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第3話 堕ちた魔法使い(3)
1ー3 前世の記憶
勇者のパーティから追放された俺は、王都の裏通りにある酒場で飲んだくれていた。
そんな俺のもとに思わぬ人物が現れた。
それは、腹違いの兄であり今は、父の跡を次いで伯爵になったロアン・フォン・エビアンヌだった。
ロアンには、俺が魔法学園の学生だった頃、さんざんいじめられて悪い思いでしかなかった。
「荒れてるようだな、ルシウス」
「なんの用だ?」
そう言って俺は、自嘲した。
そんなの決まってるじゃないか。
落ちぶれた俺を笑いにきたのに決まっている。
俺は、そっぽを向き酒をあおった。
ロアンは、俺の前の椅子に腰かけると慈しむような目で俺を見た。
「かわいそうに。酷い目にあったな、ルシウス。でも、もう、心配ない。お前のことは、この兄であるエビアンヌ伯爵が守ってやる」
ロアンは、俺の手をとって涙ぐんだ。
「学生の頃は、お前に意地悪もした。俺よりずっと優秀なお前が憎かったんだ。でも、今は違う。俺は、お前のことを誇りに思っているよ、ルシウス」
すでに酔っぱらっていた俺は、ぼんやりした頭でロアンのことをせせら笑っていた。
こいつも同じだ。
俺を追放した勇者たちと同じ。
だが。
ロアンは、それからも毎日俺のもとへと通ってきた。
一緒に酒を飲んだり、俺の話に耳を傾けたりしてくれるロアンに俺は、だんだんと絆されていった。
そして。
ある日、俺は、ロアンと共に浴びるように酒を飲んだ。
ロアンは、思っていたよりもずっといい奴に思われた。
そのせいで俺は、油断していた。
ロアンは、俺にどんどん酒を進めた。
「あんな連中のことは、酒を飲んで忘れちまえ!ルシウス」
ロアンは、俺に優しい言葉をくれた。
「お前は、あんな連中にはもったいなかったんだよ。お前は、最高の魔法使いだ!」
俺たちは、一晩中、酒を酌み交わした。
今考えれば、飲んでいたのはほとんど俺だけだったかもしれない。でも、その時は、俺は、気づくことがなかった。
ロアンは、俺が瞑れるまで酒を飲ませた。
俺は、いつしか眠り込んで。
夢を見ていた。
それは、どこか違う世界で暮らしていた頃の記憶だった。
そうだ!
俺は、夢の中で思っていた。
俺は、異世界から転生してきたのだ。
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