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第1話 side-朝陽
一夜明けて、朝日を取り込む為にベッドの横のカーテンを開ける
いつも一緒に寝ていた広いベッド
当然のように、琥太郎 の枕と自分の枕が仲良く並んでいる
この部屋に彼だけがいない違和感
今までにも、お互いの仕事で一緒に居ない日は多々あったし、まだ同棲してるわけじゃなかったから、居ないのは当たり前のはずなのに…
なのに、今までとは何かが全く違う
琥太郎 が、もうここには帰ってこない気がする
あと3週間もすれば福岡での仕事も終わって、戻って来てからはずっと一緒に居ようって、同棲が始まるのを楽しみにしていたはずなのに…
気持ちを切り替えようと、洗面所に顔を洗いに行く
鏡に映る自分の顔を見て、余りの酷い顔につい苦笑いしてしまう
昨晩ずっと泣き続け、いつの間にか寝落ちしてしまったせいで、目元は赤く腫れ、涙焼けしている
「酷い顔…。あんな可愛い子が居るなら、オレみたいなのが、恋人とか…」
自分で言っていてツラくなり、頬が引き攣る
泣かないように、涙を隠すように冷たい水で何度も顔を洗った
「はぁ……戻らなきゃ…迷惑、掛けちゃう、よな…」
リビングのソファーに深く腰掛け、天井を眺めながら呟く
何もやる気が出ず、ただ、時間だけが過ぎていく
時計を見ると、12時を少し過ぎたころで、ボーっとして働かない頭で昨晩から転がっているスマホを取る
電池はギリギリ
戻る前に充電するか、バッテリーを持っていかないと…
ロック画面を外す
昨晩伏せて見えなくなった写真と同じ、琥太郎 と旅行に行った時の写真の一部
2人でピースをしている手の部分だけを切り抜いた画素
本当は2人の顔がしっかり映った別の写真をホーム画面にしたかったけど、万が一会社や店のメンバーに見られたら、言い訳しにくい。と思って2人でピースをしている手の部分だけを切り抜いた写真
「コタ…、本当に全部忘れちゃったのか?オレのこと、ずっと愛してるって言ってたのに…」
スマホの画面にポタッ、ポタッと大粒の涙が落ちるのを見つめる
ピポパポピンッ
ピポパポピンッ
不意に軽やかな音を奏でだすスマホ
画面には「司馬」の名前が表示されており、仕事の連絡である事を告げる
「あ、やっと出た!おい竹内大丈夫か?」
明らかに焦った声が聞こえてくる
「……う、うん。大丈夫…」
「大丈夫じゃないだろ、そんな声して」
間髪を入れずに話を遮ってくる司馬につい苦笑いしてしまう
「櫻井 さん、頭を強く打ったみたいだけど、意識とかはしっかりしてるみたいだし、身体も問題はないらしい。
でも……、仕事復帰はすぐ出来るんじゃないかな…
オレも今日の午後の新幹線でそっちに戻るから。
明日にはちゃんと出勤できるから、迷惑掛けてごめんな」
琥太郎 の記憶喪失のことを言いそうになり、慌てて口を噤む
司馬にこれ以上迷惑を掛けるのも悪いし、なにより、今言ってしまうと、また泣いて取り乱しそうになるから…
なんとか普段通りを装って話し続ける
「竹内…、まぁ、大事がなかったならいい。詳しくは戻って来てから飯食いながら聞くから。
お前も無理すんなよ?まだオープンまでは日にちもあるし、こっちはなんとかするから」
同期で入社したのに、先に店長にまでなった司馬らしく、采配も他のスタッフとのコミュニケーションもしっかりしている
彼の声に少し元気をもらい
「サンキュー。戻る時間わかったら連絡する。色々ありがとな」
電話を切り、深く溜息を吐き出す
こうしてても、琥太郎 が帰って来てくれるわけもない
退院の日がいつになるのかもわからない
病院にもう一度行って、先生に話しを聞きに行こうと思ったが、オレは恋人でも家族でもないらしい…
また昨日のように琥太郎 に拒絶されるのが怖くて足が竦んでしまう
「戻ろう…。琥太郎 は、まだ混乱してるだけだろうし、時間が経てばオレのこと、ちゃんと…思い出してくれるはず…」
声が震えるのをなんとか堪え、部屋の空調を切ってから、新幹線に乗るために駅に向かった
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