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20-12.

 その後ミーミルはロキの首元に視線を戻すと、不安げにロキに纏わりつくヨルムを指差した。 「まさか、フェンリルだけじゃなくて、ヨルムまで連れ去ろうというの? 反逆者だ! なんて、嘆かわしい、オーディンが知ればなんというか!」  言葉とは裏腹に、ミーミルの口元は祭りの前の子供のように笑っている。 「ミーミル、おまえ、バルドルの予言をきいていたんだろ? 黄昏を止めちゃダメって……いったいどういうことだよ……は、反逆者はお前の方だろ!」  ロキはミーミルの不穏な様子に怯えながらも、語彙を強めた。怖がりのヨルムがロキの首元に縋るように顔を埋めている。 「バルドルの……預言?」  ミーミルは顔面に笑顔を貼り付けたまま、その眉だけをぴくりと揺らした。  そして、ゆっくりとした足取りで一歩ずつロキに近づいてくる。 「ああ、そうか。そうだな。黄昏の予言……それは、僕のものにしよう。神々の黄昏は僕のものだ、僕の予言だ」 「な、何をっ……!」  ミーミルが突然ロキの首に手を伸ばした。  左手でヨルムの頭を掴み、投げ捨てると右手でロキの首を強く握る。  軌道を圧迫されたロキは声を出せないまま呻き、ミーミルの手首を掴む。しかしミーミルはロキの体を冥界の穴に向けて押し倒した。  腰壁の上に押さえつけられ、ロキの上半身は、穴に目掛けて傾いている。ミーミルは自分を堕とすつもりだとすぐに理解したロキは、必死に腕を伸ばしてミーミルの顎を押す。  鶫に姿を変えようにも、喉元を掴まれていては捻り潰されてしまう。それに、ロキは風のない場所で鶫になったことがない。飛べる自信が無いのだ。 「ロキ!」 「ミーミル! やめろ!」  声がして、ロキはそちらへ視線を向ける。  神殿に続く階段から、ヘルを抱き抱えたバルドルが降りてきたところだった。バルドルのはロキとミーミルの姿を見つけると、慌ててヘルの体を地面に置いて、ミーミルの肩を掴んだ。  その瞬間、ミーミルがロキの首から手を離す。  ロキの体は支えを失い、ぐらりと頭が下を向いた。もうダメだと思ったところで、右手を強く掴まれた。 「バルドル!」  穴から体を乗り出し、咄嗟にロキの手を掴んだのはバルドルだ。  ロキは片腕だけを掴まれ、冥界の穴にぶら下がっている。バルドルの表情は苦しげに歪んでいた。見ればミーミルがそのバルドルの背中を思い切り踏みつけているのだ。 「お前らが堕ちれば、予言は僕のものだ! 叡智の預言者ミーミルはが、神々の黄昏を予言した!」 「……ミーミル……おまえ、何考えてるんだ……」  苦しげな声でバルドルがミーミルを問いただす。 「俺が導く……神々を黄昏という破滅へ‼︎」  ミーミルが足を持ち上げ、もう一度バルドルの背中を踏みつける。 「やめてよっ! 何してんのよっ! やめなさいっ!」  ヘルの声が聞こえた。  ロキの位置からはその姿は見えない。しかし、ミーミルの頭が揺れたので、ヘルがミーミルの足元にしがみついたようだ。 「キャァッ!」  ヘルの悲鳴が聞こえ、バルドルが半身振り返った。しかし、そのタイミングでもう一度、ミーミルのがバルドルを踏みつける。衝撃でバルドルとロキが繋いでいた手が離れ、ロキの体が中空に投げ出された。そして同時にロキの視界に映ったのは、同じくミーミルに蹴り落とされたバルドルの姿だった。

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