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最終話
浬と羽場と辻の三人で大学内のカフェテリアに来た。丸テーブルを囲い、中央には今日まで頼まれていた講義のレジュメの山がある。その山を見つめてから辻が唇を尖らせた。
「つかなんで羽場もいるわけ?」
「もう藍谷にレジュメや代筆を頼むのは辞めろ」
「羽場に関係ないだろ」
羽場は辻を一瞥し、きゅっと口の端をあげる。
「藍谷と付き合ってるから関係ある」
「は?」
「ちょっと羽場くん!」
「こいつにはちゃんとわからせたほうがいい」
「でも」
羽場の言葉に辻は目を白黒とさせた。
「おまえらホモなのかよ! キモ! おれに近づいたのも身体が目当てだったのか!」
「違うよ、辻くん」
「金輪際おれに関わるなよ!」
そう言ってレジュメをしっかりもって辻は逃げ出してしまった。
その様子を見ていた周りからヒソヒソ話が聞こえてきて居た堪れない。
「なんでそんなこと言っちゃうかな」
「どう言おうが望んだ通りになったんだからいいだろ」
「そうだけど、なんか違う」
一緒に講義を受けようと誘いたかっただけなのに羽場のせいでこじれてしまった。でもどこか雨上がりの青空のようにさっぱりした気持ちもあったのも事実で強くは言えない。
「もう用は済んだろ。家に帰るぞ」
「サークル行かないの?」
浬の反応に羽場は目を眇め、肩に手を置いた。
「まだ背中が痛いから参加できそうにない」
「そっ、それは」
情事のときを思い出し頬が熱くなった。必死に羽場にしがみついていたせいで、終わったあと背中を見たら酷い有様だった。
「藍谷が俺に点字を残してくれたのは嬉しいけど、なんて打ってあるから読めないから教えて」
耳元で囁かれざわっと肌があわだつ。睦言のように甘い声に腰が砕けてしまいそうだ。
羽場が歩き出したので慌てて追いかけた。そもそも背中の傷が窪んでいるので点字とは言えないと全うなことを返そうとしたが、 羽場なりに甘えているのかもしれないと思い止めておいた。
「ねぇ」
羽場の手を自分のものと絡ませてぎゅっと強く握った。そうすると羽場はったくなく 笑ってくれた。
これから羽場の手を繋いで前に進む。
そう決めたらどんな困難が待ち受けても一 緒に乗り越えられる気がした。
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