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二日後、九龍城砦塵集積所――。
「来たぞ。あれが遊郭街からの収集車だ」
業者に化けた焔 と鐘崎父子の三人は、逸る気持ちでそれを待っていた。
「あれぇ? 今日はいつもの連中と違うのな」
収集車の運転手は三人を見てそうつぶやいたが、そこは焔 が上手いこと言い繕う。三人共に普段とは全く違う作業着姿で変装して来たこともあり、運転手も城壁の皇帝だとは夢にも思っていないようだ。
「今日は連中、風邪を患 ってな。俺らが交代でこっちに回されたんだ」
「へえ、そうかい。んじゃ、これ頼むわ」
特に疑うこともなく塵の詰め込まれたコンテナを下ろして去って行った。
「よし、中を確かめよう」
三人でコンテナの扉を開ける。
――と、中には塵 に紛れて目を疑うような光景が飛び込んできて絶句。
なんとそこには遊女や男娼と思われる人間が数人横たわっていたからだ。
「こいつぁ……」
「……どういうこった」
着ている物から察するに遊女と男娼で間違いない。しかも全員が意識を失ったようにして横たわったまま詰め込まれていたのだから驚きもするだろう。
「まさか――死んでいるのか?」
急いで確かめたところ、どうやら死体ではないようだった。
「気を失っているだけだ。息はある――!」
「おい、しっかりしろ!」
揺り起こすと、その中の一人が目を覚ました。
「……あの……あなたが鄧 先生で……すか?」
「鄧――?」
「九龍城砦の鄧 先生が……お迎えに来てくださるとお役目様が……」
(お役目様? というと、飛燕がそう言ったというのか――?)
「お前さん方は遊郭街の者だな? なぜこんな塵 の山の中に埋もれているのだ。お役目様とは飛燕という男のことだな? ヤツから何か言云 っているのか?」
僚一が訊いたが、それとほぼ同時だった。
「鄧 は私だが――あんた方は?」
鄧 と名乗る中年の男からそう声を掛けられた。その鄧 もまた、焔 の顔を見て城壁の皇帝だと察したようだった。
「貴方様は周家の――」
「ああ。周焔 だ。あんたは――? それよりこの連中はいったい――」
「やはり皇帝様であられたか。あんた方は飛燕殿のお知り合いか?」
たった今、僚一が口走った『飛燕』という名が聞こえていたのだろう、鄧 という男はそう訊いてきた。
「いかにも。飛燕は俺の古くからの友だが――。それよりこれはどういうことなんだ。この者たちは見たところ遊郭街の遊女と男娼のようだが」
僚一が問う。
「ほう? あんた方は飛燕殿の友とな……。良かろう。皇帝様もご一緒ということは、あんた方も悪いお人ではないのだろう」
僚一と遼二の二人をちらりと見やりながら、鄧 という男は理由を話そうと言った。その話を聞いて、三人は滅法驚かされることとなった。
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