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第1話
モデルリエーフ×社会人夜久のお話。
喧嘩した。そもそもそれは何から始まったかと言うと、単なる言い合いからだった。
「マスカットのケーキは巨峰のケーキよりも高いか否か」
「今はマスカットじゃなくてシャインマスカットだろ?」
「え、でも普通のマスカットもありますよね?」
「いやあ……今あんまり聞かないし、巨峰のもあんまり見ない気がする」
「夜久さん、いつもイチゴのばっか食べてるから気が付かないだけなんじゃないですか?」
「俺、お前じゃないんだからなっ。自分のだけ見て買うとかないからっ」
「え、俺だってブドウばっか見て買ってるわけじゃないですからっ」
「だったらいちいちそんなこと聞くなよっ」
「だって」
「だって何だよ」
「……もう、いいですっ!」
これが一週間前の出来事だった。
〇
あれからリエーフからの連絡はない。
お互い仕事してるし、忙しいのは聞いてて分かってたからむやみに会いたいとかも言っちゃ駄目だよな……と言う気持ちもあって連絡出来なかった。でもさすがに一週間何の音沙汰もないとちょっとだけ心配になるのも事実で。夜久はスマホを取り出してはしまうと言う仕草を何度もしていた。
「どうすっかな……」
連絡するのは簡単だった。だけどそうすると、こっちが負けたみたいな感じがして、連絡出来ない状態が続いていた。
「元気か? とか、どうしてる? とか、……そんなんでいいはずなのにな……」
分かっているのに、いざとなるとなかなか行動に出来ない。そんなことを繰り返している内に修業間近のアラームが鳴って職場に歩く。
彼の職業はスポーツメーカーの営業だった。主にバレーだが玉競技が全般で、いわゆるボールを売る商売だった。ボールは各種目日々進化していて国際ルールを基準にどんどん変わっていくために学ぶことがいっぱいで……それを把握理解するだけで賢明な毎日でもあった。それに比べてリエーフの職業はモデル。彼はともすれば夜久よりも急流の中、生きていかなくてはならない職業でもある。だけど夜久にはそこのところがまだちゃんと分かっていなくて、ただただ煌びやかな世界で笑っているとしか映っていなかった。彼は彼の世界で足掻いているのだと上辺でしか分かっていなかったと言ってもいい。
「夜久さん、企業チームの視察そろそろ行かないと」
「ぁ、悪い。今支度するから」
「夜久さん、疲れてます? 最近覇気がないですけど……」
「うん? そんなことないよ。ただ、ちょっと……連絡するにしてないだけの相手がいるだけで……」
「それはちゃんとしてあげないと、夜久さんも落ち着かないでしょ?」
「ぁ、ああ。そうだな」
同僚に言われて苦笑するしかない案件に気持ちを決める。夜久は出かける前に彼に「まだ日本にいるだろ?」と連絡していた。で、却ってきたのは「います」と言う一言だけ。
「会いたいんだが」
そう打つのが精一杯だった。そしてすぐに返事か来る。
「今日、とか大丈夫ですか?」
「……いいけど」
「だったら今日。午後八時に夜久さん家に行きます。ちゃんと家にいてくださいよ」
「……分かった」
〇
「……」
案外簡単に事は進み、今日会うことになった。
「これって、これでいいのかな……」
とっさに思いはしたが、事態が進むのは悪いことじゃない。まずは会ったら「大人げなくてごめん」と謝らなくては、と心に決めた夜久だった。
そして八時。約束の時間。
本当は相手先と食事会と言う腹の探り合いがあったのだが、そこは同僚に任せてほぼ定時で帰ってきた。帰ってすぐに部屋の掃除をしてちゃんと風呂にも入って相手を迎える。
時間通りにチャイムが鳴って彼が来たことを知らせた。
「待って。今開けるから」
そして一番最初に目に飛び込んできたのは、マスカットとイチゴがふんだんに乗った大きな四角いケーキだった。
「ぇ……」 なにこれ……。
「ハッピバスディ、夜久さん」
「えっ?」
「明日、夜久さんの誕生日ですよね?」
「そう……だっけ……」
「やだなぁ。夜久さん、自分の誕生日忘れてるよ」
グイッと手にしたケーキを押し付けて笑顔で部屋に入ってくる彼。
「だから聞いたじゃないですか、マスカットと巨峰、どっちが好きですかって」
「?」
「だって俺も一緒に食べたいから。でも俺まだそうそう高給取りでもないから。でも夜久さんの好きなイチゴだけは譲れないですからね」
「……だったら大きさ変えればいいんじゃないか?」
「夜久さんの誕生日ですよ? だったらなるべくデカいの頼みたいじゃないですか。だからマスカットか巨峰の選択をですね……」
「いいから。もう分かったから」
「お誕生日、おめでとうございますっ」
「ぁ……りがとぅ…………」
しかしデカい。
コス〇コで売ってる四角いケーキくらいあるんじゃないかと思うほど渡されたケーキはデカくて、その場にいるのは二人だけで、いったいどうやってこれを食べ干せと言うのかと聞いてみたくなるほどだった。
たぶんこいつはケーキの大きさが自分の気持ちと比例すると言いたいんだと思う。だけどこれを全部食べ干すだけの度量は俺にはないっ……。
キッチンのテーブルにケーキを挟んで向かい合って座るとドンッと1.5リットルのペットボトルを置かれる。
「グラスを」
「ぁ、ああ」
言われるままガラスコップを用意するとドリンクを注がれて、そこに赤いストローを差された。
「?」
「ナイフとか皿とかフォークとか。ぁ、俺が用意するんで、夜久さんはどこにあるのかだけ教えてください」
「ナイフは包丁がキッチンのドアの内側に、皿はそこの棚に……フォークは俺が出す」
「分かりました」
結局二人で用意をして、再びまた向かい合う。大きなケーキにろうそくを立てて吹き消す。ケーキの味は不味くはなかったが、よく分からなかった。
「お前、こんな無駄遣いすんな」
「一年に一回ですよ? このくらいしてもいいでしょ?」
「食べきれないってこと」
「……分かりました。次はちゃんとホールで買ってきます」
「うん」
「……」
「でも、ありがとな。わざわざこんな……」
「ぁ、待って。もっと気にして欲しいことが」
「なに?」
「これ」
「ん?」
「赤いストロー」
「それが、何?」
「ほら、aik〇の」
「?」
それだけ言われても分からなくて首を傾げていると、スマホでaik〇のストローと言う曲。
「君にいいことがあるように」と言う歌詞を聞かされて「ぁ、ごめん。すぐに気づけなくて……」とこっちが謝るはめになってしまった。
「いや、知らないんならいいんですけどね。これが俺の気持ちって言うか。まああの、ほら、厄除けですよ、これから一年の」
「……うん。ありがとぅな」
「夜久さん。俺、明日からまた海外なんです。だからケーキは今日だけど、プレゼントは来月帰ってきてからでもいいですか?」
「気にすんな。別にケーキだけでも」
「駄目です。今度は指輪買って来ますんで、サイズ教えてくださいっ」
「ぇ……。分かんないんだけど、サイズなんて……」
「だったら適当に買ってきますよ?」
「いいけど……なんで指輪?」
「俺の気持ちとして。前よりちょっとは稼げるようになったんで、ここいら辺で意思表示をしておかないと、誰かに持って行かれるんじゃないかとヒヤヒヤしてるんですよ?」
「俺が?」 そんなわけないじゃん。とは思ったが、相手はそうは思っていなそうで、まっすぐに見つめてくる眼差しが痛いほど真剣だった。
「はいっ!」
「……困る。そんな真剣になられても……」
「本気も本気ですよ。それ以外に何があるって言うんですかっ」
「でも俺とお前じゃ違い過ぎるっ……」
「何がですか?」
「だってほら、お前は世界で通用するモデルに着々とだな」
「それはそうなるように努力してるんで。でもそれとこれとは別の問題でしょ? 夜久さんだってまだバレーと繋がってて凄いと思います。社会人バレー、やってるんですよね?」
「ああ。でも年々厳しくなってきてるよ。なかなか上位に行けなくて……」 お前がいれば……なんてチラッと思ってしまってから頭を横に振る。
「夜久さんは本当にバレーが好きなんですね」
「どうしてかは分かんないけどな」
「俺はそんな夜久さんが好きですよ」
「……」
「キス、していいですか?」
「駄目っ」
「ぇ……」
安売りなんかしないぞ、と言う面持ちで相手を見ると、あからさまにガッカリするような態度をされて思わず笑ってしまう。
「ばかっ」
「ずるいですよ。夜久さん俺が夜久さんのこと好きって分かってるくせに」
「俺だってお前のこと好きだよ?」
「でも俺のほうが夜久さんのこと好きだと思いますっ」
「そうかな……」
「証明しましょうか?」
「ぇっ……ぁ」
ケーキ越しに手を取られるとアッという間にテーブルのこっち側に引き寄せられ抱き締められていた。
「夜久さん」
「……」
「少しは俺の気持ち分かってくださいよ」
「……分かってるよ」
「でもっ」
「分かってる。自分の気持ちもちゃんと分かってるからタチが悪いんだろ?」
苦笑しながらも相手の首に手を伸ばすと唇を重ねる。
「んっ……んんっ……ん」
「夜久さんっ。ちょっとすっ飛ばしていいですか?」
「ぇっ、あっ!」
そう聞いた端から抱き上げられたかと思ったら、もう彼は歩き出していて寝室のドアを開けるとベッドに直行していた。極力そっとベッドには置かれたがその顔に余裕はなくて覆い被さられて生唾を飲み込んだ。
「ケーキも心配ですけど、それより先に夜久さんをいただきたいです。いいですか?」
「ぅ……うん……」
返事をするかしないかでもう唇が降りてきて、さっき夜久が彼にしたのよりも数倍濃厚なキスをされていた。
「んっんっんっ」
口の中で彼の舌が暴れまわる。舌で舌を絡ませて吸われながら体中を弄られる。
着ていたシャツを引き抜かれて乱暴に素肌に指を這わされるとゾクゾクが止まらなくて鳥肌がたった。そしてキスで口内を犯されて、そちらに気を取られていると下半身はすでに裸にされていて股間やそのもっと奥を弄られる。
「ふっ……ぅぅっ……ぅ」
「あなたが好きですっ。誰にも渡したくないっ」
「分かってるっ。分かってるけど……ぁっ……ぁぁぁ……ぁっ」
我武者羅に突進される。まさにそんな感じで受け入れる体勢を気持ちよりも先に取らなければならなかった。下半身だけ裸なまま両脚を担がれて、それから慌てふためいて相手が下半身を晒す。こっちを気遣って自身にゴムを被せると先端を秘所に押し当てて、そのままジェルの力を使って押し進めてきたので、その圧迫感に息が詰まる。
「ばっ……かっ! やめっ……」 余裕なさ過ぎっ!
バンバン相手の肩や背中を叩くとやっと動きが止まった。でもその時にはもうすっかりモノは根本まで入っていて嬉しそうな彼の顔が間近にあるだけだった。
「すんませんっ」
「動くな。もっ……ちょっとはこっちの身にもなれって」
「痛い……ですか?」
「そうじゃなくて……」
対格差からも分かるように夜久はいつも許容範囲以上のものを受け入れている自覚がある。だから体をごまかすためにも、その大きさに慣れるまでちょっと待って欲しいと思った。
「キツイですか?」
「分かってんじゃんっ! そう思うんなら、もっと敬えっ!」
「だって」
「だってじゃねぇよっ! ガンガン来過ぎっ! 俺、アップアップだからっ!」
「すんませんっ」
「ったく、お前はいっもこんな感じで……」 やんなっちゃうな……と思いはしつつも、このままで終われるはずもなく。
夜久はおとなしくただひたすら待っているリエーフに抱き着いたまま、その耳元で「そろそろ……いいぞ」と囁いた。
「で……では、動きますっ」
「ぅ……ぅぅっ……ぅ……あっ……あっ! ああっ! あっ!」
腰を打ち付けてきながら夜久のモノを握りしめる。夜久は夜久で加減のない相手にしがみついて、なるべく喘ぎ声を出さないように努力していた。
「夜久さん キスっ……していいですか? 顔が……見たいです」
「やだっ。ぁ……んっ……んっ……あっ!」
喘いだついでに唇を塞がれて首に巻き付いていた手が相手の髪を拊な位置に変わる。
「んっ……んっ……ん」
何度も何度も角度を変えてキスされながら突かれる。自分も腰を動かしてイイところを狙ってもらえるように必死になりながらキスを貪る。握られてしごかれて善過ぎて頭がクラクラしながら相手の手の中で果てた。
「はぁ……はぁ……はぁ」
それでも彼はまだまだ大丈夫で、こっちが果てたと言うのに終わらせてはもらえなかった。ねじ込むように突き入れられて体が捻じれる。すると違うところにモノが当たってピクッと体が反応してしまう。それを素早く「まだ大丈夫だ」と取られて腰を抱えられてガンガン度が増した。
「もっ……」
「すんませんっ。もうちょっと」
「お前っ……ころすっ……。絶対ころすっ……!」
「すんませんっ……んっ! んっ! んっ!」
最後の最後に最奥まで突っ込んで果てながら抱きしめてくる。
「くっ……そがっ…………!」
真正面から攻めてくる正直さと力強さ。それが彼の持ち味でもあると思うのだが、こうと決めたら最後まで貫くのはこの場合どうなのかといつも思う。
「ぅぅぅっ……」
「グロッキーですか?」
「お前のせいでな」
「すんません。でも俺、間違ってないですよね?」
「加減の問題だよ、加減の!」
「でも」
「でもじゃねぇよ。そもそもお前は何のために来たんだよ。俺の誕生日……って、ケーキ!」
「ぁ、ケーキ食べないと」
「だよっ! 抜けよ。風呂入ってケーキ食うぞ」
「はいっ」
〇
「旨かったですね」
二人して一緒にのぼせるまで風呂に入ってから、もう食べられないと言うほどケーキを頬張って、最後には顔が拒否していた。
「大量に余ったけどな。どうすんだよ、これ」
「半分こしてチビチビ食べましょうよ」
「お前明日からまた海外だろ?」
「家族にあげます。母ちゃんケーキ好きなんで大丈夫です」
「だったらもっと持って行けよ。俺は一人なんだから」
「……じゃあそうします」
「ちょっと待ってろ。今入れ物なんかないか探すから」
「はい」
あれこれ探すのだが、なかなかいいサイズのものが見つからなくて、結局菓子箱にラップを敷いてその中にケーキを入れることになった。
「イチゴのところは残しておけよ」
「分かってますよ。ふふふっ」
「んだよっ」
「夜久さんってイチゴ似合ってますよね」
「小さいってことかっ⁉」
「違いますよ」
「なに?」
「赤くて甘くて可愛いところが夜久さんとシンクロするって言うか」
「食べ物と一緒にされてもなっ」
「まあそう言わずに。旨いんだからいいじゃないですか」
「そりゃそうだけどっ」
言い合いながら残ったケーキを半分こして、顔を近づけたついでにチュッとキスをしてから深いキスをする。
「一か月も会えないのか……」
「毎日テレビ電話します」
「いや。それは止めてくれ」
「え~~~⁉」
「今日だって接待同僚に押し付けてお前と会ってんの、忘れるなよ?」
「それは……そうですけどっ」
「毎日じゃなくていい。……でも、たまに欲しいかな」
「じゃあ! 頃合いをみて不意打ち作戦でいきますよ」
「分かった。楽しみにしてる」
一か月後会う約束をして別れた二人は幸せそうな顔をしていた。
終わり
20240609
タイトル「誕生日ケーキのフルーツはイチゴとマスカット」
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