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今日からキミを知っていく

「今日も楽しかった、帰り気をつけてね」 「うん、俺も楽しかった、じゃあな」 いつものデートが終わり解散をする。そして溢れるため息。遠くなる背中を見つめて呟く。また進展できなかった… 俺、安藤遥希は付き合って2年になる彼氏がいる。名前は笹木直斗。 出会いは、仕事の関係だ。 気が合って喧嘩もない。 だけど、ただ2つだけ悩みがある。 家に行ったことがないのと、キス以上ができないことだ。 過去に3回くらい家に行ってみたいと言ったことがあるのだが、いつも足の踏み場がないほど部屋が汚い、来てもやる事がないと言われて断られている。同棲している人がいるのではと疑ってしまう。友達にも相談をしたところ既婚者か同棲してるかのどちらかと言われた。妙に納得してしまう。俺が付き合ってる人はバイセクシュアルの人だ。女性と付き合っていてもおかしくない。 でも、別れたくなくてどうにか関係を進めたい。 そう思っているのは俺だけなのかな。 ◇◇◇ 今日は水族館デートに行き、その後昼飯を食べてまったり過ごしている。 「あ、もうこんな時間か、そろそろ出るか」 え、もう解散するの? もう少し一緒にいたい。 言え、今日こそ言うんだろ。 言え、言え、言えよ。 「そうだな」 結局、言えない自分が死ぬほど嫌だ。 「じゃあ、帰り気をつけてね」 「うん、そっちも」 いつものデートを終えて帰るフリをする。でも今日はいつもとは違う。後をつけて直斗が解散したあと何処に行っているのか突き止めるのだ。 バレたらマズイのでかなり離れて着いていく。 後頭部を見失わないように歩く。 大通りを出て真っ直ぐ進む。 どうやら駅に向かっているようだ。 駅に着くと、喫煙所に向かって行く。 慣れた手つきでライターを取り出してタバコを吸い始めた。 煙を吐き出す横顔がさっきまで話していた人とは全くの別人に見えた。喫煙者だったことを今日初めて知ったし、妙にその横顔が色っぽくてカッコよく見えてドキドキして目が離せなかった。 あの冷ややかな目で見てくれないかななんて思う。 知らないことが沢山ある。この2年は一体何だったのか。 直斗のこと何も知らないじゃん。 改札に入って電車に乗る。人がかなりいるため見失わないようにしなくてはならない。 降りた駅は俺が降りる駅の一つ後。 意外と近かったな。家に帰るのかな。しばらく歩くとスーパーに入り食材を買う。自炊よくするって言ってたよな、前食べてみたいって言ったら今度ねって言われてはぐらかされたっけ?まぁ、その今度は全然来ないけどね。 …なんか俺、遠ざけられてる?本当に俺らの関係が浅いことを痛感する。 そして、スーパーを出て真っ直ぐ歩くとアパートがあった。直斗はそのまま階段を登り扉の前まで行く。 扉を開けると中から女性が出てきて何やら親しそうに話をしている。 あんな風に笑っている顔も初めて見た。俺と会ってる時は愛想笑いみたいな笑顔なのに、全然違う。楽しそうに話をしながら家に入って行った。 もう、ダメだ。やっぱり遊ばれていたんだ。 家に帰ってから、静かに泣いた。 ◇◇◇ あの日からずっと、メッセージを無視している。 何通も送ってきたけど、返信する気になれない。 仕事帰り、同僚と呑みに行った帰り道コンビニに寄って帰宅しようとした。その時、人にぶつかって謝って顔を見ると直斗がいた。 「あ、」 一瞬の静寂。俺は全速力で逃げた。 「遥希!!」 なんで会うんだよ!!! 俺は無我夢中で走る。学生時代に、陸上をやっていてしばらく走ってないけど、これほど陸上をやっていて良かったことはない。 「遥希!待って!」 バタバタと走って、直斗が追いかける。 後ろをチラリと見ると追いつかれそうだ。クソ、足が長い分追いつかれるのが早い。 信号を避けて走り、右へ左へと曲がりながら走る。 しかし、右手をガッチリ掴まれて前へ進もうにも動かない。 「は、離せ!!」 「なんで、なんでメッセージ無視するんだ!」 「浮気してんだろ!この前、女の家に入っていくとこ見たんだよ!」 「な、それ誤解だから!!」 「何が誤解だよ!この2年間全然家にも行かせてくれないし、場所も教えてくれないし!キ、キス以上だって進めないし、料理だって食べてみたいって言ったのに無かったことになってる…そんなに俺のこと信じられないかよ!!俺は、直斗のこと本気で好きなのに…」 今まで抑えていた感情が一気に爆発して涙が頬を伝う。 「遥希…説明させて」 「聞きたくない、嫌だ!」 右手を離そうとして力を込める。 ボロボロと涙が溢れて視界が歪む。 「このままで良いから!お願い、聴いて」 真剣な声で言われて、思わず固まる。それは告白してくれた時みたいだったから。 「この前、遥希が見たのは俺の弟だよ。女装が趣味なんだ、勘違いさせて本当にごめん…家に呼べなかったのは弟とルームシェアしてるからで、もう少ししたら出ていく予定なんだけど浮気はしてないし、俺は既婚者でもない!料理は作るのは好きだけど、もっと上手くなってから遥希に食べてほしかったんだ。」 俺の腕を掴む手が力を込められて緊張しているのが分かる。 「だったら弟の写真見せろよ」 「うん、いいよ」 スマホの写真を見せてもらうと直斗に似ている弟と女装した姿の写真が写っていた。確かにこの前見た人だった。しかし、女装のクオリティが高すぎてどこからどう見ても女性みたいだ。 「隠してたわけじゃなくて言おうと思ってたのがズルズルと先延ばしになって遥希の優しさに甘えてた。不安にさせて本当にごめん。遥希が好きだから別れたくない。」 「じゃあ直斗のこともっと教えてよ」 「もちろん、俺にも遥希のこと教えてくれる?」 「うん」 「あと、キス以上進めなくてごめん 遥希のこと大切にしたいからって気持ちが大きくて…嫌われたらどうしよう、とか」 「そ、そこまで思ってくれてるなんて思わなかったよ…」 「思うに決まってんじゃん!!俺、こんなに人を好きになったこと初めてなんだよ…」 「え?」 何言ったこの人。はじめて?ゆでだこの様にどんどん赤くなっていく頬が夜なのに良く映える。 「今まで碌な恋愛してこなかったからどうすればいいか分かんねーんだよ」 今度は俺が赤くなる番だった。俺だってこんなこと言われたの初めてだよ。 多分、俺たちは人よりも不器用で知らないことがまだまだあるけど、これまでを取り戻すように知っていけばいいよな? 「あ、この前のデートの帰り後つけたけどタバコ吸うんだな」 「え、ああそうだよ。ん?後つけたの?」 「うん、浮気の証拠を掴むために」 「そ、そっかぁ…」 やや遠い目をした直斗を見てフッと笑ってしまった。

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