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8 一歩踏み出そう

 春がそう呟いた途端、部屋中にやかんの湯が沸く音が響き渡る。その音に体をビクッと震わせ、春は慌てて火を止めに行く。  春は一つ溜め息を吐くとコーヒーを作り、再びテーブルへと戻り、コーヒーを啜りながら考えるのだった。  確かに二人きりで会うのはチャンスなのだけど、本当にゴーが春と同じ考え方をしているかはまだ分からない。自分だけがそう思っていて、勘違いだったら恥ずかしいしショックなことになりかねない。  こういうことって、相手にどう確かめたらいいのか分からないというのが正直なところだろう。ましてや男だ。本気で自分のことを想っているはずがない。それに春はボーカルで、ゴーと同じ立場なのだから、ただ単にレッスンして欲しいと言ってきただけかもしれない。  ますます昨夜のゴーからのメールは春の頭を悩ませる。  春は携帯の画面を眺めたまま、コーヒーを啜り続けるだけだった。  春は少し悩んだ末、ゴーに少しずつ歩み寄ることにしたようだ。  もし今日、ゴーに仕事が終わってから暇があるとしたら食事に誘おう。まずは相手のことを詳しく知ってからでも遅くはないだろう。  春はそう決めると、ゴーにメールを打ち始める。だが、何故かそれを邪魔するかのように、新しいメールが来たことを携帯の画面が知らせてくる。  春の性格上、たとえメールの途中であっても、来たメールの方を優先してしまう。  今書いていたメールを一旦保存して、来たメールを確認するのだ。

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