないといけなかった。「いつ来る?」 「いつ、て。四年分も払うといて」四年分にもなるのか。  そうだった。  四年だ。 「いつ来る?」  学ランじゃなかったからいけない。学ラン以外は女装くらいしか記憶にない。女装なんかとっくに忘れたが。 「いまからでもええのやけど」ガキはポケットを叩く。町内会費を入れた封筒はそこに。「ちょお多めにもろたし?お手間賃にしよ思うたん?」 「そんなもんなしで来れねえかな」カネもKREも介さずに。「お前の都合でいいから」 「やかましなあ」  村長サン。ヨシツネが笑う。 「近所めーわくやさかいに」       R  やかまし。  くなんかなかった。  やかまし。  かったのは、そっちじゃなくて。  こっちの。  ここらへん。  手を当てる。大丈夫だ。  だいじょーぶ。  なにが大丈夫なのか。  二年も経って。  憶えているだろうか。  取り立てに行ったら手遅れ。すでに一家心中。そんなこと、  日常茶飯事なくらいの数見ている。  見慣れた光景。死のうが生きようが関係ない。  借りた物を返せば、  契約関係は終了する。終了している。  完済している。  復讐を、  復習する。  カーテンを開けて。隙間から。  駐車場。  ああだこうだそうだ、どうだ。  ようやく、  やっと、  ついに。  会えた。会いたかった。  ずっと。  この二年はそのためにあった。  事務所を突き止めて。  待つこと。  忘れた。憶えている。  忘れていたら、  思い出させればいい。  最高のシナリオを。  最上のタイミングで。  窓の外。  あの黒い人が白い頭の人と仲良さそうに笑い合って。  いるのが、 「やかまし」  クッキーや煎餅じゃ償えない。ものが、  あるのだと。  思い知らせたかった。お前のせいで生き残ったのだから、  生き残らせたお前が。  責任を取るべきだ。  残りの人生すべてをかけて。「近くで話したってよ」  落ちる。 「来い」ベランダからずどかんと駐車場に不時着した村長サンが。「てめえの都合は時間がかかんだよ」思い出したとばかりに。  笑う。その顔が、  ここにある。  ここにいる。是にて復讐は完遂される。

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