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番外編 未明の深森 昼下がりの卯乃 8

「ちょっとじゃないよ! たくさんだよ! 会いたかった」 「おい、俺汗かいてるからやめとけ」 「いいんだもん。深森いい匂いだから気にしないよ」  ほらね、といわんばかりにちゅ、ちゅっと頬に吸い付く。言葉とは裏腹に深森のふっさりしたしっぽも卯乃の太ももにからまり撫ぜる。  お互いこそばゆそうな仕草をしつつも気持ちが昂りそうになってしまう。  玄関先でそれは無いだろうと思ったのか、卯乃の肩に手をかけ少しだけ身を離すと、深森がレジ袋を卯乃に向かって差し出してきた。   片方にはコンビニの冷やし中華とおにぎりがごろごろして入っていて、もう片方には水滴が沢山ついたペットボトルとアイスクリーム。もちろん卯乃の大好きなプリンも入っている。 「わ、沢山だね。オレも半分出すからいってね」 「いいよ」 「付き合ったからってそういうの、ダメ。オレたち同い年だし、オレは実家暮らしでバイトもしてるし。深森は寮住まいで仕送りしてもらってて、サッカーがあるから殆どバイトできないだろ?」    北にある深森の実家はかなり裕福な家柄らしいのだが自分で稼いでいるわけでないのだから、無駄遣いはして欲しくない。ふわふわしているように見えて、中身はわりと堅実な卯乃だ。 「バイトならしてるぞ」 「初耳!」  初耳、といったら連動するように耳が揺れたので深森がそれを見てクスリと笑ってきた。 「こっちで地元の食材をアピールするアンテナショップがあるから、そこで仕事しながら実家の家業の商品も下ろさせてもらってる。地元の企業の人達と一緒にこっちの産業イベントでたり……」 「そうなんだ!」  友人としての期間も三か月程度だし、なりたての恋人はまだまだ知らない事ばかりだ。  卯乃は差し出されたレジ袋を片方だけ受け取る。深森は靴を脱ぐと、重たい荷物を片手にもったままなのにひょいっと卯乃の尻の下に手を回して片手で抱き上げ、ちゅっと唇に口づけてきた。  卯乃ははにかみながら「ふへ」と吐息をついてぽおっと頬を染めた。 「昼めし遅くなってごめんな。身体大丈夫か?」   「大丈夫だよ。ゆっくりしてたから、深森こそこんなに暑い中自転車で走ってきたんでしょ? 麦茶入れるからたくさん飲んでね!」  今は少し日が陰ったが、外は真夏の炎天下だったというのに、自転車を漕いで往復してここまで戻ってきた深森にと違い、卯乃は午後からのバイトも休みにしたうえ、家でずっとごろごろしていたのだから申し訳ない気持ちでいっぱいになった。  あのあと卯乃は布団から出てシャワーを浴びたものの、身体から気怠い熱が抜けきれずにいた。あれこれ汚れてしまったので思い出しては頬を染めながら、洗濯ものを屋外の物干し台まで登って干した後は再び畳の上でごろごろしていたのだ。 「すごく暑かったよね。ごめんね。シャワー浴びる? すぐ練習戻る?」 「シャワーか」  卯乃を抱き上げたままダイニングを通り、食卓テーブルに二人そろってレジ袋を置く。冷蔵庫に入れるものが気になったが深森は卯乃を放そうとしないのだ。 「一緒に浴びるか?」

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