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[9] 準備

 それからブランディーニ家ではバラルディ家と婚姻を結ぶべく、慌ただしく準備進められていった。  まずは爵位と伯爵領ロッカ平原をレオネに継承する必要がある。レオネは父ランベルトと兄エドガルドから伯爵として必要な知識や、領地に関するあれやこれやを連日叩き込まれた。  これまでも仕事は手伝ってきたので、ある程度わかっているつもりだったが、むしろほとんどわかっていないと言うことがわかった。今全体の何割くらいを自分が把握できているのかさえわからないこの状況にレオネは自分自身が情けなくなった。  レオネがこれから住むことになる王都サルヴィと伯爵領のロッカ平原は、汽車と車で丸一日かかる距離がある。そう頻繁に通えるような距離ではないので、引き続きブランディーニ家は伯爵領に関わることになりそうなのだが。 「頼るのは良い。だけど任せきりでは駄目だ。お前はバラルディ家の人間になるのだから任せるにしても把握できていると私や父さんに知らしめる必要がある。でないとバラルディ家の利益をブランディーニ家が誤魔化し取る可能性がある」  その日もあれやこれやを教えて貰っている時にエドガルドに言われた。 「兄さんや父さまはそんなことしないと思ってますが」  我が家に限って親兄弟の間でそんな騙し合うようなことが起こるのだろうか。レオネには想像も出来なかった。 「血縁者と言えどわからないぞ。私がどうしてもカネに困っていて、お前には分からないだろうと思ったら伯爵領のカネに手を出すかもしれない。もしもそうなったら、私を魔物に変えたのは監視していなかったお前のせいでもあるんだ。私にそんなことをさせたくなかったらちゃんと管理すること。それがバラルディ家への信頼にも繋がる」  没落寸前だと馬鹿にしてきたが、自分が単純に幼稚で無知なだけだったとわかり始めてきた。そして無知な弟に忠告してくれる兄にも頭が下がる思いだ。 「わからないことだらけで落ち込んでいるようだが、そもそもお前が領地の事を知らないのは当然なんだ。父さんも私もいずれ他家の人間になるだろうレオネには情報を開示してこなかった。現に今も教えているのはロッカのことだけだ。だからお前もバラルディ家で知ったことは私や父さんに安々と話してはいけないよ」  季節は晩秋となり木々は色付いた葉を落とし始めている。あと一月もしないうちに雪が降るだろう。二十二年過ごしたこの家や土地ともあと少しで離れなければならない。 「なんだか、寂しいな……」  レオネがポツリと言うとエドガルドはレオネの頭をガシガシと撫で、優しい声色で笑いながら言った。 「何を言ってるんだ。嫌でも頻繁に合うことになる」  年が明けたら王都サルヴィへ移りジェラルドと入籍することになる。まあ、ジェラルド不在で書類上の手続きのみだが……。

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