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第1話

 「ねえ、好奇心は猫をも殺すって言葉、知ってる?」  誰もいない放課後の校舎の三階、静まり返った廊下の片隅で、何故か僕は美貌の公爵様に両手で壁ドンされて顔を覗き込まれていた。  公爵様の、見るものに冷たい印象を与えるアイスブルーの瞳は、でも今は狂気じみた熱を籠めて、ひたっと僕を見据えている。  ーーコ………コワイ………。  ぷるぷると震えながら、それでも視線を逸らしてしまうのも恐ろしくて、若干涙目になりながら公爵様を見上げた。  「ねぇ、フェアル。聞いてる?」  「き……聞いてます!知ってます!猫、殺しちゃうんですよね……っ!は……はは……」  だって猫だよ?  好奇心あってナンボな生き物なんだよ……。  その好奇心が、つい疼いただけだったのに、僕は殺されちゃうの?  バクバクと心臓は忙しく鳴り響くし、冷や汗も止まらない。  どうにか目の前の恐ろしい男から逃げる術はないものか……。  チラリと視線を廊下の先に流す。  瞬発力だけでいえば、僕の方がきっと上。  隙をついてこの囲いを抜け出せれば何とか……。  「……逃げようとしても無駄だよ」  ふっ……と、普段は笑みの一つも浮かべる亊のない美しい唇が弧を描く。  壁に着いていた左手を僕の背中に移動させると、まるで官能を引き出すかのような妖しい動きで背中を撫で擦り始めた。  ゾワリと思わず鳥肌が立つ僕を面白そうに見つめながら、彼はゆるゆるとその手を下へ下へと移動させる。  「逃げても私が捕まえてしまうからね。大丈夫、満足するまでたっぷり愛情を注いであげるし、真綿で包むように大事に飼ってあげる。だから安心して私のモノにおなり」  ひんやりと響く声は、本来は冷酷な性格そのままの、とても冷たいもののはず。なのに、今囁かれる声は酷く甘く艶を含んでいて、蠱惑的な毒として耳に染み込んでくる。  僕はギュッと目を閉じ、意を決して口を開いた。  「つ……つつつ……謹んでご辞退申し上げますぅ!!」  瞬間、彼は僕の尻の上、腰の少し下辺りから力なく垂れさがっている尻尾を、容赦なくギュッと握り締めたのだった。

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