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それからは焔 と冰の婚礼に向けて日々が飛ぶように過ぎていった。
焔 と遼二は父・隼 の元を訪れながら今後の対応を検討。この機会に遊郭街の闇に少しでもメスを入れようと、そちらの方向でも対策が話し合われることとなった。
その助力の為に遼二の父であり、極道・鐘崎組を率いる僚一が組番頭の東堂源次郎 を伴い香港にやって来ることとなった。
焔 と遼二の父・周隼 と鐘崎僚一は、かねてから九龍城砦内の治外法権とも謳われた闇の遊郭街を理想の花街に変えることを目指してきたものだ。これまではなかなかきっかけが掴めずに手が出せなかった遊郭街の裏事情だが、冰の一件を機に少しずつだが内情が分かってきた。
焔 と遼二にとってもまた同様だ。実際にその目で目の当たりにした遊郭街の現状を憂い、闇と言われた部分を取り払うことに強い気持ちが芽生え始めていたのだ。
想像していたよりもはるかに若い少年少女らが誘拐され、教育を受けさせられて無理やり遊女や男娼として売られていく現実も目の当たりにしたわけだ。これを機に、どうにかしてそのような不幸を断ち切り、良い方向に切り開いていければと思うのだ。
とかく遼二にとっては、紫月 という存在に出会ったことにより、何とかして彼の理想とする花街に近付けたいという思いが募っていったのだった。
冰を救い出してからかれこれ十日が過ぎようとしていた。あれ以来紫月 には会っていない。彼は相変わらずにあの街で夜を過ごしているのだと思うと、遼二の胸はわけもなく逸ってならなかった。
この時の遼二の焦燥感を肯定すべく、遊郭街には実にまだ焔 や遼二ら誰もが知り得ない仄暗い闇が蔓延していた。それを知るのはもう少し後のことになるのだが、そこには香港裏社会を治める周一族が本気で腹を据えて掛からねばならない、想像を超えた大きな戦が待っていることなど、この時の誰もが知る由もなかった。
◇ ◇ ◇
一方、紫月 の方でも周家への謝罪金を巡って頭目の羅辰 との擦り合わせに忙しい日々が続いていた。
「頭目 、お達しの通り女衒 に支払う報酬を減らして、とりあえずのところですがまとまった現金を調達いたしました。明日にも周焔 殿のところへ届けがてら謝罪に上がりたいと存じます」
確かに今回の件ではまだ就学中の未成年――しかもこの城壁内に住む冰を拉致した女衒 の行為自体が罪といえる。罰金と称して報酬から差っ引くことはおかしくないやり方だ。女衒 にはそうして灸をくれ、それを謝罪金として周家に渡すのは道理であろう。
ただ、焔 と紫月 の間に於いて、謝罪金というのはあくまで作戦の一環であって、実際に多額の支払いが動くといったわけではない。焔 としては冰を遊郭街から取り返せればいいだけだし、わずかばかりの金など貰ったところで意味はない。とはいえ紫月 の立場からすれば、羅辰 の手前、女衒 が冰を拐って来たことは一大事と思わせなければならないことから、見せかけだけでも大袈裟と思えるくらいの謝罪を行ったという大義名分が必要なわけだ。
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