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第15話 偽りの関係
「シグルドっ、あぁ……そこ、だめぇ……」
シグルドの手がついにリオルの下半身に触れたとき、リオルは思わず身体をビクッと震わせる。
恥ずかしさのあまりに、リオルがジタバタと抵抗すると、シグルドの手が止んだ。
どうしたのかとシグルドのほうを見ると、シグルドはリオルから身体を離し、手のひらで顔を覆い隠すようにしながらうなだれている。
シグルドの指の隙間から垣間見える表情は、ひどく辛そうだった。
「ごめん、リオル……バカなことをした。嫉妬に駆られたんだ。頼むから、俺のことを嫌いにならないでくれ……」
我に返ったようにシグルドはリオルに謝罪し、さっき乱したリオルの服を整え始めた。
アルファは嫉妬深い性だ。それが部屋の片隅に置かれて忘れられた人形だったとしても、自分の所有物を取られることは許せないのだろう。
「ごめんな、ごめん……俺はいつもリオルを怖がらせてばかり。どうしてうまく愛してやれないんだ……」
「シグルド……」
そうか。シグルドはシグルドなりに、政略結婚の妻でも愛そうと努力してくれていたようだ。
でも、努力だけではどうしようもないことがある。
やっぱり抱けないものは抱けなかったのだろう。男たるもの、愛することのできない相手に対して勃たないことは仕方がないことだ。
可愛くない、興味のない妻にはつい冷たく接してしまうものだ。それだってシグルドはリオルを無視しないだけ、まともな夫なのかもしれない。
「いいよ、シグルド。僕はこのくらい気にしないから」
リオルは服を整え、ベッドから降りた。そして立ち尽くしたままのシグルドに静かに近づいていく。
「嫌いになんかならないよ」
シグルドを見上げると、そこには綺麗な蒼翠色の瞳を潤ませて、不安げな表情の美しい顔があった。
「シグルドのために、頑張って偽りの妻を演じます」
リオルはシグルドに抱きついた。
シグルドに嫌がられるかと思ったのに、意外にもシグルドは逃げなかった。
「リオル……ありがとう……」
シグルドはリオルの身体を遠慮がちに抱き締め返してきた。その弱々しさに胸が苦しくなる。
シグルドだって被害者だ。
家のために自分を犠牲にしている。平民の子息だと見下されながらも王立騎士団で立派な成果を上げるように努力し、結婚相手だって好きな人を選びたかっただろうに父親の決めた相手と結婚した。
政略結婚だったのに、夫として慣れない贈り物をしたり、気遣ったり、忙しい中シグルドなりに精一杯やってくれているのではないか。
変な夫夫だけれど、シグルドはたったひとりのリオルの夫だ。シグルドの役に立ちたいと思うし、妻として支えたい。
シグルドに好きになってもらえなくても、抱いてもらえなくても、シグルドのそばにいて支えてあげたいと思う。
やっぱりシグルドのことは、好きだ。
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