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第90話 されど愛しき日々(10)
9ー10 愛している
結局。
俺は、カークと共に彼が騎士団に勤めているというアマランダ王国へと旅立つことになった。
今度は、前とは違ってひっそりとした旅立ちだった。
ルトも一緒に行くといってきかなかったので仕方なく同行することになった。
あと、ジニアス王国の話なんだが。
ジニアス王国は、もとどおりウィズが治めることになった。
ゼノンによって傷つけられた体は、スミルナ様の治癒魔法でもとどおりになったが、ゼノンによって切り取られた舌は、もとには戻らなかった。
それでも何人もの臣下が彼のことを支えてくれているらしい。
ほんとは、俺も彼のもとに残りたい気持ちもあったんだが、ウィズがそれを望まなかった。
シャルがそっと俺宛のウィズからの手紙を渡してくれた。
それによると。
『今も変わらず愛している。だが、今の俺は、お前にふさわしくはない。いづれ本物の王となったらお前がどこにいようとも必ず迎えに行く』
うん。
俺は、そのときにはもう、カークと行くことを決めていたから。
俺は、ウィズに返事は書かなかった。
きっと、どんな返事をしても彼は、気持ちを変えることがないような気がして。
俺とカークとルトの旅立ちを見送ってくれたのは、シャルとカルゼとアンリだった。
スミルナ様は、公務で忙しくてこれなかった。シャルいわく、すごく泣いてたらしい。
カルゼは、俺の手を握ってそっと囁いた。
「俺は、いつまでも待っている」
リュカ、とカルゼの唇が動く。
俺は、カルゼに微笑んだ。
「必ず」
いつか。
必ず。
見つめ合う俺たちにカークがちょっとムッとした様子で出発を告げた。
カルゼは、いつまでも俺の手を離さなかった。
俺がカルゼの手をそっと離したんだ。
このルシウスの生で、俺は、カークを選んだ。けど、俺の還る場所は、お前だ。
俺は、カルゼの姿が見えなくなるまで見つめた。
愛している。
みんな、愛していた。
みんな、愛おしくて。
俺は、いつまでも手を振り続けた。
そのせいでカークにお仕置きされたのは、また、別の話。
カークは、俺に話した。
「アマランダ王国は、ほんとに小さな国だけど、海があるんだ。すごくきれいで。絶対に1番にお前に見せたいんだ」
俺は、カークの腕に抱かれて。
夢のように幸せだった。
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