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08 距離感
大学に進学し、今まで通り望月くんとの関係は続いていた。結局引越し当日は呼び出しはなかったが、荷物がある程度片付け終わった辺りで会う頻度が増えた。
今までと少し変わったのは、ハードなプレイが増えたと言うこと。今までお互い実家暮らしで高校生だったため出来なかった事を沢山するようになったある日、講義終わりにばったりと仲の良い友人に会ったので話しかけると、俺の首筋を見てギョッとしていた。
「うっわぁ……お前、何その跡…」
友人の視線の先にあるくっきりとついた跡は、望月くんとのセックスでついたものだ。
「これ?えへへぇー、恋人とプレイしてたらついちゃった」
最初こそはどう誤魔化そうか悩んだが、こうする事が一番手っ取り早いと気付き、望月くんの了承を得てそう伝える事にした。
「お前の彼女、やばくね…?」
「えー?そう?俺は恋人のモノだって印をつけてもらってる気がして幸せなんだけどなぁ」
「…お前らの問題だからいいけど、首は下手したら死ぬぞ。相手にセーブしてもらえよ」
「うん!もっちろーん!じゃあ今からまた恋人の所行くからまた明日ねー!」
「お、おう……」
本気で俺の事を心配してくれている友人に手を振り、俺は一人暮らししている望月くんの元へ向かった。
大学でも人前で仲良くする事は許可してもらえず、俺は今まで通りコミュニケーション能力を発揮してたくさんの友人を作ってその人達と学校生活を満喫していた。
もちろん他人ファーストすぎる自分はやめ、自分も相手も大切にするように生きているので人付き合いも随分と楽になった。
大学近くに一人暮らしをする望月くんの家へ到着すると、いつものクールな表情で迎えてくれた。
「ねね、今度はさぁ玩具とか買ってみた!これ使ってよ!」
「お前さぁ…俺の家にアダルトグッズばっか貯まってくんだけど。もう増やさないでくれる?」
「だって激しい方が望月くんも好きでしょ?」
自分で買った手枷を両手首へ付けて寝転ぶと、困ったような表情をしながらも望月くんは俺の望むプレイをしてくれた。
手枷にはチェーンが取り付ける事が出来るので、ベッドの枠に繋げれば下ろす事が出来なくなってSMっぽくなる。
暴れれば暴れるほど手首には跡が残り、一緒に居ない時に眺めると愛されたい証と思えて気持ちになれる。
「…口開けろ」
壁が薄いのもあって、声が漏れないようにするために口には猿轡を咥えさせられた。これも俺が購入したもの。
別に特別激しいプレイが好きなわけではないが、大学に入って初めて拘束プレイをした時に、望月くんが興奮していつもより長く抱いてくれたから俺も好きだというだけ。
今日も今日とてヒートアップした望月くんに激しく抱かれながら、俺は何度も何度も絶頂した。
「はぁぁ…今日も最高だった。次は首輪も付けてね」
「お前首の跡やばいんだぞ。だから消えるまで暫く無しだ」
「えぇ、つまんなーい」
「……もういいよ、早く帰れ」
「やだ!まだ一緒に居たい…っ望月くん好き…大好き…」
ぎゅっとしがみついて甘えると、今までみたいに無理矢理剥がされる事はなくなった。かと言って抱き締めてはくれないが、かなり進歩してきているはずだ。
本当は毎回激しいプレイじゃなくてもいい。けど、そうじゃないと飽きられてしまうかもしれない。今更普通のプレイじゃ満足させてあげられないかも、と思うとどうしてもこうなってしまう。
(告白してから何年も経ったけど、まだ返事くれないなぁ)
別に返事を求めてたわけじゃないけど。
大学でも相変わらず望月くんは一人で過ごしていて、俺に合鍵も渡してくれてるし、他に仲良くしてる人も居なさそう。だからまだ安心出来ているけど、もし望月くんに誰か別の人が出来てしまったら、俺はどうなってしまうんだろうか。
そんな不安を和らげてくれるのはやっぱり残った跡しかなくて。
「望月くん、大好き」
「はいはい。分かったから、今日はもう帰れ」
「…うん」
好きになればなる程、望月くんに呼び出される回数が減っていく気がする。詳しく数えたわけではないけれど体感的に。
(やばい。かなり独占欲が出てきちゃってる。今までこんなに誰かを好きになったことなかったからセーブ出来ない。このままじゃ完全に嫌われるかもしれない)
少しずつ距離を置いて、一歩引いても心を保てる場所に居ないと。
そう思った俺は、次に送られてきたメッセージを初めて既読スルーした。
◇ ◆
「………連絡がこない」
一度メッセージをスルーしてから、約一ヶ月、望月くんからの連絡はこなかった。
「えぇ、あのハードな彼女がぁ?」
「何かあったの?」
「俺が恋人にハマりすぎてるから一旦距離置こうと思ってぇ…既読スルーしたらそれからこないいぃぃ」
「えー…メンヘラ彼女かと思ってたからそんなにしたら逆に激しく求められるかと思ったけどな」
「別に恋人はメンヘラじゃないよ…寧ろ俺がめちゃくちゃ好きなだけで…」
「ふぅん…じゃあ尚更お前から連絡取らねーと終わるんじゃね?」
「…でも」
「まぁ千明がこのまま終わってもいいならいいけど、ちゃんと話し合った方が良くない?」
「そうそう。話し合わないと何も分かんねーしな」
連絡先を交換した時に、そっちから連絡はするなと言われていたので送っていいのか分からない。
けど、このままじゃ本当に終わるかもしれない。
でも……でもどうしよう。
グルグルグルグルと頭の中がぐちゃぐちゃになると、初めて学校で望月くんが話しかけてきた。
「…瀬野くん、少しいいかな」
「お、確か望月くん?だっけー?今千明恋人と上手くいってなくてヘコんでんだー良かったら慰めてやってぇ」
「よ、余計な事言わなくていいからぁ!も、望月くん…ど、どうしたの…?」
俺がテンパりながら返事をすると、こっちに来いという圧を送られたので、ついていく事にした。
人気のない場所へ連れて来られた俺は、ドキドキしながら望月くんの顔を見つめた。久しぶりにこんなに近くで顔が見れて嬉しい反面、何を言われるのかが怖い。
「この前俺のメッセージ無視して、今まで放置して何考えてんの」
「………ごめんなさい。望月、くんの…呼び出しが減ったから……それって、俺がどんどん独占欲、出してるからだよね…だから一歩距離を置いた関係に、ならなきゃとと思って」
「は?週に3回も呼び出してたのに?」
「メッセージ遡ったら前は週に4回だった……たまに5回の時もあったし」
「え、まじか。……まぁとにかく、今日は来い。絶対に」
「…うん」
終始冷たい瞳のままそう言葉を放つ望月くんは、話が終わるとすぐに何処かへ行ってしまった。
(振られるのかな。けど関係を終わらせたいなら、わざわざ学校で話しかけてはこないよね…)
そう思いながらも、不安を抱えたまま講義を終えた。
◇ ◆
「…」
部屋に着くなり、望月くんは終始不機嫌な表情をしていた。重い雰囲気をかき消すためにベッドの端に追いやられた手枷を付けようとしたら、パシッと手首を掴まれた。
「俺、お前を手放す気はないからちゃんと話し合いたいんだけど」
「…?」
「まず呼び出し頻度が下がったのは悪かった。というより…週に何回とか、正直数えてなかったから故意に減らしたわけではなかった」
「…うん」
「それとさ。お前、本当にこういう激しいプレイ好きなの?」
「……跡を、付けて欲しかった。一人の時に眺めてると…心が安定して…。それに最近はずっと激しいプレイばっかりだったから、普通に戻ると飽きられちゃうかもって、不安になって…だから、」
「俺は別にこんな激しいプレイ好きじゃない。ていうより首の痣とかそうだけど、見てて心配になるからこういうのはやめたい。お前がこれでしか興奮出来ないとかならたまにはやるけど…」
「…ふ、普通のプレイでも…飽きたりしない?」
「今更飽きるわけないだろ。そもそも高校の時も普通のしかしてなかったけど、飽きなかったじゃん。最初提案された時は新鮮で楽しかったからいつもより長くプレイしちゃったけど別に俺激しいの好きじゃないからな」
「…」
「俺は…お前が居るだけで満足なの。フェラも上手いしセックスも気持ち良いし。…とにかく俺は今までのお前で居て欲しいの」
明らかに勘違いしてしまいそうな言葉だが、それでも俺の事を好きとは言わない望月くん。
それでも彼にとってはこの話し合いはかなり大きな行動なんだろう。
「……本当は、普通のエッチがいい。望月くんとずっとずっと…今まで通りの関係で居たい」
「じゃあ余計な事は考えずに、これからも俺が呼べば来い。…特別にお前がどうしても会いたい時は連絡してきてもいいから。すぐに行けるかはその時次第だけど」
「!…うん、っ!うん……」
ボロボロと涙が溢れると、望月くんは困った顔をしながらも頭を撫でてくれた。今まで激しいセックスをした時に出る生理的に流す涙しか見せた事がなかったから。
俺は自ら歩み寄ってきてくれた望月くんに感謝しながら抱き付いた。
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