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4-2.

 会話はどうにか成立するのはいいが、この食事の様子を見る限り、フェンはロキ以上に世間知らずのようだ。  しかしまあ、それについては下手に賢しいよりはロキにとっては都合がいい。なにせ、フェンリルには身代わりになってもらわなければならないからだ。無事にオーディンに差し出すまでの間だけ、今みたいに餌で釣っておけばいい。  そう考えながら、ロキは脇に置いたカバンの中を確かめた。フェンに服を渡したから、なおさら中身が寂しい。売れそうなものも、もう無かった。  路銀には限りがある。今夜は宿を諦め、どこかで野宿する方が賢明か。   「日銭を稼ぐ方法も見つけないとな」  ロキは無意識に口に出して呟いていたようだ。  それを聞いた隣の男が、ワインの入った樽ジョッキを握ったまま、赤ら顔でロキの方へと振り返った。  その赤ら顔の男はさっきまで正面に座っていた別の男と楽しげに話していたから、てっきり連れだと思っていたが、どうやら違ったらしい。赤ら顔の男の前にできた空席にはまたすぐに新たな客が腰を下ろした。 「なんだ、にーちゃんも出稼ぎ人か?」  赤ら顔の男は恰幅がよく黒髪に黒い髭を蓄えている。団子鼻の頂点が赤いのは、酒のせいではなく日焼けのようだ。 「いや、まあ……」    ロキは曖昧に頷いた。出稼ぎ人と言うわけではないが、そう言うことにしておいた方がよさそうだ。 「も、と言うことは、あんたも?」  ロキが聞くと、男は「まあな」と言いながら、ジョッキを傾けた。 「何か良い仕事を紹介してくれないか? あまりこの街に長く滞在できないから、できれば即日即金が良いんだけど」  男はそう言ったロキの姿を上から下までじろじろとながめ、そして次にフェンに目をやりまた同じようにじろじろ眺めた。 「まあ、俺がやってんのは肉体労働だからな。あんたみたいなヒョロイのには向かないよ。そっちの白髪のにーちゃんならできそうだが」 「む」  なるほど、フェンを働かせて自分はその間に上層に行くための情報収集をするのもありか、とロキは顎に手を当てた。 「この街でよそもんが仕事を探すなら、男も女も肉体労働だぜ」 「女も?」 「そっ、男は手足で稼いで、女は股でかせぐのよ」  そう言って、男はバシンとロキの背中を叩くと、ゲラゲラと品のない笑い声を上げた。  股ってつまり、そう言うことか……と、ロキは男の話をなんとなく理解した。 「ここらの歓楽街は有名だぞ? 安くて奉仕のいいとこ紹介してやろうか?」  男は何を思い出したのか、ニヘニヘと口の端に唾を溜めながら笑っている。 「なるほど、だからこの街は若い娘が多いんだな」  ロキが言うと、男は「そういうことさ」と得意げに頷いた。

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