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第45話 8章 絶望

「香さん、急いで病院へ行ってください! 私が送ります」  古城の焦った物言いに、不安を感じる。 「秋好の宗家が、倒れて救急車で病院へ運ばれたそうです。奥様も一緒に病院へ向かわれたとのことです。香さんも急いで」  お父様が! 何故?! 不安を胸に古城の車で病院へ向かう。香の頭に、祖父が倒れたとの連絡で病院へ向かった時のことが蘇る。お父様も……いやっ、縁起でもない。香は、いやな予感を必死に振り払った。  しかし、香の予感は悲しいかな、当たってしまった。  祖父と同じだった。病院へ運ばれた時は既に亡くなっていたと聞かされた。まさか、お父様が……。  香は、物言わぬ父に縋り付いて泣いた。まだ温もりが残っているように思えた。  何故、何故わたしを置いて……早すぎる。 「桜也さんは、神林に殺されたのよ! あなたのことで心労が……最近は全然寝られなかったのよ。薬で無理矢理眠っていたのよ」  母が泣きながら香に訴える。母だけでなく、香もそう思った。優しい父は、今回の騒動に耐えられなかったのだ。自分が助けてと、縋ったのも重荷だったのかもしれない。  香は深い後悔に苛まれた。  深い悲しみのなか、葬儀が執り行われた。秋好には、一年もたたずの再びの葬儀に参列者も言葉がない状態ではあった。  香は、喪主を務める母の横で、立っているのがやっとの状態であった。  流石にその香の状態を見た神林から、一連の行事の一年延期を申し渡され、神林から世間へも公表された。  一年後、香の父の喪中が明けてから、改めて行う、そういうことだった。  しかし、香はもう二度と神林へは戻りたくないと思っていた。  父は神林に殺されたとの思いは、益々強くなる。そのいわば親の仇である、神林へ戻るわけにはいかない。  何より、秋好は父の急死で宗家が不在なのだ。この秋好を背負って立つのは自分しかいない。悲しみに浸っていた香は、徐々に気を奮い立たせた。  初七日法要の後、何度か神林からは一度帰ってくるようにと、話があったが、香は無視した。母も同調して、のらりくらりとかわしながら、四十九の法要を済ませた。  忌中が明け、これからが正念場だ。秋好の宗家として、どうしていくべきか……。すべきこと、考えることは山積みだ。  重圧に押しつぶされる思いだが、負けるわけにはいかない。秋好流存続、それが自分の使命だ。 「香さん、古城さんがおいでだけど」  直接訪ねてきたのでは、応対しないわけにはいかない。香は母と共に、古城が待つ応接室へ行った。 「ご無沙汰しております。葬儀の折にはご参列まことにありがとうございました」 「少しは落ち着かれたようですね。今日は、率直に申しますが、わたしと神林へ一度戻って下さい。お迎えに上がりました」  香と、母の顔色が変わる。 「今からですか……それは、あの……」 「何度も一度戻るようにと要請しましたが……まあ、事が事ですからと思ってきました。しかし、忌中もあけ、一度きちんとご挨拶をするのが筋ではと思います。筋を通さねば、香さんの今後にも関わります」  それを言われれば、反論できない。確かに、忌中が明け、香典返しも本来は持参すべき。祖父の時は、父が持参している。しかし、神林から足が遠のく香は郵送で済ませた。本来、これは不義理な事だという自覚はある。  結局、今から一緒に神林へ行くが、そのまま行ったきりではなく、再び秋好へ戻るとのことで、香は古城の車で神林へ向かった。

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