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第65話
翌朝目を覚ましたのは既に陽も高く昇ったお昼時でぼやける視界一杯にスヤスヤ眠る綺麗な顔が広がって壊れ物に触れるようにその頬をなぞった
(寝てると幼く見える、、)
ぐっすり寝ていたのか脳はやけに冴えていて昨日の情事を思い出すと顔が熱を持つ
(俺、昨日桜と、、、)
友達としては過度なスキンシップをしていた気がするがそれも若気の至りというか、悪戯やじゃれ合いの延長線のようなものだと思っていたが故にはっきりとそういった行為を行った事実が胸をキューッと締め付ける
(心臓もたない)
慣れないこそばゆさに呼吸が苦しくなってきてこのままでは起こしかねないと脱兎の如くベッドから抜け出した
「はぁー」
リビングで落ち着くように深呼吸を繰り返すと酸素を取り入れる方法を思い出したかのように心臓が落ち着いていく
(、、散歩でも行こうかな)
気を紛らわす為には外に出るのが1番だと近所のコンビニにでも出掛ける為に軽く洗面所で身なりを整えてカメラをぶら下げると外に出た
(ていうかセックスって身体痛くないんだなぁ)
身体は絶好調そのもので強いて言うならば後ろに少し違和感を感じる程度だ、昨夜の気持ちよかった事と普段見慣れない色気に満ちた桜の顔のギャップが脳裏に浮かんで下腹部がズンッと甘く響く
(いやいやいや、、アイス買って帰ろ)
ブンブンと首を振ってこんな所で何を想像しているんだと自分を戒める、アイスケースからピンクのパッケージをした半分に割れるアイスを手に取ってレジに向かう
「あぁ、〜番と〜番ください」
「こちらでよろしいですか?」
カウンターに並んだ赤と青の箱とアイスが袋に仕舞われて受け取ると軽快な音を立てる自動ドアから蒸し暑い外気に身体を包み込まれた
カシャッ
「あっつ、、」
建物の隙間から全体を覆う入道雲をファインダー越しに収めてフィルムを巻く、ほんの数分日光に晒されるだけでじわじわ滲む汗に早く帰らなければアイスが熔けてしまうと帰路を急いだ
「ただい、、」
桜はもう起きただろうか、もしも起きていたらどんな顔をして会おう何て考えながら開けた扉、帰宅の言葉を言い切る前に弾丸のように身体が飛んできて俺を抱きしめた
「うっぉ、ビビったぁ、何なに」
「こっちのセリフなんだけど!」
「え?」
驚きに上げた声が倍の声量で返ってきて抱きとめた背中はプルプルと小刻みに振るえて荒い呼吸が耳に伝わる
「はぁ〜もぉ心配した、起きたら何処探してもいないし」
「ご、ごめん?」
まさかこんな数分でここまで動揺させてしまうとは思ってもいなくて反射的に謝罪した
「スマホも置いてくし、嫌われてもう帰ってこないのかと思ったじゃんん〜」
「ちょっとコンビニ行ってただけだよ」
大袈裟なと思うがその慌てっぷりに思わず口から笑いが溢れてしまう、そんな俺の顔を眉間を寄せながら覗き込んで手首を掴むとリビングに引き摺っていく
「ほら、桜の煙草」
「一緒に行ったのに、、」
「ごめんって、今度は多分起こすよ」
「多分って!も〜」
ガサゴソとビニール袋から煙草を取り出して放り投げるとしょぼくれてるにも関わらずちゃんとキャッチして少し感動してしまう
「嘘嘘、一緒に行こ、はい半分こ」
「絶対だからね、起こさなかったら今度から次の日起きれなくなるまで抱くからぁ」
ガクガクと肩を揺さぶってくる顔は真剣で怖い目をしているのでご機嫌を取るように半分にしたアイスを強制的に口に突っ込んだ
「ほんなんで許されると思ってるでしょぉ」
「そんなに怒ってんの?」
「怒ってる、、、心臓止まった」
「そらー生きてて良かった」
渋々口をモゴモゴさせながら覆い被さってきた桜が俺の頭を滅茶苦茶に掻き回して手の動きが止まると視線を上げてそのジト目を見つめる
「うっわ、てきとー悲しー傷付いたぁ、もうやってけない〜」
死んだフリなのか全体重を預けて肩に乗った頭は微動だにせず脱力している
「ごめんってー、機嫌直して桜」
「キスしてくれたら直る」
いつまでこのままで居るつもりなのか焦った俺は背中を軽くポンポンと叩いて許しを乞う
「目、閉じてよ、恥ずかしい」
「やぁだ、ほら、早く」
ムクリと起き上がった上体に睫毛が触れ合う程の至近距離で昨日の余韻を残したような気怠くて甘い瞳が絡み合って心臓がドクドクと激しく脈打った
チュッ
「んぅ、、おい、さくら」
思い切りが大事だと目を閉じてぶつかるように押し付けた唇は離れる前に噛み付く勢いで追いかけてきた口に奪われ深く絡み合う
「はぁ、、はぁ、、」
「フフッ、桃の味」
「ばか」
あっという間に酸素を絶たれ上がった呼吸に満足したようなニヤケ顔で舌なめずりをする男
「あ"〜ぁ、1回シちゃうとさぁ、歯止め効かなくなるよねぇ〜」
もう一度顔を隠すように俺の肩にコテンッと乗った小さな頭を包むように撫でる
「、、壊しちゃいそうで怖い」
「桜」
珍しく自信の無い言葉に顔が見たくなって赤い髪の毛と共に頬を両手で掬い上げた
「本当に壊れるかどうか試してみる?」
「ッ、、、」
ゆらゆら揺れる瞳に余裕に映るような笑顔でその薄い唇に噛み付いた、下唇を柔く歯で噛んで鼻の頭どうしが擦れ合う
「コミックの世界だけだと思ってたけどまじで鼻血でそ」
「は?まじ?」
鼻を押さえて蹲った桜にビックリして慌ててローテーブルからティッシュを抜き取る
「大丈夫?」
「だいじょばない、いつからそんな子悪魔になったの」
まさかの事態にケラケラお腹を抱えて笑う俺と恨めしそうな顔を向ける桜
「悪魔の教え?こんな俺は嫌い?」
コテンッと首を傾げて見上げるように顔を覗き込むなんてこんな事が出来るようになったのも全部君のおかげ
「はぁ〜、好き大好き、一生愛す」
「フハッ、俺も〜!」
今日一の盛大なため息と共に吐き出された言葉に顔と身体の筋肉が一気に弛緩して俺の顔は今とんでもなくだらしない事になっているだろう、これからはいつでもこの少し大きくなった胸に飛び込んで帰って来るのだと安心する
俺達は無謀で、不器用な14才で何もかも拒絶して置いていかれれば置いていかれるほど無理に背伸びをしていた
身長も身体も少し大きくなって声が低くなって、それでもまだまだ悩みは尽きないけれど不安に負けず大切な物を大切に出来るような人間になりたい
もう少しで16才の夏が来る、いつか桜と1匹の黒猫が待つ本当の温かい場所に帰れますように
俺達が自由を手に入れる日までもう少しこのまま箱の中で寄り添って生きて行く事を許して欲しい.....
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