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俺達の出会いは事故物件

 やっと就職先が決まった春。  俺は不動産会社の営業になった。実家の寺は絶対に継ぎたくなかったし、なんとか独り立ちできてホッとしている。まだ実家で暮らしているわけだが。 「というわけでね、頼むよ青山くん。君、寺の息子なんだろう?」  そんなある日、職場で社長に言われた。テレビからは、人気俳優の御園亮太が交通事故に遭ったというニュースが流れている。二ヵ月前の事件らしいのだが、春の交通安全運動期間なので、またその話題が時々テレビで流れているようだ。俺は芸能人に詳しくないので、名前しか知らない。さて、問題は社長である。 「え……」 「例の事故物件。お祓いは何度もしてもらったのに、男の人影を見ただのという話が絶えなくて困ってるんだよ。数日でよいから、様子を見てきて欲しいんだ。泊まり込みで!」  寺の息子とは言うが、俺には霊感などは微塵もない。そもそも幽霊なんていないと思っている。 「どんな理由で事故物件になったんでしたっけ……」 「引き払っていったのは親御さんなんだけどねぇ、三人前の住人の方が交通事故に遭われて意識不明なんだよ」  交通事故、本当に多いなと俺は思った。 「本来なら、事故物件というほどじゃないんだけどねぇ。実際その方は生きているし。意識不明だとは言うけど。二ヵ月間かな。だけどその次の月から女性が二人越してきてはお化けを見たと言って引っ越していったんだよ……ネットにそれが書かれちゃって、事故物件扱いなんだ」  困ったように笑っている社長は、俺に圧をかけた。 「頼んだよ」  こうしてその日の夜には、俺は荷物をまとめて、翌日からそのマンションの一室で寝泊まりすることになった。金曜の夜である本日から、土日月火まで泊まる事になっている。 「風呂は異常なし」  入浴を終えた俺は、寝間着のTシャツにラフなスウェットの下を履き、床に広げた布団の上に寝転がる。他に家具は、クローゼットの隣の壁にある姿見くらいだろうか。ベッドはない。電気と水道は通っている。  布団に寝転がって、俺はスマホを弄っていた。やる事が無くて暇だったが、そのままゴロゴロと二十時から二十二時までの間時間を潰して、俺は電気を消す。 「今のところなんにも出ないな。やっぱお化けは夜出るのか?」  そう呟いてから、俺は瞼を伏せた。  ――どれくらい眠っていたのだろうか。 「ん」  俺は体が急に動かなくなった事に気がつき、思わず呻いた。瞼は開くが、指先一つピクリとも動かない。まるで金縛りだ。本当に幽霊が出たのか? ありえる。嫌な汗がたらりとこめかみから流れていく。 「っ」  すると次の瞬間、俺の下の服が勝手に脱げた。  なんだ? 一体なんだ?  困惑していると、俺の萎えているブツを、誰かに握られる気配がした。え? 「んぅッ」  そのまま見えない手が、俺のブツを扱き始めた。いや、怖い。金縛り状況下において、手でされても反応なんてするわけ……なくもなかった。ここの所仕事が忙しくてまともにヌいていなかったものだから、俺のブツはすぐに反応を見せてしまった……。  すると筋に沿って指が動くような感触がしたり、カリを重点的に責められ、その後は鈴口を指で刺激され感覚がした。その頃にはもうガッチガチになっていた俺の息子の尖端からは、たらたらと先走りが零れ始めていた。 「あッ、出る……ッ!」  思わず俺が声を出したのと、俺が射精したのはほぼ同時だった。思わず大きく息を吐いた俺は――直後目を見開いた。なんと後ろの孔へとなにかが侵入してきたからだ。おそらくは指だ。 「え、え、え、え、ええ!? 待て、待ってくれ!」  生まれてこのかた二十三年、異性愛者として生きてきた俺は、知識こそあれど、アナルに何かをぶち込まれる日が来るだなんて、思ってもいなかった。それも目には見えないナニカという不可解な状況だ。 「ぁァ……っく」  しかしその指らしきものが、俺の中のある箇所を優しくトントンと刺激した瞬間、俺の口からは甘ったるい声が漏れた。次第にその前立腺への刺激が強くなっていくと、再び俺のブツは持ち上がった。 「ぁっ、ハ……ふぁ……ンん」  その内に指が二本に増え、浅く抜き差しされた。かと思えば次第に奥深くまで指は進んできて、指を開くように動かされたりした。それが終わると、今度はかき混ぜるように動かされる。  そうして散々慣らされた後……――。 「お、おい! ヤめ……うぁあアァ」  熱いモノが俺の中へと入ってきた。俺の体は動かないので、受け入れるほかなかった。だが……残念なことに、とても気持ちが良い。ぐりっと前立腺を擦りあげるように動かれてから、奥深くまで貫かれる。そうして抽挿が始まった。  霊のものだからなのか痛みもなく、ただ熱く硬いとだけ感じる。  キュウキュウと俺の中が閉まり、幽霊のブツを締め付けているのが自分でも分かる。 「あ、ぁ……ンぁァ……ああっ、あ――!!」  次第に俺は声が堪えられなくなり、快楽に涙しながら喘いだ。緩急つけて動く目に見えない霊は、俺の体を散々貪る。 「イく、っ、ぁ――うあぁ!!」  そのまま今度は、俺は中だけでイったようだった。  俺の出した精液が、たらたらと垂れた。  それが朝まで続き――気がつくと俺は眠り込んでいた。 「え? 夢……じゃないよな?」  俺は脱げたままのスウェットの下を確認し、翌朝眉を顰めた。既に体は自由を取り戻している。若干腰にも違和感がある。 「……なんだこれは。女の入居者がこういう被害にあったという報告は無かったけど……いいにくかったとかか?」  首を捻りつつも、確かにここは事故物件のようだと俺は思った。 「でも気持ちよかったな」  一度だけならば、夢かもしれない。それに今日は土曜日。火曜日までは猶予がある。  俺は気持ちいいことは好きなので、どうやら同性の霊らしいというのは若干抵抗がありつつも、今宵も泊まることに決める。そうでなければ社長も煩いしな。  途中でコンビニへと出かけて弁当を買い、朝昼夜とそれで済ませた。  さてその日の夜も、俺は金縛りに襲われた。うつ伏せに寝ていたせいなのか、その日はバックからめちゃくちゃに貫かれた。シーツをギュッと握って枕に額を押しつけながら、俺は快楽に涙した。  やばい。男は想定外だったが、これはハマってしまいそうだ。  そんな事を考える内に、その日も意識を飛ばした。朝起きたら布団には俺の出した精液が垂れていたので、肩を落としつつ俺はシーツを買ってきて変えた。日曜日もそんな感じだった。月曜日の本日もそれは同じかと思ったのだが、俺はこの日横を向いて寝ていた。  すると貫かれている時、涙で滲む瞳で、俺は何気なく姿見の存在に気づいてそちらを見た。そこには――透明ではなく、ゾッとするほどの美形の男が映っていて、本日は俺の脚を持ち上げて斜めから貫いていた。なんだかどこかで見た事のあるような男だった。二十代後半くらいだろうか。 「あ」  思わず俺がそちらを見たまま驚いて声を出すと、鏡越しに青年霊と目が合った。  あちらも驚愕した顔をしている。  すると動きが止まってしまい、もうちょっとでイけそうだった俺は思わず叫んだ。 「頼む、動いて! あ、あ、イきたい!」  結果、再び抽挿が始まり、俺は無事に果てる事が出来た。  事後。  この日俺は、初めて起きていた。姿見を見ると、美形の男が俺に土下座をしていた。 「えっと、幽霊さん?」 『……はい』 「あの、同意なく人を犯したら犯罪だと思うけど、幽霊にも法律が適用されるのかは知らないし、気持ちよかったんで俺は不問とします。でも、これじゃあ新しい入居者が入れないんですけど」 『すみません……実は死ぬ前に、どうしても男とSEXしてみたかったんです……』 「ほう?」  なんとか会話が成立している。幽霊は喋れた様子だ。 『俺はゲイなんですが、仕事柄それをひた隠しにしていて、迂闊に誰かと寝るわけにも行かず……童貞で……そうしたら、あなたという救世主が現れまして……』  蕩々と霊が語る。俺は引きつった笑いを浮かべた。きっと彼が事故に遭ったという入居者なのだろう。 「まだ生きてるって聞いてますよ! 体に戻れないんですか?」 『えっ!? 俺、気がついたらここにいて……』 「Let'sチャレンジ!」 『は、はい!』  俺は幽霊を励ました。 『もし体に戻れたら、今度はきちんと肉体同士で僕と――よかったらお付き合いして下さい!』 「考えておきます。そうだなぁ、戻れなかったらまたここへ帰ってきたらいいし。この物件安くなってるから、俺、あんたもいるならここに引っ越してこようかと思ってたりして」  その夜は、そんな話をして過ごした。それは火曜日も同じだった。  こうして水曜日の朝、俺はその物件を後にし、そこで幽霊とも別れた。幽霊はミソノと名乗った。 「どうだった?」  出社すると社長に問いかけられた。 「出ました、出ましたよ!」 「やっぱりかぁ……」  社長の声が沈む。 「でも全然怖くなかったんで、よかったら俺、あそこ借りますよ! 丁度実家を出たかったところなんで」 「なんだって? それは助かる!」  こうしてこの日、俺の新居が決定した。  俺はその次の週末引っ越しをした。色々なプラグをコンセントに差したりして、やっと落ち着いたのでテレビをつけると、速報として『人気俳優の御園亮太の意識が戻った』というニュースが流れてきた。 「あ!」  そこに映っていた青年は、何処からどう見ても、俺を犯し尽くして土下座した幽霊そっくりだった。 「え!?」  驚いた俺は、次の出社日に、事故に遭ったという住人を確認し、本人だと知った。また、引っ越した後は、一度も霊は出て来なかった。 「……肉体に霊が戻れたって事か? 生き霊だったのか? 霊がいるとすればだけど」  帰宅する度に姿見をチラチラ見ながら、俺はそんな事を考えて呟いていた。  だが人気俳優という事は、もう俺とは接点が消えただろう。きっと現実に戻った今となっては、俺の事をあちらが夢だと思っているかもしれない。  俺の家のインターフォンが鳴ったのは、それから二ヵ月後のある日の事である。 「はーい」  サングラスをした青年がモニターに映っていたので、心当たりは無かったが俺は外に出て確認することにした。すると。 「青山さん!」  サングラスを外し、青年が俺を見て嬉しそうに笑った。そこにいたのはゾッとするほどの美形である。 「あっ、ミソノ! 幽霊! 御園亮太!!」 「覚えていてくれましたか。嬉しい。よかった。あの、これ」  御園はそう言うと、手にしていた薔薇の花束を、俺に向かって差し出した。 「僕、青山さんに惚れてます。僕の恋人になって下さい!」  その花束を受け取りつつ、思わず俺は嬉しくなって口角を持ち上げる。 「来るのが遅い。待ってたよ」  これが、俺と御園の馴れそめである。  その日から、本物の肉体で、俺達はめちゃめちゃSEXした。  ―― 終 ――

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