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「……ッソ! 誰……」  誰だ――と発する間もなく腕を捻り上げられ車に押し付けられて、ロナルドは苦々しい表情で自分を捉えた相手を振り返った。そこには逆鱗に触れられた龍のように恐ろしげな顔をした男が睨みつけてくる。 「……ッ、(ジォウ)……(イェン)……!?」  それがこの香港を治める周一族の次男坊だと認識した瞬間に、彼は計画の失敗を悟ったようだった。 「ロナルド・コックスだな?」 「クソ……ッ、どうして」  ロナルドとて一応はプロだ。相手が周焔(ジォウ イェン)だと悟ったと同時に抵抗しても無駄だと判断したようだ。 「……俺を()るってか……。ッソ、ツイてねえな」  仕事に失敗した時点で、イコール″後はない″ことくらい彼もまた熟知している。(イェン)の顔を見たと同時に自分の最期を覚悟したようだった。(イェン)はすぐさま彼の懐から獲物を取り上げると、 「()りゃあしねえ」  そう言って、ゾッとするほどの不適な笑みを浮かべてみせた。  ()らないと聞いて、男の方は死よりも残忍な拷問を思い浮かべたのだろう、ただひたすらに「殺せ!」と懇願。だが、(イェン)は首を縦には振らなかった。 「()る必要はねえ。ちょいと付き合ってもらうぞ」 「……ッ、俺だってプロだ……。屈辱はまっぴらなんだ! 頼むから……」 「楽に死なせてくれ――か? そんなことで俺の腹の虫が治るとでも?」 「……ッ、どうしようってんだ」  (シン)(フー)によってロナルドは簀巻きにされ、車へと押し込められた。 ◇    ◇    ◇  (イェン)邸、別棟地下室――。  ここは普段(イェン)が住んでいる邸とは別の、極秘密裏の棟だ。がらんどうの地下室は薄暗く、見るからに怪しい雰囲気が漂う――一見拷問部屋のようなところだった。今回のことに限らず、何か不穏な動きがあった際に聴取を兼ねて詰問する部屋といえば聞こえはいいか。要するに拷問部屋というのは当たっている。  (ひょう)を無事に邸へと送り届けた(リー)が合流して、報告を耳打ちする。 「(ひょう)さんのことは(リゥ)以下数人の者たちに護衛を任せておりますのでご安心を」  加えて、遼二(りょうじ)から事の次第を聞いていた紫月(ズィユエ)が、父の飛燕(ひえん)と共に万が一の事態に備えて邸に駆け付けてくれたそうだ。彼らが付いていてくれれば警護はより強固だ。(イェン)はご苦労だったと言って微笑を浮かべた。  簀巻きにされたロナルドは(イェン)の側近たちによって連れて来られ、椅子へと固定される。まさにこれから惨い仕打ちが待っていそうな気配にロナルドは全身を震わせた。 「マジで()るんなら早くしてくれ……」  既に覚悟はできていると、うつむいたままギュッと瞳を閉じている。 「()りゃあしねえと言っただろうが。それより顔を上げろ。二、三訊きてえことがある」  ロナルドは恐る恐る上目遣いで(イェン)を見上げた。 「経緯を話せ」 「……経緯?」 「お前さんが個人的な恨み云々であのボウズを狙ったんじゃねえことは知っている。誰に頼まれた」 「誰って……」 「″守秘義務″なんざインテリが使う綺麗事は通用せんぞ。それに――今更依頼者に義理立てしたところで、お前さんには何の得もねえ」 「クッ……」 「一緒にホテルに泊まった女が依頼者か? それともあの女はお前さんのパートナー――ではあるまい?」  女のことまで調べがついているというわけか。ロナルドは観念したように重い口を開き始めた。

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