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第19話 4章 星夜の過去

 だめか……不安が頭をもたげる。  五大流派の中で最後に残ったのが、神林流。ここは所属人数こそ少ないが、歴史は一番古い。能楽から派生した流派で、品位のある繊細な踊りが特徴の流派だ。 「これだ! 間違いない!」  一人だが大声で叫ぶように言う。漸く見つかった! この人物に間違いない。彼が星夜だ。    成瀬が星夜で間違いないと思った人物。秋好香。  神林流から派生した、秋好流の若宗家。そして、次期神林流の若宗家でもある。秋好流自体は弱小流派だが、その本家とも言うべき、歴史ある神林流の宗家を継ぐ人物。それが秋好香。  想像通り、いや想像以上に大物だった。確かに一般では知名度がないが、この界隈に詳しい人物なら知っているだろう。おそらく、母も名前ぐらいは知っているかもしれない。  しかし、これほどの人物が何故自殺を図る? その疑問は後だ。先ずは、彰吾に知らせなければならない。待ちわびているだろう。  成瀬は、すぐに彰吾へ連絡をする。待っていたのだろう、早速明日、彰吾が成瀬の事務所を訪ねることが決まった。  待ちわびていた成瀬からの連絡。 「手ごたえを感じる。詳しいことは直接話す」  その内容に、心が躍る。さすが成瀬だ! 面と向かっては言わないが、成瀬の洞察力と、それを突き詰める能力は一流だ。彼に依頼した時から、それで分からないならどこへ行ってもむりだと思っていた。だから、祈る気持ちで吉報を待っていた。  今すぐにでも、出かけて行って全てを知りたいが、夜に出歩くことは星夜のためにできない。彰吾は、焦れる思いを抑えながら、その晩を過ごした。 「おお、来たな。お前、今頃着来て病院は大丈夫なのか?」 「大丈夫だ。こういう時のために、普段滅私的に働いている。だから、少々抜けても何か言われることはない。で、結果を教えてくれ」  彰吾は前のめりになって聞く。 「まあ、落ち着け。先ずはこれを見ろ」  成瀬は『秋好香』が写るパソコンの画面を彰吾に見せる。一目見て、彰吾は目を見張った。そこへ映っているのは他の誰でもない『星夜』だった。 「成瀬、これっ!」 「お前もそう思うだろ。間違いないだろ」 「ああ、間違いなく星夜だ! 最初に出会った時、この髪型だった。黒髪の長髪。だから女と見紛った」  そこへ映っているのは、男性とも、女性とも言える、いわば中性的な美しい人物だ。あの日見かけた、美しい人。 「で、これは何者なんだ?」 「次の、プロフィールを読んでみろ」  彰吾は、書かれていることを読んでいく。 「なるほど、これくらいの人物なら、確かに母親をお母さまと呼び、世話係いても不思議じゃない。小さいと言えど、秋好流の跡継ぎとして大切に育てられたのだろうな。しかも、今は大流派の神林の次代の宗家。しかし、そうなると性加害者は誰だ? そして、何故これほどの人物が死を選ぶ?」  おそらく、跡継ぎとして大切に育てられ、周囲の人間からも傅かれて育ったのだろう。身の回りの世話を他人に任せ、そういう生活だったのだろうと想像できる。

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