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第28話 歴史は、夜に作られる。(8)

 3ー8 氷とキス  エイダース王国の王都がある場所は、盆地になっていて夏場は、気温が高くなりやすい。そのため王都には、食中毒が流行りやすい。幸いにこの王国では、生物を食べる習慣はないんだが、それでも冷蔵庫もないし、食べ物を冷やす習慣もないので食中毒は、起こりやすい。  俺からこの話をきいたシャルは、すぐに行動を起こした。  たかが男娼がいった話に過ぎないのに信じてくれたことが俺は、嬉しかった。  シャルは、俺のもとに魔道具師を送り込むと冷蔵庫の仕組みを説明させた。俺は、四角い外気と隔絶できる箱を作り、そこに氷を入れてものを冷やせるものを作るようにと話した。  うん。  単純な仕組みだけど、実際に、使用されていたものだしな。  王都には、シャルの命で冷蔵庫用の氷を販売する氷屋がいくつも作られた。  それから、町中には何ヵ所もの手洗い場が作られた。  王都の民が使う水は、王都の近くを流れるオウラ川から水をひいていた。そして、それを何ヵ所かの水汲み場に流してみな、そこから生活用水を汲んでそれぞれの家庭で使用していた。  俺は、シャルに水道を作ることを提案した。  今は、下水は、溝に流して王都の外の川に戻していた。それをそのまま戻さずにきれいな水にしてから川に戻す。  浄水場に下水を集めてそこに水スライムを飼っておけば自然に浄化してくれる。  オウラ川は、王都から川下にある町でも飲み水など使われている。汚染された水を流すことは危険だ。  「できれば王国中にこの設備を作った方がいいでしょう。そうすれば他の流行り病も起きにくくなります」  俺の話を寝物語にきいた宰相は、それを実行していった。  今まで、王都は、町を歩いているとどことなく下水の臭いが漂っていたがきっちりと下水道を造って水を浄化するようになってから町から不快な臭いが消えていった。  そして、夏場にも完全ではなかったが、食あたりで倒れる患者の数は減っていった。  「何より夏の暑い日に冷えたエールを飲むことができるようになった」  シャルは、俺を膝にのせて冷たいエールを口に含むとそれを俺に口移しで飲ませた。俺は、シャルに飲まされたエールをごくんと飲み込んだ。  それは、夏の夜とは思えないぐらい冷えていておいしかった。

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