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scene 11. My Foolish Heart Ⅰ
何度繰り返しても足りないというように、ルカはテディの全身に隈無くキスを浴びせた。
ブランケットのなかに潜り、早く触れてほしいと涙を零している形の良いペニスにも愛おしげに口吻け、しかしそれ以上刺激を与えることはせずに腿から膝、足首、指先と唇で辿っていく。はぁ、とせつなげに息を溢し、テディがルカの背中に手を延ばした。
目が合うたびにしないではいられないように交わす口吻けは、もう何度めなのかわからない。赤く腫れぼったくなるまで唇を吸い、舌で隈無く探り、蕩けたように見つめあったあと、テディが両脚を開きルカの躰を挟みこんだ。
「ね、もう……早く」
「俺も早くおまえのなかに入りたいけど……なんだかもったいない気がしてさ」
「もったいない?」
「始めたら、終わっちまう。……ずっとこうしていたい」
熱っぽく囁いて、ルカがテディを抱きしめる。すると──
「……でも、もう……当たってるよ……」
熱く張りつめたそれが、テディの綻んでいる蕾に触れていた。もう待ちきれないというようにテディが腰を揺らめかす。ルカはその脚を抱え、硬く聳り勃った陰茎をそこに押しつけた。
「あぁ、テディ……愛してる──」
ルカがぐっと腰を進めると、テディが顎を仰け反らせ、高い声をあげた。
「はぁ……っ、ルカ……っ、俺も──」
深く繋がり、互いのすべてを与え合う歓びに酔いしれる。
ゆっくりと、大きくスライドしながら胸の飾りを摘み、テディが堪らず溢す声を聴く。縋るものを探すようにテディはルカに手を伸ばし、長い髪を掻きあげ、その細い指先を肩に食い込ませた。
「あっ、あっ……ルカ、ルカ……っ、あぁ、もう──」
「テディ……、愛してる、テディ……っ──」
だんだんと腰の動きを速めながらルカはテディを躰のすべてで包みこみ、テディもルカの背中を思いきり掻き抱く。全身で、そして名前を呼ぶ声で、何度も何度も伝えあう――愛してる、愛してる、愛してる。
天国の扉が開いたかのように頭のなかで光が弾け、ふたりは躰を重ねたままで互いの心臓の音を聞きながら、荒く息をついた。
テディが目を覚ましたとき、部屋はもう薄暗かった。広いベッドの隣にルカの姿はなかったが、シーツにはまだ温もりが僅かに残っていた。
心ゆくまで愛しあったあと、ぐったりと眠ってしまってからいったいどれくらい時間が経ったのだろう。蛍光の文字盤をぼんやりと浮かびあがらせている時計を見ると、もう五時になるところだった。どうやら二時間ちょっと眠っていたらしい。
ルカはリビングにいるようだった。裸のままベッドを出ると、テディはワードローブからスウェットスーツとTシャツ、下着を出し、バスルームへ向かった。
ルカがテディと暮らすために選んだこの2 ベッドルームのフラットは、エントランスからリビングを繋ぐエントリーホールとは別にもうひとつホールがあり、そこからふたつの寝室と広いバスルーム、リビングが行き来できるようになっている。
リビングと壁を隔てた広いほうの寝室をふたりで使っていて、ホールの奥にあるもうひとつの寝室は、いちおうゲストルームということにしてあるが、未使用のままだ。
そのふたつの寝室のあいだにあるバスルームでさっとシャワーを浴び、リラックスした恰好でテディはリビングへ行った。
ルカはソファセットの前にある大画面のTVをつけっぱなしにし、そのTVに背を向けて、反対側の壁際に置いたPCに向かって坐っていた。TVの音量は小さく絞られていて、画面のなかでは視たことのあるキャスターがボヘミア地方の明日の天気と予想気温を伝えている。
「……もう、どっちかにしたら?」
「おまえが気にしてたからさ」
部屋のコーナーを利用してL字に設えた洒落たデスクにコーヒーを置き、ルカはニュースサイトの画面をスクロールしていた。どうやらカルロヴィ・ヴァリのホテルであった事件のニュースを探しているらしい。テディはタイムライフチェアに手を掛けて、背後からその画面を覗きこんだ。
「あ、あったぞ」
『ホテルの部屋で刺され女性死亡 殺人事件として捜査 カルロヴィ・ヴァリ』という見出しをみつけ、ルカが記事ページを開く。
広告以外、事件に関連する画像もなにも貼られていないそのひっそりとしたページには、短い文面でこうあった。
『十四日、カルロヴィ・ヴァリにあるホテル内の一室で遺体が発見された。
被害者は二十代から三十代前後の女性で、胸を刃物のようなもので刺され死亡していた。死因は失血死とみられ、現場となった部屋には争った様子が認められたが、凶器は残されていなかった。警察は、一緒に部屋にいた何者かとトラブルが起こり刺殺されたものとみて、被害者の身元の確認とともに容疑者の特定を急いでいる。』
「……まだなにもわかってないらしいな。まあ昨日の今日だ、しょうがないか」
ルカはそう云って元のページに戻り、次ページへのリンクをクリックした。そのとき。
「あっ……ルカ、ここ」
「うん?」
画面の右隅に新着ニュースの見出しが一覧表示されている。そのいちばん上に『ホテル殺人で警察官逮捕』という文字があるのをみつけ、テディが指をさした。
「ホテル殺人……、これ、そうじゃない?」
「えっ……警察官?」
見出しの文字をクリックし記事のページを開くと、ひとまわり大きなフォントで『ホテル殺人で現職警察官逮捕 カルロヴィ・ヴァリ』とあった。
記事には、逮捕された警察官は被害者の女性と長く親密な関係にあり、痴情のもつれで妻帯者である警察官の男性が発作的に犯行に及んだとみられている、と書かれていた。
「……逮捕されたんだ、よかったね」
「いや、しかし警察官なんてな……ああ、それでかな? ここには名前が出てないな。おまけに妻帯者って、不倫かよ。最低だな」
「そういえば、さっき電話が鳴ってたね……警察からだったんじゃない?」
「ああ、うん。鳴ってたっけ、忘れてた。まあ、いいじゃないか、もう犯人は逮捕されたんだし……」
「ルカってば」
本当に面倒臭がりなんだから、とテディがキッチンのほうへ動きかけたそのとき、ルカの電話がまた鳴った。件の警察からの電話かと思い、顔を顰めながらルカがスマートフォンを取る。
「はい? ……なんだおまえか。え? ――ああ、それなら今ネットで……TV? いや、つけてはいるけど……」
なにやら眉をひそめながら、ルカはテディに「おい、24つけろってさ」と云った。誰からだろうと思いながら、テディは云われたとおりTVのリモコンを取り、二十四時間ニュースを流しているチャンネルに変えた。すると――
「えっ?」
「……まじかよ」
『視たか?』
茫然として耳から離したスマートフォンから、ユーリの声が聞こえた。
TVの画面には見憶えのある顔――ボロフスキー刑事の顔が映しだされていた。
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