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第25話 パンと赤ちゃん
パンを作りたくなった。
生まれた男の子の赤ちゃん──充希 はすくすく育ち、腕や足がモチモチしていて可愛い。
紬はスーパーで見たパンを思い出す。
自分もあんなパンが作れるようになりたい。
けれど、フワフワでモチモチなパンを作るには独学じゃ難しいだろう。
しばらくの間ウーンウーンと悩んで、悩み続けて、それが遂に恭介にバレた。
「で、したいことって何?」
「……パン作ってみたい」
「パン?」
「う、うん。あの……子供の手足ってモチモチしてて、パンみたいで……作ってみたいなって……」
恭介はもっと大きな事で悩んでいるのかと思っていたので、目をパチパチさせる。
「パン……作っていいんだよ……?」
「ぁ、違うくて……。あの……作れないから、教室に行きたいなって……。でもお金かかっちゃうから……」
どうやら紬は本格的なパンを作りたいようで、恭介はやりたいことをさせてあげようと大きく頷いた。
「したいと思ったことは、そう思った時にするべきだよ。お金のことは気にしないで。」
「……でも、充希もいるし」
「俺もいるよ?一人だけで抱え込まないで。」
「……いいの?」
「もちろん。あ、できれば君の作ったパン、ちょっとだけでいいから食べたいな。」
恭介はそう言って紬の背中を押す。
紬はなんて素敵な人と番になれたんだろうと嬉しくなって、ありがとうと言いながら彼に抱きついた。
■
紬がパン教室に通い始めて早一ヶ月。
なかなか思うようなもちフワを再現できずにいた。
何度も充希の腕と出来上がったパンを見比べる。
見た目のもちもちさが全く違う。
「おーい、そろそろ寝るよ。」
「ん……」
恭介は夢中になってパンを作る番に苦笑しながら声を掛けた。
一緒にベッドに入り、紬をそっと抱きしめる。これはいつもの体勢なので紬も気にせずに、明日はこういう配合でやってみようと考えながら眠りについた。
■
そしてついにその時が来た。
夜、九時前。
紬の「わーっ!」という小さくても興奮している声に驚いて恭介は読んでいた本から視線を上げ、そちらを見た。
「ね、ねっ、見て!見て見て!できた!」
「え?」
「もちふわ!再現できた……!やったぁ!」
充希の横にパンを並べている。
そして達成感から両手を上げバンザイしている紬。
恭介はスッとスマホを取りだして、その光景を写真に収めた。
だって可愛かった。もう既に眠っている充希も、バンザイをして喜ぶ自分の番も。
それから恭介はニコニコ微笑み、二人の傍に寄る。
「思った通りにできた?」
「うん!ほら!」
「わあ、すごい。美味しそう……」
「明日の朝、一緒に食べよ……?」
「うん。楽しみだなぁ」
いつも以上に笑顔の紬が愛らしい。
思わず強く抱きしめると、紬もテンションが上がっているので恭介を強く抱きしめ返した。
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