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それに焔 色といえば大概は赤をイメージさせる――いわば印象としては直球といえる。だが、トパーズならば十一月生まれの誕生石ということで直接『焔 』には結び付かずとも、知る人ぞ知るというか、ひっそりと繋がっているような名前とも受け取れる。その密かな感じがまた意味深と言えなくもない。『白蘭 』にしてもそうだ。焔 の字 である『白龍 』とはすぐに繋がらないように見えて、実は周ファミリーの妻となった者に与えられる証の刺青だ。
「一見、表立ってはすぐにお前さんを連想させるわけじゃねえが、勘の鋭い者だけが気付きそうな何ともねっとりとした感情に見えちまうのは俺の考え過ぎかも知れんがな。それにしても偶然にしては出来過ぎのように思えるんだがな。お前さんはその女を知らねえのかも知れんが、向こうは何かしらの感情を持っているんじゃねえかと勘繰りたくもなる名前だ」
「ふむ……トパーズに白蘭 か。どこかで会ったのか――」
考えられるとすればジュエルに顔を出した際に、女の方では焔 のことを見掛けて、知っているということなのかも知れない。
「気に掛かるのは女の目的だ。単純に考えればお前さんに恋情を抱いているという可能性だが、まったく別の思惑が無えとも言い切れん」
別の思惑とは利権絡みか、あるいはもっと違う目的があるのか――。
「ふむ、もしかしたらその白蘭 という女の裏にもっと別の誰かがついていて、女自身もその誰かに動かされているという線も捨て切れんな……」
だとすれば、本当に利権絡みか、焔 を通して周ファミリーが目当てとも考えられる。
「もう少し探ってみる必要があるが、問題はその白蘭 から直接お前さんへの動きがないことも気に掛かる。仮に女のバックに何かしらの組織か人物がいたとして、お前が目的であれば、女には堂々とコンタクトのひとつも取らせそうなものだがな」
「確かに――。だが、カネ。目的が俺か、あるいはファミリーだとして、冰を邪魔にする理由が分からんぞ」
確かにそうだ。例えば羅辰 のような強欲な悪党が何かを企んでいたとして、冰のような少年一人をわざわざ追い出す必要などないだろうからだ。それどころか都合良く冰を人質に使うこともできるはずだ。
とすれば、やはり恋情絡みだろうか。
「ふむ、もう一度リリーに当たってみるか。あいつもこの世界ではベテランだ。他所の店のホステスのことにも詳しいだろうしな」
白蘭 がどんな女なのかくらいは見聞きしたことがあるはずだ。リリーとしては仕事で請け負った以上、女の名を出すのは躊躇われるところだろうが、既にこちらが白蘭 という名を突き止めている時点でリリーが告げ口したということにはならないだろう。真摯に頼めば何か話してくれるかも知れない。
二人は早速にリリーを訪ねることにした。
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