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一番大切な人2

 大翔と別れて家の最寄り駅につく。  週末の華金だからもう少し呑んで来ても良かったけど、大翔が明日はデートで朝が早いと言うから早めに切り上げた。  あきママのところにでも行こうかと思ったけど、省吾さんのことを思い出して行くのをやめた。  別れ話をしたのはまだ先週のことだ。万が一にも鉢合わせしたら気まずい。それなら早く帰ろう。  それでもビールくらい呑みたいなと思ってコンビニに寄り、ビール片手に家まで歩く。  と、少し行ったところで背後から軽く拘束され、首筋にひやりとしたものを感じる。 「!!」 「なんでだよ!」  苛立ちのような言葉が俺にしか聞こえないような小さな声で囁かれる。  下手に動こうならスパッと切れてしまうだろう刃物に怖くてどうしたらいいのかわからない。  背後にいるから顔は見えない。でも小さな声でも声が聞こえたから誰かはわかる。  どうしたらいいんだろう。このまま首を切られちゃうのか。  そう考えていたのはほんの一瞬なんだろうか、大きな人の声が聞こえた。 「なにやってるんだ!」  急に聞こえた人の声に背後の人物も驚いたのだろう、息をのんで逃げた。   「悠!」  聞こえた声は立樹だった。  立樹が助けてくれた。  助かったんだ俺。  そう思うとホッとして涙が出てきた。   「悠。大丈夫か?」  そしてホッとするのと同時に首筋の痛みを感じた。  立樹はコンビニの光の入る場所に俺を連れていき、首筋を見る。  ズキズキと痛むくらいだから血が出ているんだろうかと思って立樹を見ると青い顔をしていた。 「切れてる。悠、病院に行こう」  そっか。痛いのは切れてるからなのか。 「いいよ、病院は行かない」 「なんで! 切られてるんだぞ! 傷害罪だ」 「大事にしたくない」 「でも!」 「誰がやったかはわかってるから」 「なら! 病院行けば警察も来る」 「俺が悪いんだからいいんだ」 「悠!」  病院に行こうとしない俺に立樹は苛立っているようだった。 「ちょっと待ってて」  そう言って立樹はコンビニの中に入っていく。どうしたんだろう。それより首筋が痛くてジンジンする。  しばらくすると立樹がコンビニの袋を持って出てくる。 「公園に行こう」  コンビニからほど近い公園に行くと立樹はガサゴソと袋の中からボトルを取り出し、開ける。  匂いから消毒液だとわかる。 「病院行かないなら手当てしないと」  そう言っている立樹の声は震えている。  ティッシュを消毒液で浸し、俺の首に当てる。かなり痛い。 「いたっ」 「俺が通りかかったから良かったものの、誰も来なかったらどうするつもりだったんだよ」 「助けてくれてありがとう。どうしたらいいか考えてた」 「で、庇うってことは知ってるやつなんだろう」 「うん。1ヶ月付き合った人」  そう。あの声は省吾さんの声だった。 「フラレた腹いせかよ。そんなので襲われるのかよ。悠、やっぱり警察行こう。これは立派な犯罪なんだよ」 「うん。でも、そもそも俺が好きになれるかもなんて思って付き合ったのが悪いんだから」 「だから! そんなので襲われてたら世の中犯罪だらけなんだよ」  街灯の逆光ではっきりは見えないけど、もしかして立樹、泣いてる? 「立樹?」 「もし俺が来なかったら殺されてたかもしれないんだぞ。もし悠になにかあったら、俺……。こっち見るなよ」  そういう声も震えているから、多分泣いている。  俺になにかあったらって思って。  そう思って泣いてくれる立樹が嬉しい。  襲われておいてなに言ってるんだって感じだけど、俺のことを思って泣いてくれる立樹が嬉しい。  そして消毒が済んだんだろう。絆創膏を貼ってくれた。

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