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第3話
しかし暑い!湯船の中で話こみすぎたわ。風呂上がりなのにTシャツ汗染みてる。
「母さん牛乳!」
お風呂上がりの俺のルーティーン。湯上がりは牛乳が一番だぜ。
「なあに?甘えてないで、ほらコップ。自分で注ぎなさーい」
家に昔からあるキティちゃんのコップを渡されたが、俺の愛用品じゃないからな!大きさがちょうど良いんだよ!
「それであなた、S大どうなの?ちょっと怪しいんじゃない?」
明日の朝はフレンチトーストなのかな。母さんの美味し いんだよな。一晩牛乳と蜂蜜と卵に漬け込むやつ。楽しみだ〜〜♪
「ねえ、聞いてるの?」
「聞いてる〜。まあ頑張ってるよ、今度の模試見てて」
「次の模試次第では変えることも検討…なんてこの間の3者面談で先生おっしゃってたじゃない?まあ…信じてない訳じゃないけど」
実は俺も直接言われてた。なんせC判定くらっちゃったしな、この時期に。でもS大は行きたいから、頑張らなくちゃ。
「うん、頑張るよー俺」
ダイニングテーブルに座って、つい母さんと話し込んでしまった…だから、おじさんが…
「お風呂いただきました、すみません先に」
出てくるのに会ってしまった。
髪をタオルで拭きながら、また来た時みたいな仮面かぶってやってきた。
「あら、早かったですね」
「男の風呂なんてこんなものでしょ」
お決まりの、歯を見せてニカッと爽やかに笑うの…俺はもう騙されないからな。 それにしても、Tシャツまでパンパンだな!
「はい、時臣さんは湯上がりこっちでしょ」
母さんもニッコニコしちゃってさー。さっきの俺への渋ーい顔はどうしたんだよ。
「お、いや〜すいませんね、ビールなんて。じゃあ遠慮なく」
もう俺には嘘にしか見えない笑みで、遠慮なく俺の隣に座って来た。
「悠馬、ちょっと聞こえちゃったんだけど、S大苦戦中なんか?」
プシッと音を立てて缶ビールが開けられて、あの独特な香りが広がってくる。
今の俺にはまだこれが良い香りとは思えないけど、でもそろそろ酒にもなれないとダメなんだろうなぁ…特にこの家に住む限り…全員酒好きなんだもんな…。
「苦戦中っていうか…まあ、すんなりは入れそうも無いっていう感じ…?」
あ、それが苦戦中ってことか。
おじさんは洗った髪が降りていて、さっきのシャンプー後のオールバックよりは少し若返った感じ。結構長いんだな髪の毛。
そんなこと思ってぼんやり牛乳を飲んでいたら、
「あ、和代さん。さっき風呂入りながら悠馬と決めたんですけどね」
は?何言う?なんか決めたっけ?
「夏休み、悠馬東京の塾の夏期講習に行かせてみません?俺預かりますよ。勉強も教えられるし」
きいてねえよ?ねえ?なんの話??
「ちょっと、おじさ…」
でかい手で顔を覆うな!
「え?本当に?良いんですか?でも今から夏期講習の申し込み間に合うの?」
「俺の知り合いに塾講師いるんですよ。そいつに頼めば一人くらいどうとでもなるでしょう。塾 は儲かれば良いんですから」
缶ビール一気に飲んじゃった。母さんは2本目を取り出し
「流石は元KOボーイねえ、交流が広いわ〜。お願いしちゃおうかしら?実家 に居たって、どうせダラダラしてるだけだろうし」
最後の方はキッと俺を見てきた!なんだよ!
「なんだよいきなり、俺聞いてないけど!」
母さんの手前、小さな声で言ってやるから感謝してな。
「マジで勉強のつもりだけど。東京の塾厳しいぞ?そこ乗り越えればS大なんかチョロいチョロい」
新しいビールはもう半分も無さそうな感じでグッピグっピ飲んでる。
ほんとかなぁ…。疑わしいこと100%だよ!でもまあ…考えてもみれば受験生の大事な夏休みに預かるなんて言い出すのは、やっぱり勉強以外考えられないしなぁ。
「夏休みいつからだ?まさか補習なんてないよな?」
「夏休みは24日から。補習は…それは明日からの期末で…」
おじさんビール飲みながら横目で俺をじっとり見るのやめて…はい、補習は絶対に避けます!約束します!
おじさんはその場で電話をかけ始め
「あ、今平気?うん、俺だけど…え?まあ実家にいるからかな?ははは、それでさ?お前のとこの夏期講習一人入れられないかな。そう今から間に合う?」
なんだか妙な空気の電話だなぁ…
「お、さんきゅう!うん、名前は篠田悠馬。篠田は俺と同じで、悠馬のゆうは悠久の時とかの…そうそうんで、馬な。甥っ子なんだよ。うん、S大狙いらしい。なんかギリっぽいから鍛えてやって。ははは、じゃ、よろしく」
スマホを切ったおじさんは、母さんに
「大丈夫ですって、手続きは俺が無理やり連れてくんでこっちでやりますよ。ご負担はかけません」
なんかの営業みたいだな…まさか塾の営業の仕事なんかもやってるとか…
「ええ?でもそれじゃあ…」
「良いんですよ、久々に悠馬見たらなんだか可愛くてね。受験危ないようなら手助けしなきゃって」
ここでも「ははは」とかの嘘くさい笑いをする…うっそくさ…
「何から何まで、本当すみません。晴臣さん呼んできますね、お礼言ってもらわないと…」
「ああーいやいや良いですよ。兄さんも今日は疲れてるでしょうから、風呂を先にしてあげてください」
三文芝居を見ながらいた俺は、俺の意志など入り込む隙もなく夏休みの予定が決まってしまった…まさかずっと夏休み一杯おじさんとこいるわけじゃないよな………?
不安になってきた。
「いつまでおじさんとこにいるの?俺」
「なんか用あるんか?」
いや…これと言って…あ、違う違う
「勉強とか…」
「だからそれをやりに俺んとこ来るんだから、夏休み一杯いたらいいよ」
頭をポンポンかなんかして、ーな?ーと覗き込んできたおじさん笑ってねえ。
なんなんよ…俺に何しようとしてるの?この人…
「そう言うわけなんで、和代さんも悠馬の夏休み時は家でのんびりしててくださいね」
「ありがとう〜〜。子供一人いると、食事やら何やら大変でね。でも多少の生活費はお渡しさせてね、1ヶ月半くらい分ね」
母さん…俺を売るなよ…
「お気を使わせます、それはありがたく」
マジで決まってしまった夏休み…探偵だって言ってたじゃん?俺に勉強教える時間なんてあるんかな…不安だ…
そんな不安がってる俺を尻目に、母さんとおじさんはこの計画の話し合いに花を咲かせてた。
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