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 周隼(ジォウ スェン)と鐘崎僚一は年齢も同世代、裏の世界の同胞として懇意にしてきた為、その息子である(イェン)と遼二も幼い頃からの馴染みとして育ったのだった。  遊びはもとより次代を継ぐ者同士としての交流も深かった。最も顕著なことといえば、幼い頃から強制的に学ばされた武術や語学の合宿などがその一例だ。特に武術に関する訓練に於いては、互いの背中を預け合うほどに信頼し合ってきた仲といえる。  夏休みや冬休みといった長期休暇には、実戦そのものの過酷な環境下で本物の傭兵たちに混じって訓練を受けさせられ、苦渋を共にしてきたものだ。二人、ともに最初の頃こそ牽制し合っていたものの、苦楽を共にする内に互いの良いところも悪いところも理解し合える間柄となっていった。いわば固い絆で結ばれた親友といえるだろう。  そんな遼二が助太刀してくれるならば素直に有り難い。 「そうですか、カネが――。ヤツが一緒なら心強いことです」  (イェン)は遼二のことを『カネ』というあだ名で呼んでいた。『鐘崎』から取った『カネ』である。 「父の僚一には既に了承を得ている。それにな、(イェン)――。今回の件は取っ掛かりに過ぎないが、私も僚一もいずれここの遊郭街の悪しき治外法権を何とかしたいと思っているのだよ」 「――と申されますと?」  それは遊郭の在り方自体を変えたいということだろうか。 「(イェン)――。その昔、日本にも江戸吉原と云われた遊郭があったのを存じているな?」 「ええ、知識の上だけですが」 「その頃も遊女らは女衒(ぜげん)に売られて酷い苦労を強いられてきたとの歴史が残っている。現代になって、むろん色を売る商売が無くなったわけではないが、一方では色よりも芸事や粋を重んじる花街(かがい)の文化が育ってきたことも確かだ。私と僚一は――いずれここの遊郭街でもそういった芸を重んじる花街に変えてゆければと思っているのだ」 「芸を重んじる花街――でございますか」 「音楽、舞踏、政治経済を含めた世情話の相手。色を売る以外の格式ある芸で客を楽しませることのできる花街だ。まあ今すぐにどうこうできるとはむろん思ってはおらぬ。お前さんや遼二の――しいてはその子孫らの世代にはそうなってくれたらいいという思いだ」 「父上――」 「理想の話だ。例えば同じ色を売るにしても女衒(ぜげん)によって強制的に売り飛ばされて来るような者たちを無くしていきたい。そうやって金のカタで望まない苦労を強いられるのではなく、れっきとした芸事の一端として誇りを持った商売処にしてゆきたいのだ」  まあその話はともかくとして、今は(ウォン)の息子を捜し出し、老人を安心させてやりたい。頼まれてくれるな? という父に、もちろんですと言って(イェン)は深々首を垂れた。  数日内には日本から鐘崎遼二もやって来るそうだ。 「やり口はお前と遼二に任せる。ただし、逐一報告だけは上げるようにしてくれ」 「かしこまりました。お役に立てるよう心して努めます」  遼二の到着までに(イェン)の方では改めて遊郭街についての情報を集めておくことにする。と同時に、雪吹冰が通っていた学園にも足を運んで、彼の性質や友人関係などを洗い出すのも忘れない。  こうして(イェン)と遼二による(ウォン)老人の息子捜しという任務が幕を開けたのだった。 ◇    ◇    ◇

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