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第24話 歴史は、夜に作られる。(4)

 3ー4 腹をくくらせる  『裏』は、3日後のこと。  やはり夜陰に紛れてフードで身を隠して訪れた宰相をアンリが俺の部屋へと案内する。  同じようにテーブルについた宰相の前にルトがレイヤー領の特産のワインを置き、グラスについだ。朱色のワインが部屋の明かりに揺らめくのを見て宰相がはっとする。  「明かりの位置がこの前とちがいますか?」  さすが、宰相閣下。  俺は、こくりと頷いた。  俺の肌の色を際立たせるような明かりの配置だった前回とは変えて、今回は、俺の影を際立たせるようにしていた。  宰相は、グラスを手にすると俺に掲げて見せた。  「今宵のあなたに」  俺は、軽く答えたが、酒には口をつけなかった。それが『裏』のしきたりだからだ。  宰相は、少し寂しげに俺を見つめた。  「いくらうまい酒があっても相手がいなければつまらんものだね」  宰相は、グラスを置くと俺に訊ねた。  「それで?私は、合格なのかい?」  俺は、曖昧に微笑んだ。  俺は、まだ迷っていた。  俺は、男娼だ。  客をとることは当然のことだ。  だが。  俺は、最初の客であるカークに操をたてたかった。カークは、俺にとってもアンリにとっても特別だった。  宰相は、俺の手にそっと手を重ねてささやいた。  「どうか、私を受け入れて欲しい。この王都の、いや、この王国の100万の民のために」  その夜も、俺たちは、とりとめのない会話をして過ごした。そして、夜更けには宰相は帰っていった。  部屋に戻ってきたルトに俺は、頼んだ。  「次は、花を用意して欲しい」  俺の言葉にルトの目がわずかに見開かれた。  「じゃあ」  「ああ」  俺は、ルトに頷いた。  俺は、宰相の男になる。  ルトが下がった後も俺は、なかなか寝付けなかった。  俺が他の男娼と同じように客をとると知ったらカークは、どう思うだろうか。俺のことを軽蔑するだろうか。  でも。  俺は、心を決めていた。  だって、彼は、言ったんだ。  この王国の民のために、と。  俺は、それが何を意味するのかまだ理解してはいなかった。それでもその言葉は、俺に腹をくくらせるだけの力を持っていたのだ。  

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