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リナリアを胸に抱いて20
再びぐっっと唇に鈴口を押し付けられた透は、口を離してけほけほと咳き込む。
普段の雷なら慌てて謝ったかもしれないが、ベッドの上では違っていた。咳が治まった透をすかさず押し倒し、肉を貪る獣のようにのしかかる。足を乱暴に開かせ、綻び濡れた蕾に己のものを擦り付けた。
透は「ひあっ」と悲鳴をあげた。まだ呼吸が整わずとても苦し気だ。眉を寄せた表情は色っぽくて、もっともっとと責め苛みたくなる。そういう危うげな魅力が透にはある。きっと兄も透のそこに溺れたのだろうと、分かりたくもないのに知れるのだ。
(俺のものだ)
蕾にぐっと頭だけ押し当てた。切っ先を飲み込ませ、引くことを繰り返す。先走りでぐちゃぐちゃと音が鳴る。乳首を指で苛め、情欲を高める口内を荒らす口付けを施したが、それ以上はわざと進めない。焦れた透がきつく、雷の腕を掴む。爪が食い込むが逆に興奮が高まった。
透の前が再び立ち上がり、ゆらゆらと腰を動かす仇っぽい仕草を繰り返す。細身の先っぽから雫を滴り落としながら雷の硬い腹筋をしとどに濡らす。
「透さん、俺の腹、べちゃべちゃ。気持ちよくてしょうがない?」
「い、言わないで」
「……俺は嬉しいよ。透さんが俺で気持ちよくなってくれるってことでしょ?」
「やあっ」
透は雷の腹に自らのものを擦り付け腰を振るのを止めた。代わりに自分の手で高みを極めようとする。しかし雷は唇の端を上げるように嗤うと、その手を掴んで頭の上で張り付けにした。
「自分だけ、イキきたいんだ」
「雷くん、離して」
「俺が欲しいって言って。俺のでイキたいって」
「雷くん……、雷くん」
べろりと胸を舐め上げたら、透は大きな瞳に涙を浮かべたまま、熱に浮かされたように雷の名前を呼んだ。善がる透は雷のものをもっと飲み込もうと腰を浮かせ摺り寄せてきた。
「……ほ、欲しい、雷くんが、欲しいからあ」
「何が欲しいの?」
「い……。意地悪」
はあっ、はあと零す息と甘い嬌声。滑らかな太腿が雷の胴を周り、踵でぐっと背中を押された。焦れた透の見せた大胆な仕草に雷はにやりと笑う。
「俺はね、たまに好きな子、泣かしたくなるんだ」
雷は自分の口をついた言葉に、自分で驚いた。なんとも子供じみた台詞だ。
幼い頃から自立したい、子どもだからと軽んじられたくない、そう気を張って生きてきた。だけど五つ年上の透が、年下の普通の青年として雷を扱ってくれるから、それが心地よくて、無意識にそんな台詞を口走ってしまった。
(……俺、大分キてるな。透さんは甘ったるくて、中毒性のある、危険なベノムだ)
透の眼差しも、震える舌も、滑らかな素肌もすべて、痺れるほど甘い毒となって雷の全てを侵していく。
手に入れたと錯覚したのは気のせいで、囚われているのは自分の方なのかもしれない。だけど構わない。未来永劫、このままでいたい。
透はぽってりと赤く染まった唇を綻ばせ、慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
「雷がそうやって甘えてくれるの、僕……。好きだよ」
「……っつ!」
鈍いようで、おっとりしているようでいて、透には何もかもお見通しなのだ。焦れたのはむしろ自分の方だった。
「透さんの中に、俺を入らせてっ」
「おいで」
招かれた先、奥まで一気に貫いて、天にも昇る程の快感が襲う。
頭の上で戒めていた手を外し、両手の指をぐっと絡めてシーツに押し付けた。突き上げるたびに混ざりあう雷の吐息と透の甘い嬌声。
今度は自らの腹を濡らし、伝う透の飛沫の香りが、互いのフェロモンに混ざりあう。
「らい、らい、すき……」
「俺も、好きだ」
愛したい、愛されたいと強く強く願った相手から求められている。
ああ、ずっと。あの花を胸に中に抱いてきてよかったと。この恋に透が応えてくれた幸せを、雷はまた強く噛み締めていた。
終
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