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第16話

12月に入り、クリスマスや年末に向けて店も忙しくなってきた やっと1日ゆっくり休みを取れたものの、心は全く晴れない あのデートの日を最後に、櫻井(さくらい)さんとは会って居ない お互い忙しいこともあるし、合わせる顔もない 櫻井(さくらい)さんのことは、この1ヶ月で決意が鈍りそうなくらい好きになってしまっていた 憧れはずっとあったけど、あんなに真剣に口説かれたら落ちない方が難しいと思う オレも好きだって言うのは簡単だけど、本当に櫻井(さくらい)さんが好きな人って、オレであってオレじゃないんだって… あのデートの日、あの目を見て確信してしまった オレが好きな人は、前のオレのことを愛してるんだって あの時に記憶が戻っていたら、前のオレの気持ちを憶えていたら… 櫻井(さくらい)さんからの告白に喜んで応えられていたのに… もう終わったことなのに、後悔ばかりが募っていく 立ち止まりたくなるけれど、退職するにあたって色々やらなきゃいけないことはある 有給があるとは言え、年が明けたら新しい家探しや仕事探しを始めなければいけない… やらなきゃいけない事はいっぱいあるのに、何も手に付かなくて、ズルズルと時間だけが過ぎていった 今のうちに、少しでも荷物を減らしておこうと、部屋の片付けをしていたが、お揃いのカップや小物を見る度に手が止まってしまう 彼の衣類が入っている段ボールは、後日彼の家に送るように玄関の近くに置いてある 自分の荷物も、使用頻度の少ない物や使わなくなった物は断捨離しようとガンガンゴミ袋に詰め込んでいった 不意に、また倒れて伏されていた写真立てが目に入る 先日行った神戸の海が一望できる場所 夕陽に照らされながら、少し泣きそうな笑みを浮かべていた彼 櫻井(さくらい)さんと前のオレの大切な思い出の場所 そんな2人の思い出が映った写真を手に取る 「これも、捨てなきゃ…」 バランスが悪く何度直しても前に倒れてしまう写真立て 触ると裏のパネルが膨らんでおり、留め具がキツそうに止まっている 「これ、なんか入ってるのか…」 裏のパネルを外すと、手紙らしきものが出てきた どうやら、これのせいで何度も倒れてしまっていたようだ 涙で汚れた手紙 なんとなく、人の手紙を勝手に読んでしまうのではと躊躇してしまうも、これを書いたのは自分のはずなんだから、自分の手紙を自分で読んで何が悪い!となんとか鼓舞して手紙を開く 『琥太郎へ』 書いた憶えのない手紙 つまり、櫻井(さくらい)さんに渡すつもりだった、記憶を失くす前のオレから櫻井(さくらい)さんへ向けた手紙 『琥太郎、これを見つけたってことは、ココにオレはもう居ないってことだよな。 オレ、やっぱり琥太郎のことが好きで、諦めきれなくって…未練がましくこんな手紙まで書いちゃってる わざわざ送らなくてもいいのに、琥太郎の家に送ってさ…… こんなに人を好きになったの初めてなんだなぁ~って 嫌いになれたらいいのに… 浮気ヤロー!って罵って、殴れたら良かったのに… オレのことはすっかり忘れてるのに、本命のあの可愛い人のことはちゃんと覚えててさ… ずっと一緒にいたのに、浮気されてるの、全然気付かなかった… それとも、オレの方が遊びだったから気付けなかったのかな… オレ、本当にバカだよな… 琥太郎に釣り合わないのわかってんのに オレ、コタのこと好きだ 大好きだ コタ以上に好きになる人なんてもう現れないと思う だから、琥太郎のことは全部忘れて、誰もオレのこと知らない場所に行こうと思う ココに居たら、琥太郎に会いそうだから 会ったら、諦められないから 2人の仲良い姿を見たら、耐えれそうにないから… だから、バイバイ コタ、愛してる。コタだけを愛してる。 この気持ちだけは、誰にも負けないつもり 気持ち悪いよな… ごめん。嫌な思いさせて 好きになってごめん ずっと、気付かないでごめん 本当の恋人と幸せになって』 所々、涙で滲んだ跡がある手紙 何でだろ… 何で、オレも泣いてるんだろ… 離れたくない 一緒に居たい ずっと、ずっと好きで… 琥太郎(こたろう)のことが大好きで… 愛してるって言いたかった もっと一緒に居たいって言いたかった 手紙を読んで、琥太郎(こたろう)への気持ちが溢れ出してくる 会いたい 今すぐ会いたい 別れたくない ずっと、ずっと側に居たい 「コタ…、なんで、忘れてたんだろ…」 涙と一緒に忘れたはずの琥太郎(こたろう)を好きな気持ちが溢れ出してくる 「連絡、しなきゃ…伝えたい。今すぐ、コタに会いたい」

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