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 狙うのは(ひょう)の下校途中だそうだ。録音された内容から、ロナルドは(ひょう)の送迎用の車を停めて(シン)(フー)の護衛二人を即効性の催眠剤で眠らせた後、後部座席の(ひょう)をサイレンサー付きの銃にて殺害。その後、近くに待機している女の車で逃亡の予定だということが語られていた。  計画を聞いた(イェン)は、拳を震わせながら抑え切れない怒りをそのままに眉間を筋立てた。  仮に女が白蘭(バイラン)であるなら、彼女の両親はおろか、兄弟親戚に至るまでこれといった事件で命を落とした者はいない。白蘭(バイラン)の身元については当然洗い出していたから事実である。 「ふ――、舐められたものだな。家族を殺されただと? そんな嘘をでっち上げてまで殺し屋を雇い、(ひょう)を亡き者にしようってか」  殺し屋は雇われただけだ。黒幕は言うまでもなく女の方といえる。  (イェン)の怒りはもはや企てを阻止するだけでは到底気が治るはずもない。 「こうなったら殺し屋のロナルド・コックスをこちらに抱き込む。首謀者が白蘭(バイラン)であろうとなかろうと、企てたことは事実だ。身勝手の行く末はてめえ自身で始末をつけるがいい」  (イェン)自らがロナルドを制圧するという。その後、彼には制裁を下さずにこちらに寝返らせ、あとは彼が女を始末しようが、つけ狙おうが、一切関与しないというものだそうだ。殺し屋とて裏の世界の順列は熟知していよう。自分の狙おうとしていた相手が周一族の者と知れば簡単に寝返るだろう。  それにしても許せないのは首謀者の女だ。仮に女が白蘭(バイラン)であるならば、その常軌を逸した感情は確かに狂気じみているとしか言いようがない。恋情自体をとやかく言うつもりは毛頭ないが、告白すらする勇気もないくせにリリーを使って(ひょう)を追い出した挙句、ついには殺し屋を差し向けて葬ってしまおうなどとは身勝手も甚だしい。今回はたまたま事前に企てを知ることができたからいいようなものの、取り返しのつかない事態になる可能性も大いにあったわけだ。  仮に(ひょう)が命を散らされた後に気付いた時のことを想像すると、はらわたが煮えくりかえるなどというものではすまないほどに全身の血が逆流しそうだ。かくなる上は自らの命をかけて償ってもらう他ない。  逆鱗に触れるという例えがあるが、まさに背中の白龍(バイロン)が今にも空中に飛び出しては、烈火の炎で理不尽な企みを焼き尽くしたい気にさせられる。 「(ひょう)を狙うということはこの俺自身――ひいては我がファミリーに面と向かって戦を叩きつけたも同然だ。身のほどを思い知るがいい」  殺し屋に寝返られ、逆に狙われることで初めて自分の愚かさに気付くだろうか。あるいはそれでも気付かずに逃げ回り、また別の殺し屋を雇うなどしてのうのうと生き続けるだろうか。企てた者がどのような行く末を辿るかなど知ったことではない。  (イェン)の怒りのほどが窺える決断だった。

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