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Rendezvous02 ホスト系アサシン25  くしゃみ、みたび

 黒い影が霧散して、また元の静寂が戻る。  ミチルも、ボスもマリーゴールドも。アニーが見せつけた強さに呆然としていた。  ていうか、「お会計の時間だ」って何!?  決め台詞ってこと!?……などとイジる者はいなかった。  雲が晴れる。暗闇から満月が柔らかい光を帯びて現れた。  森の中に光が射していく。ちょうどそれはピンスポットのようにアニーを照らしていた。  ああ……もう……何これ。ほんとに同じ人間?  月明かりに照らされたアニーは美しいを通り越して、美、そのものだった。  俳優とか、アイドルとか、国民的彼氏とか。そんな言葉では片づけられない。  その姿にミチルの心はすっかりとっ散らかって、ただアニーをぼーっと見つめるだけだった。 「──ミチル!」  え、ちょっと待って。美の神様がオレを呼んだんだけど。  ミチルはまだ彼が生身の人間だという実感が持てなかった。 「ミチル!……ありがとう」  美の神はミチルの唇に熱いベーゼをかます。  熱が籠るような、吸いつけるような濃厚なキッスだった。 「うぅん……むっ!」  アニーの体温と肉感を感じたミチルは体中が熱くなった。  ああ、神様とかじゃない。人間だ。  アニーは同じ目線で笑ってくれる、側にいてくれる人間だとようやく思い出した。 「ミチル、怪我はない?」 「だ、大丈夫……」  ねえ待って、無理!あんなキッスしておいて、なんでそんなに爽やかに笑えるの!? 「うん、良かった!」  あ、アニーが離れてしまう。  イヤダ。  もっと、もっと欲しいの…… 「うおおおぉぉっ!!」  ミチルは自分の思いがけない思考を慌てて大声で打ち消した。  ノーモア、吊り橋効果!! 「ど、どうしたの?」  さすがのアニーも驚いていたが、ミチルはキリッと顔を立て直して言った。 「大丈夫。それはそうとナイフは?」 「ああ、そっか」  アニーは猪ベスティアが消えた辺りへ走り、まだ鈍く光る一本のナイフを拾い上げる。その後、更に何かを拾って戻ってきた。 「すごいよ、このナイフ。ミチルが再生してくれたの?カエルレウムの魔法?」 「魔法なんてとんでもない!オレにもよくわかんないけど、これで二回目だ」 「二回目?」  アニーが聞き返すので、ミチルは前回のことを説明した。 「うん。前もさ、カエルレウムでジェイの剣が青く光って再生したの。オレが持ってる時にね。でもオレがやったかはわかんない」  あの時も、今回も、ミチルは刃の再生を願った訳ではない。  ただ、目の前のベスティアが憎くて、何もできない自分が情けなくて、単純に怒っただけだ。 「へえ、そう……二回目なんだ」  うん?なんかアニー落ち込んでる?  しかしミチルはすぐにアニーの左手に注目してしまった。 「アニー、そっちには何持ってんの?」 「あ、ああ……」  アニーは左手を掲げて、それを月明かりに照らした。拳大の青い石だった。 「ナイフの側に落ちてたんだ。この森のものじゃないと思うな……」 「うん、なんか、ナイフが光った時の色に似てるね」 「確かに。でも、俺、もっと前に似たようなのを見た気もするんだよなあ……」  二人でしげしげとその石を眺めていると、夜風が強くなった。 「う、寒っ!」  ミチルは思わず身震いをする。それを見てアニーは笑った。 「そうだね、屋敷に戻ろう。今夜は俺が温めてあげるよ、たっぷりと……ね」 「──!!」  えええ、ナニナニ。なんでそんな甘い声出すの!  ナニなの!?ナニするの!?  ミチルがまた動悸でドキドキしていると、更に強い風が吹いた。   「──!!」  急に突風が吹いた。ミチルは驚いて立ち止まる。   「雪……?」  空から白いものが降ってきた。  ふわふわと舞い踊るそれは季節外れの風花かと思った。   「羽……?」  よく見るとそれは鳥の羽だった。  さては上空で大きな鳥が喧嘩したんだなと思った。   「!」  しかし、その羽はミチルの周りをふわふわと取り囲み、次第に数が増えていく。    ヤベエエエエ!!!  また出たアアアアア!!  恐怖のコピペええええっ!! 「……ミチル?」  アニーが異変に気づく。しかしミチルの周りにはすでに無数の羽根が飛び交っていた。 「アニー!助けて!」 「ミチル!」  ミチルは手を伸ばす。  アニーもまた駆け寄った。      無数の白い羽は、ミチルの鼻先をくすぐる。  元々花粉症のミチルはむず痒さをすぐに感じた。    「ハ、ハックション!」     思わずくしゃみをしてしまった後、周りの羽に異変が起きた。    真っ白だった羽が、ひとつ残らず青く染まっていく。ミチルの視界も青く染まった。 「──あれ?」  マリーゴールドが後ろを振り返ると、二人の姿がなかった。 「おーい、アニー?ボウズー?」 「どうした、マリー?」 「ボス、あいつらがいねえ」  するとボスは豪快に笑って言った。 「ほっとけ、盛り上がってシケこんだんだろう」 「マジか、若いっていいなあ」  そうしておじさん二人は屋敷へ戻っていった。  後には、青く光る羽根が一本。ふわりと舞って消えた。   「異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!」                    〈ホスト系アサシン編〉──了  次回からは〈幕間 ぽんこつナイトVSホストアサシン〉をお送りします!  どうぞお楽しみにっ!! 【追記】 幕間 ぽんこつナイトVSホストアサシンは、2024年8月14日22時から開始します。 どうぞよろしくお願いします!

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