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「そうだとしても、五年もの間ただの一度もツラを見たことすらねえってのは気に掛かるところだ。人前に出ねえということは、イコール出られねえ理由でもあるか、あるいはよほどの悪事にでも手を染めているか――。ツラが割れちゃ困る何かがあるんじゃねえのか?」  そう勘ぐりたくもなるというものだ。遼二曰く、既によく知った人物であるという可能性もあるのではないかと言う。 「親父さんはどうなんだ。親父さんもその頭目ってのには会ったことがねえわけか?」 「だから治外法権とも言われているんだろうな。実のところ頭目というのは年齢も不詳で、分かっているのは男だということくらいでな。一説には俺やお前の親父と同年代とも言われているが定かではない」 「ふむ、俺もここへ来る前に親父からザッと話は聞いたがな。親父たちの情報網を(もっ)てしてもその程度しか分からんとすればかなり手強い相手となりそうだな。仮に(ウォン)の爺さんの息子を捜し出せたにせよ、連れ帰るには骨が折れそうだ……」  遊郭街が何を(もっ)て外との交友を避けているのか、そこには案外深い闇が存在しているのかも知れない。 「とにかくは上客となってあの街の人間に伝手(つて)を作りたい。その上で各妓楼(ぎろう)の主人か番頭あたりに覚えがめでたい客にのし上がるしかねえ。ある程度心許せる客だと信頼を得たところで、雪吹冰がどこの店子(たなご)であるのかということを――それとなく聞き出せれば御の字といったところだろうな」 「ふむ、どこの店にいるかも分からんのなら道は長い――か。脅して訊き出すのも手ではあるが、()いては事をし損じるというしな」  それ以前に遊郭が実際どういう状況下にあるのかということから把握しなければならない。仮に底知れない闇があるというのなら、雪吹冰の件以外でもそれらを探り出す必要に迫られることも視野に入れなければならない。 「カネ――今回の件は案外取っ掛かりに過ぎないかも知れんと、俺はそうも思っているのだ」 「つまり……爺さんの息子のこと以外にも探らにゃならん何かがあるということか?」 「正直なところそいつは俺にもまだ分からん。何かがあるのかも知れんし、特に何も無いかも知れん。ただ、俺がここへ来てから五年――表立って遊郭街にきな臭い話は上がったことがねえ」 「静か過ぎるのが逆に気になるってわけか」 「波風の一切ない――一見穏やかな水面の下にとんでもねえマグマが渦巻いている可能性もゼロではないということだ」 「(イェン)、おめえ……」  それこそ一見穏やかで落ち着いた焔の視線が、まるでボコボコと音を立てて対流する地殻の(ほむら)を見つめているようにも思えて、遼二もまた覚悟を意識するのだった。 「とにかく――だ。まずは目先のことから取り掛かるしかねえ。雪吹冰という息子を捜し出して連れ帰る。それが俺たちの役目だ」  しばらくは通い詰めで様子見になるだろうと(イェン)は言った。 ◇    ◇    ◇

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