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結婚4
立樹から結婚すると聞いたのは、相談をうけてから1ヶ月後だった。
その日は立樹の部屋で宅呑みをしていた。
その最中に、結婚を決めたと聞いた。
その言葉を聞いたときは、頭が真っ白になった。
確かに結婚適齢期の男女が付き合っていたらそうなってもおかしくはない。いや、自然な流れとも言える。
それでも立樹のことを好きな俺としてはショックだった。
いや、相談を受けていたんだからびっくりする方がおかしいのかもしれないけど。
とにかくショックを受けた俺は、翌日あきママのいつもの店に呑みに行ってあきママに泣きついた。
「だから言ったじゃない。ノンケを好きになるからよ。ましてやイケメンなんて言ったら女が手放さないんだから勝負もできないしね」
「立樹は、俺が好きなこと知らないよ」
「だったら自業自得。まぁ、それでも同情の余地はあるけどね。ノンケのイケメンに告白するなんてそうそうできないものね」
「でしょー? いくら立樹がゲイフレンドリーだからってノンケであることに変わりはないしさ」
「あの顔面だったら女も必死に引き止めるでしょうしね」
あきママは立樹のことを知っている。
一度行ってみたいという立樹を連れて来たことがあるのだ。
そのとき、あきママはもちろんのこと、その日店に来ていたネコが目の色を変えたのは言うまでもない。
ほんとにそのときは立樹を取られちゃうんじゃないかと思ったほどだ。
そのときだけは、立樹がノンケで良かったと思った。
「まぁでも、ゲイとノンケじゃあ永遠に平行線なんだから、いい加減に他の人探した方がいいわよ。あんたモテないわけじゃないんだから」
「確かにそうだけどさ。そう簡単に気持ちの切り替えなんてできないよ」
「そんなんだから恋人いない歴が長引くのよ」
「仕方ないじゃん。今は立樹がいいんだもん」
「そんなに好きなんだったら、結婚する前に告ったらどう?」
「え? 結婚前に?」
「そう。別にそれでどうこうしようっていうんじゃなく、気持ちを伝えるだけでもいいんじゃない?」
気持ちを伝えるだけ、か。
そういう手もあるんだな。
でも、ゲイフレンドリーとはいえ、実際に自分が男に好かれてると思ったら逃げ出すこともあるんじゃないか? 大丈夫なのかな。
だけど、ゲイでもないのに男の俺とキスができるから、悪い反応はないのかもしれない。
「伝えるだけ伝えてみようかな」
「あの彼なら大丈夫だと思うわよ」
「そうかな。結婚前だからあまり気持ちを乱れさせたくないんだよね」
「告って別に付き合えって言うわけじゃないし、いいんじゃな〜い?」
俺とキスはできても男と付き合うことはできないと思う。
それに結婚前だし。
だから伝えるだけ。
でも、それで立樹が離れて行ってしまうんじゃないかっていう不安はある。
あきママは大丈夫だと言うけれど、臆病な俺は不安になってしまう。
恋人になることはなくても、この先もいい友人でいたいんだ。
今までのように毎週のように2人で呑むということは、結婚したら当然無理だろうことはわかってる。
それでもたまには一緒に呑みに行ったりはしたいんだ。
俺はそれを楽しみにしているから。
だから告白することで立樹との距離が離れて、当然そんな時間を持つことができなくなるのが怖いんだ。
「まぁね。いい友人関係でいたいと思うなら不安になるのもわかるけどね。私は客観的に見て大丈夫じゃないかと思ったけどね。後はあんたが決めることよ」
「うん、わかってる」
付き合いたいなんて思ってない。
そんなの好きになったときから思ってる。
でも、好きだから。気持ちだけ伝えたいというのはわがままだろうか。
ビールを一口呑んで考えた。
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