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scene 3. In the Wee Small Hours* [Side Yuli]

 噛みつくように激しく口吻けたあと、ユーリは力強くテディの躰を抱きしめ、喉許から胸の飾りへと唇で辿った。一方を左手の指で捏ねるように愛撫しながら舌で転がし、軽く歯を立て、テディが堪らず顔を仰け反らせるのをちらりと盗み見る。  全身にキスを浴びせながら下腹部へと下りていき、既に勃ちあがりかけているそれを左手で包みこみ先端に愛おしげに口吻けると、ユーリは右手を脚の間から後ろへと滑らせた。 「はぁ……、待って。俺も……」  蕩けた目でテディが云うと、ユーリはテディの頭のほうに脚を伸ばして横になった。テディは捻るようにして半身を起こし、ユーリの猛りきったペニスに手を伸ばして口に含んだ。絡みつく舌の感触に息を零しながら、ユーリもテディのペニスに喰らいつく。そうしながら後孔にも指を忍ばせ押し拡げるように愛撫をすると、テディが目一杯頬張ったまま「んん……っ」とせつなげな声を漏らした。  指を折り、甘い疼きを生みだす果実を探りあて、ユーリは欲望をもたげるその裏筋から蜜を溢している鈴口までを、ねろりと舌で舐めあげた。下腹部に熱い息を感じ、柔らかくうねる髪が腿の辺りを擽る。今から自分を受け入れさせる場所が充分に綻びるとユーリは半身を起こしてまた向きを変え、テディの躰越しに手を伸ばした。  サイドテーブルの抽斗からユーリがアストログライドを取りだすのを、テディが手許を覗きこむようにして見つめる。 「ローションだけ?」 「ああ。もうは卒業したんだ。それに……フォクシー(5-MeO-DIPT)メス(覚醒剤)もなにもなくたって、おまえを善がり狂わせるくらい簡単だしな」 「えぇ……ほんとに?」  くすくすと笑うテディの顔を見下ろしながら、ユーリは潤滑剤を垂らした手で脈打つ自身を握り、にっと笑みを浮かべた。 「ほんとさ。今からそれを証明してやる」  窄まりに触れさせ、手を添えたままぐぐっと腰を進め猛ったものを埋めていくと、テディがあぁ、と声を溢した。その表情を見つめながら腰をあげさせ、すべてを包みこもうとするように覆い被さりまた口吻ける。頭の後ろに手をまわし、舌で奥深くまで探り、息を奪ったまま腰をグラインドさせるとテディが溺れてもがくように背中を掻いた。  息を解放し、潤んだ灰色の瞳を間近に見つめ、今度は耳朶を甘噛みする。音をたてながらしゃぶりつき、耳珠を舌先で責めてやると、テディが堪らず身を捩った。 「あぁ……っ、やっ――」 「嫌じゃないだろ……ここ、好きだろ?」  耳許で云い、裏側に舌を這わせそのまま吸いつくように頸筋へ――テディの弱いところを的確に責めながら、躰を支えるように両手を添え親指の腹で胸の飾りを弄ってやる。そのあいだも躰の中心を抉る動きは休めない。敏感な場所をいくつも同時に責められて、テディは淫らに歪めた表情で悲鳴にも似た高い声をあげた。それに煽られ抽挿を速めると、深く結びついたまま離したくないかのようにテディが脚を腰に絡めてきた。  猫がミルクを舐めるような音とふたりの荒い呼吸がユニゾンし、だんだんと高みに昇り詰める――と、不意にユーリがその動きを止め、テディのペニスの根元をぎゅっと締めるように握りこんだ。 「……っ、なに……」 「まだだ」  そう意地悪く云ってユーリは部屋のなかを見まわし少し考えると、ベッドの傍らに放ってあったスウェットパンツを拾いあげ、ドローストリングを抜き取った。そしてそれを、途惑っているテディのペニスの根元に何回か巻きつけ、きゅっと結ぶ。 「(ほど)くなよ」  どう反応すればいいのかわからないのか、テディはあやふやな表情でそれを見つめた。ユーリはそんなテディの腕を引いて背中を押し、俯せにさせて尻臀を軽く叩いた。  背中で艶やかに咲く牡丹の花を見下ろしながら、その花弁を散らす勢いで一気に貫く。 「ああっ……!」  正常位のときよりも深く、小刻みに責めるとテディが腰から(くずお)れてシーツを掻いた。躰が逃げていかないように肩を抱きこみ、情熱的なラテンダンスを踊るように腰を動かすと波打つようにベッドが揺れる。追いつめられ、声を溢しながらテディが左手を躰の下へと動かすのを見て、ユーリはその腕を掴んで止めた。 「まだだめだ。解くなって云っただろ」 「……やっ……、もう、()きた……」 「だめだ」  挿入したまま少し身を起こして、ユーリは両方の手首を掴んでぐいと引いた。そのまま腰を強く打ちつけるとテディが更に高い声をあげ、首を振って乱れた髪を揺らした。 「ああっ、やっ、もう……とって、これ――解いてっ……」と、テディが切れ切れに訴える。その声が切羽詰まっていくのに合わせるように、肉のぶつかり合う音が更に速いテンポを刻む。程無く、テディが一際高い声をあげてがくがくと躰を震わせた。脱力したようにシーツの海に投げだされた躰を少し横にして、角度を変えて責めながらユーリはまだ勃起したままのテディのペニスを握りこんだ。 「ひぁっ……!」  縛られている所為で射精できていないペニスへの刺激が強すぎるのか、テディが髪を振り乱して泣きそうに顔を歪めた。 「どうだ、悦いか……? テディ……善がり狂わせてやるって云ったろ――」  (うしろ)からも前からも責めながら訊いてやる。が、そろそろさすがにユーリも限界が近かった。「もういいっ、もう……っ、達きたい、出したいっ……解いて……っ」と掠れた声で懇願されて腰を引き、テディの腿の辺りに迸らせる。そして、縛ったドローストリングをほどいて張りつめきったペニスを握り、軽く扱いてやろうとすると、ほとんど手を動かしていないうちに勢いよく精液が飛び散った。  肩で息をし、放心したような様子のテディと並んで横になり、ユーリは背後から抱きしめその頬にキスをした。 「――悦かったか?」  はぁ、と息をついて、テディは振り返らないまま、ぼそりと答えた。 「……次もっとエスカレートすると困るから、絶対悦かったなんて云わないよ」  ――ぐらりとベッドの揺れを感じて、ユーリは目を覚ました。  薄目を開けるとまだ部屋は暗く、そのまま目を閉じ眠りのなかへ戻ろうとして、ふと隣の温もりが消えていることに気がついた。  ああ、またかとユーリは耳を(そばだ)てた――かしんとジッポーの音が聞こえ、空調の暖気に乗って芳ばしい煙草の香りが広がり、微かに鼻を擽った。  カウンターのスツールに坐り、お気に入りのゴロワーズ・レジェールを吹かして、テディは今おそらくルカのことを考えている。もうずっとこのままなのか、もう自分はルカの元へは戻れないのか、ルカにとってはそのほうがいいのだろうか――と、答えなど決して出ないようなことで、頭をいっぱいにしているのだ。  初めのうちユーリは、何故テディは自分がどうしたいのかということに考えが向かないのかと不思議だった。だがあるとき、酒を飲みながらバンドのマネージャーでありレーベルの運営者でもあるロニーと話していて、それが腑に落ちた。テディは子供の頃の不幸な体験の所為か、自己肯定感が低いのだ。  世界が賞賛するほどのルックスと才能に恵まれているにも拘わらず自分に自信がなく、自分で自分を否定しているから愛情を向けてくれる相手をも疑ってしまい、おかしなことになる。しかし相手――ルカのことを嫌いになったわけではなく依存心も強いので、落ち着いてしまえば帰りたくて堪らなくなるのだ。いつだってそうだった。  眠ったふりをしたまま、ユーリはまだ昏い窓の外を眺めるテディを想像した。――大丈夫。きっと明日には迎えに来るさ、と心のなかで呟きながらユーリは、次に朝目覚めるときにはこの腕のなかにいてくれと願い、再度眠りに落ちた。 ─────────────────── ※ 文字数オーバーのため已む無く一部を省略するかたちで変更しましたが、本来のタイトルは 『In the Wee Small Hours of the Morning』、フランク・シナトラが1955年にリリースした曲名を拝借したものです。

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