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第1話

 教室の前に人だかりが出来ている。なんだろう、と純粋な疑問と同時に、どうせまた、と原因を決めるつけている自分もいた。 「ごめん、通して」  野次馬をかき分けて、教室の中を覗く。昼食を食べていたはずのクラスメイトたちも、廊下や入り口付近に避難していて、来訪者三人とクラスメイト一人の舞台が完成されていた。  来訪者の足跡を辿るように机が道を作っている。ネクタイの色で察するに、三年様だ。 「セキぃ……、止めれそう……?」 「無茶言わないでよ……」  野次馬の先頭に居たクラスメイトが僕に場所を譲る、というか、僕を盾にする形で一歩後ろに引っ込んだ。  囲まれているクラスメイト、菖蒲彩芽は、御御足を机の上で組み、気怠そうに窓の外を見ていた。ハーフアップにした薄いブロンドが、陽の光にあてられ煌めいている──ように見える。 「聞いてんのかって!」  シカトされていたらしく、三年の一人が彩芽のシャツを掴んで引っ張り上げた。上手な彩芽の舌打ちは、入り口近くにいる僕まで届く。身長は平均より少し高いだけなのに、圧があるのか三年三人より大きな存在に見えた。  彩芽はゆっくり足を降ろして、立ち上がってあげた。彩芽を囲む三年たちの間から、挑発するようにゆっくりと口角をあげていくのが見える。瞬間、彩芽の胸ぐらを掴んでいた一人が右手を大きく振り上げた。  一歩も動かない彩芽の頬に思い切り打ち込まれる。彩芽は椅子を巻き込んで倒れ込み、廊下から悲鳴があがった。 「そういえば、先生呼んでる?」  誰かに聞くと、呼んでくる、と返事が返ってくる。 「──おい」  低く唸るような声は、彩芽から、三年では無く僕に飛んできていた。しかし、勘違いした三年が「余裕ぶってんな!」と倒れた彩芽に蹴りをいれる。  唾を吐きながら、先公を呼ぶなとでも言いたげに、笑いながら僕を見ていた。 (そういうわけにもいかんでしょ)  彩芽はもう一度舌打ちしながら立ち上がる。そして、予備動作をそうと感じさせないなめらかな動きで、最初に殴った三年の頬に右拳をたたき込んだ。  バキィッ、と肌と肌がぶつかり骨を打つグロテスクな音が教室に響く。最初に三年が殴ったときとは比べものにならない壮絶な音に、今度は悲鳴すら上がらなかった。  それから、蹴りを入れた一人の鳩尾に拳を入れ込む。昼と唾が混じった吐瀉物が飛び散った。 「きったねえなぁ……!」  空いていた窓から風が吹く。薄いブロンドがはためく。暴力に高揚し笑みを浮かべ、もう一人から『先に手を出される』のを待っている。恐ろしくて、美しい。  彩芽は先に手を出さない。でも絶対にやり返すはずだ。少し小突くだけで良い。もう一度美しく舞うブロンドが見たいから、彩芽を殴ってくれと思わずにいられない。  彩芽は黙ってその時を待っている。三年は動揺して、固まってしまっていた。固まるな。この教室に来るまで抱いていた怒りや憎しみを、ぶつけてしまえ。そうしてもう一度──。 「菖蒲ーッ!!」  聞き慣れた怒声が教室に割り込んできた。生活指導の後藤先生だ。幸い、僕の舌打ちは彩芽の上手な舌打ちにかき消される。 「うるせ~」 「お前、なんてことしたんだ……!」  惨状に目を丸くした後藤先生が、真っ先に彩芽のほうに向かっていく。彩芽は絶対に弁明しないから、お節介だろうが口を挟んだ。さすがに恋人が一方的に責められるのを、見過ごすわけにはいかない。 「後藤先生、先に殴ったのは三年のほうですよ」  こちらを一瞥される。ごつい生活指導のテンプレートみたいな後藤先生は、立っているだけで圧があった。つい目を逸らしそうになるが、仲良しごっこで庇ったと思われても嫌なのでなんとか視線が逃げないように堪える。  後藤先生は、殴られた三年たちが立てることを確認すると、四人を引き連れて教室を出て行った。 *  彩芽はやりすぎとのことで二週間の謹慎になった。彼女を取られただの、しょうもない理由で先に手を出した三年たちは被害届を出さず、なあなあになったのだ。  今日は彩芽の謹慎が終わる日、のはずだが、登校してきていない。  窓の外は稀に見る豪雨で、公共交通機関の計画運休も発表されていた。大方、勝手に休みだと思い込んで家で寝ているのだろう。  計画運休に合わせた早めの終礼が終わり、スマホを確認すると一通のメッセージがあった。 『知らん 寝てた』  僕が今朝彩芽に送った『今日から来るんじゃないの?』というメッセージに対する返信だ。 『お店ちょっとだけ開けるけど来ない?』  既読は付いた。返事は無い。そういうやつだ。  高校から歩いて十分の商店街に、僕のおじいちゃんが営む『ひなせ書店』はある。体の不調や通院が多くなり店頭にあまり立てなくなったおじいちゃんの代わりに、放課後や土日は僕が店を開けることにしていた。  今日も豪雨が予想されていたから、家を出ないように娘(僕のお母さん)に言いつけられていて店は開いていない。裏口から店に入り、開店の準備をする。この豪雨での客足は期待していないが、予約した本を受け取りたいと連絡してくれた常連さんがいる。  シャッターを開け、一応SNSに開店のお知らせをあげる。来客があるまでは、いつもレジカウンターで勉強している。県内有数の馬鹿高だから課題はほとんど無いが、勉強は趣味のひとつだった。  時計が秒針を刻む音と、商店街の屋根を叩きつける雨音を聞きながら、テキストを解いていく。  カランと、来客を知らせるベルが鳴った。期待して顔をあげるが、そこには常連さんの親子がいる。 「いらっしゃいませ!」 「セキくんー!」  年長さんの彼女が、無邪気に僕に駆け寄ってきてくれた。カウンターを出てしゃがみ込むと、両手を握ってぶんぶん上下に振ってくれる。 「がっこーじゃないの!? やめた!?」 「ふふ、やめてないよ~。雨だからお休みになったんだ」 「あのね、みくもね、ようちえんおやすみだった!」 「そうなんだ! 一緒だねえ」  最近幼稚園で覚えたダンスを見せてもらっている間に、みくちゃんのお母さんは目当てのものを探している。小さな手が上に下に、跳ねてもしゃがんだ僕より低い位置にある頭に癒やされる。一曲終わる頃には、みくちゃんのお母さんも雑誌を何冊か抱えてレジに来ていた。 「ばぁーんっ! どう? どう?」 「すごい上手だね! ここ、かっこいい!」  おそらくサビに当たるのであろう箇所の振り付けをマネしてみると、みくちゃんが得意そうに笑う。 「いつも仲良くしてくれてありがとうね」 「いえいえ! こちらこそいつもありがとうございます」  これだけで、もう開けて良かった気分になれるから不思議だ。会計を済ませて、もう一回踊ろうとするみくちゃんをお母さんが抱きかかえる。二人が振り返ると、その背後には見慣れた薄いブロンドがいた。 「アヤメ!」  みくちゃんがビシッと人差し指でさす。子どもは怖いもの知らずだ。一方で、彩芽の良くない噂を耳にしているみくちゃんのお母さんは、そそくさと店を出て行ってしまった。  その背中を見送った彩芽は、気にする様子もなくレジカウンターのほうに入ってくる。さらにその奥にある四畳の畳部屋に勝手に上がって座り込んだ。 「彩芽、今日なにしてたの?」 「寝てた」  店頭に置いてあったはずの週刊漫画雑誌を勝手に持ち込んでいる。 「会計忘れないでね」 「んー」  誘ったのは僕とはいえ、することも無ければ駄弁るわけでもないのに、会いに来てくれるあたり可愛いところがある。僕は畳部屋の入り口に座って、漫画を読み始めた彩芽の横顔をなんとなく見つめた。  いつもガン飛ばしているからわかりにくいが、瞳は大きい。眉まで丁寧に脱色していて、肌も白いから、全体的に色素が薄い。暴力性を知らなければ、桜に攫われると勘違いしそうだ。 「見過ぎ」  鼻で笑うくせに、僕を見る瞳は穏やかだからずるい。 「彩芽、綺麗な顔してるよね」 「聞き飽きた。ほかの語彙探して来いよ」  そのまま、顔を隠すように寝転がってしまった。僕の位置からでは彩芽の顔は見えない。代わりに無防備になった形の良い尻を揉んでやろうかと思ったが、まだ店が開いている。僕は仕方なくレジカウンターの椅子に戻った。 「まだもうちょっと開けてるから、待っててね」  返事は無い。そういうやつだ。 *  雨音が強くなって、雷が鳴り始めた。つい肩が跳ねるほど大きな雷鳴に、何度も集中力を切らされている。  彩芽が来てから一時間は経った。その間の来客は、近くの百均で働いているおばちゃんが、暇つぶしのクロスワードを買いにきただけだ。 「セキ」  三年を威嚇したときの低い唸り声が同じ喉から出ているとは思えない、甘えを隠さない静かな声に、雷鳴と同じくらい肩を跳ねさせてしまった。 「なに?」  平静を装って振り向く。畳部屋から顔だけを覗かせて、こちらをジッと見ていた。 「まだ店閉めねえの」  いつ構ってくれるの、と副音声が聞こえてくる。 「予約を受け取りに来る人が来たら、閉めるよ」 「いつ来んの」 「三時頃には来ると思うけど、……待てない?」  彩芽の顔が引っ込んでいく。予定まであと三十分だが、小さく「待てない」と聞こえた。  畳部屋に上がる瞬間、店のことなんて忘れていた。体が勝手に動いていた。  彩芽とは小学生の頃からの付き合いで、体から始まったような関係だ。愛しさなんて後から付いてきたはずなのに。このヤンキーのテンプレートみたいな男に、僕の心臓の掴み方を熟知されている。  ヤンキーのテンプレートみたいな蹲踞で待っていた彩芽は、したり顔で赤い舌を突き出してた。 「すけべ」 「こっちの台詞だけど」  まんまと僕はその赤い舌に吸い付いた。僕たちのキスは喧嘩みたいで、なぜか視線をかち合わせたままになってしまいがちだ。  ぢゅ、と音を立てる。彩芽はいつの間にか膝を着いていた。彩芽の眉間に皺が寄っていく。視界の隅に紅潮した頬が映った。角度を変えて、今度は彩芽の口内に舌を押し込む。柔らかい舌は引っ込んで、僕が好き勝手動き回るのを許した。  あんなに雨音がうるさかったのに、キスの音だけが響いているように錯覚する。  逃げないと分かっているけど、逃げないように彩芽の肩を掴んだ。もう片方の手で、シャツの上から胸に掌を押しつける。くるくると数回揉むように撫でると、掌の中心に硬いものが当たった。 「んぅッ」  くぐもった声が聞こえる。 「しぃ」  僕はわざとキスをやめた。ぐ、と唇を一の字に結ぶ彩芽を目に焼き付けながら、今度は両手で胸の突起を掴む。柔らかいシャツの生地越しに、引っ張って、押しつぶす。  彩芽の腰は逃げるように後ろに下がっていって、いつの間にか尻を着いて座っていた。ようやく僕より目線が下になる。  指で乳輪を撫で、突起の下部をさする。少し動かすだけでシャツが擦れて快感を拾うらしく、彩芽は手の甲を自分の口に当てた。  爪先でカリカリと何度も弾く。彩芽が一番好きな責め方だ。声を我慢しきれないのか、首を横に振り始めた。 「なっ……、も、んッ、ぅ」 「静かにって」  下からキツく睨まれる。嫌なら殴り飛ばせるくせに。僕だって、静かにさせたいなら責めるのをやめればいいだけなのに。僕たちはできない。盛り時の僕たちは、この熱を止めるだけの理性が無かった。 「彩芽……っ」  一回抜いてもらおうと、彩芽の手を取る。  しかしその直後、店のほうから、カランと来客を知らせるベルが鳴った。 「すみませーん」  僕は顔を出さずに声だけで返事する。 「はーい! すみません、少々お待ちください!」  彩芽は物足りなさそうに僕を見上げた。たぶん、店から彩芽の姿は見えていないはずだ。僕のお尻は見えているかもしれないけど。  顔に張り付いたブロンドを耳にかけてやって、声が響かないよう耳元で囁く。 「二階で、準備して待ってて」  声を出さずに、彩芽は頷く。僕は前屈みになって店に戻った。丈の長いシャツに着替えていてよかった。 *  来客は、予約をしていた人では無かった。たまに顔を出してくれる男性で、雑誌を何冊かまとめて買っていった。  男性客を見送った僕は、すぐさまイヤホンとスマホを繋いだ。それから、二階にいる彩芽に電話をかける。  数秒のコール音のあと、画面がぱっと切り替わり、彩芽を映した。  二階は手狭な居住区になっている。もともと祖父母が住んでいた場所だが、通院が増え僕と同じ家に住むようになり、今は僕の第二の部屋になっている。書店の経営に口を出さない両親も、足腰を痛めて急な階段を上がれなくなった祖父母も、もう滅多に入ってこない。来年受験を迎える僕にぴったり、と言ってくれているが、その実僕と彩芽のヤリ部屋と化していた。  ソファに腰掛けた全裸の彩芽も、イヤホンを付けて僕を見ている。その隣には、バイト代で買い集めたアダルトグッズを詰め込んだ箱が置かれていた。 「聞こえる?」 『ん』  スマホは、ちゃぶ台に設置したスマホスタンドに置かれているはずだ。  彩芽は一人より肌の色素が薄かった。均整の取れた筋肉は何度見ても惚れ惚れする。長く伸びた手足を「陶器や彫刻みたい」と褒めたら「キツい」と返されたこともあった。そのくせ褒めの語彙を増やせというから、我が儘だ。 「足、開いて」  店内には僕しかいないのに、つい小声になった。彩芽だけを見ていたいが、来客を警戒して意識が散漫になる。  僕を挑発するように、彩芽は大胆に足を広げた。恥ずかしさはあるのか、顔は横を向いたまま。彩芽の中心部は、男性にあるべき一物が無く、濡れた女性器と、控えめに恥肉の間に収まる突起があった。 「見せて」  彩芽の細長い男性の指が、両側から恥肉を引っ張り、赤い膣内を見せつける。やっぱり、芸術品みたいだ。  昔から、彩芽の体には男性器ではなく女性器が備わっていた。性自認は男性だし、体付きもどうみても男性だ。僕が心底綺麗だと感じる顔だって、女性のよう、という表現は相応しくない。ただ、秘められた下半身のそこだけが、女性のそれを模していた。  排卵、月経は無いらしく、性交渉したとして妊娠することはない。  彩芽自身はそれを「便利」と言っているが、僕自身は言葉で肯定できかねていた。  ぐっしょりと濡れる恥部に、体毛は無い。よく見たいから、僕がお願いして剃ってもらっている。  ただ開いて見せつけているだけなのに、彩芽の呼吸に合わせてとぷりとぷりと愛液が零れ、お尻の下に敷いたタオルにシミを作っていた。  顔をそっぽに向けたまま、急かすように目線だけで僕を何度も見る。このまま意地悪していたいが、僕だって彩芽のいやらしい姿を早く見たい。 「吸引バイブ付けて、テープで貼って」  彩芽は隣に置いた箱から、紫の玩具を取り出す。卵型の粘土を縦に引っ張ったようなフォルムで、細いほうがウェーブを描き、その先端に空いた穴でクリトリスを覆えるようになっていた。  人差し指で愛液を救い、クリトリスに撫でつけながら膨らませる。恥肉を指で開き、穴にクリトリスを食わせる。玩具の尻の部分を恥骨の間に置いて、サージカルテープで貼り付けた。  暴力を快感とする男が、快楽を求めて健気に僕の言うことを聞いている。彩芽が好きだということを差し引いても、興奮するものがある。 『できた』  舌足らずな声が、イヤホンを通して脳に直接届けられた。はあ、と上擦った吐息もすぐそこで聞こえる。 「声、出さないようにできる?」  彩芽は嫌そうに眉間に皺を寄せ、もう一度箱に手を突っ込んだ。大人用のおしゃぶりを、仕方なさそうに咥える。  僕がどうしても見たくて買ってきたものだが、彩芽自身に快楽をもたらさず、ただただ羞恥を呼び起こすだけのおしゃぶりは気に入らないらしい。ただ、ほかに口枷になるものが無いから、仕方なく使ってくれている。  成人男性と遜色ない彩芽が、赤子をあやすおしゃぶりを咥えている。倒錯的な映像に夢中になりかけて、慌てて店内を見回した。誰も来ていないはずだ。たぶん。 「イくところ、ちゃんと見せてね」  彩芽の両手の指が、再び恥肉を両側に引っ張る。膣内は期待してヒクついているように見えた。  あらかじめ持ってきていた、吸引バイブのリモコンをポケットから取り出す。店の一階と二階に別れて、こんな風に遊ぶときは、必ず吸引バイブを使うから、持ってきていてよかった。  まずは一番弱い振動を与える。彩芽の体がびくりと小さく震えた。 『んっ、……ふぅ♡』  もどかしいのか、腰が揺れている。開いた蜜壷からは、どばどば愛液があふれ出していた。足がどんどん開いていって、身を揺らしながら快楽に耐えている。 「強くするよ」  振動をもう一段階激しくさせる。 『んんぅうッ♡』  たんっ、と床を蹴る音がした。スマホの向こうで、彩芽の両足が少しずつ上がっていく。吸引から逃げるために腰を引いているのか、押しつけているのか、へこへこといやらしく上下に腰を動かしていた。  そのうち今度は足が閉じそうになっていく。彩芽は、自ら足の付け根を抑えて、僕に自身の痴態を見せつけた。  思わず生唾を飲む。レジカウンターの下で、僕自身は完全に臨戦態勢に入っていた。ティッシュと消臭スプレーを寄せて、少しだけズボンを下ろす。マスクを持ってくればよかった。 『ふ、んっ♡ んッ♡ んぅうッ♡』  彩芽の声が毒にもほどがある。黙って振動を最大まで一気に引き上げると、彩芽は大きく体を跳ねさせた。 『ンンンンッ!?♡』  果ててしまってのであろう、びくんッびくんッと体を跳ねさせながら、目尻に涙を溜め首を横に振っている。もう嫌だと訴えながら、彩芽の両手は健気に足の付け根を抑えたままだ。  僕自身を握り込む。頼むから、誰も来ないでくれと願った。  彩芽の白い肢体が汗ばみ火照っていく。背中を大きくのけぞらせるから、顔が見えなくなっていた。代わりに立派な、噛みつきたくなる喉仏が晒される。 『ふ、んっ、ん、んンッ♡ ンーッ♡』  声色で体が追い詰められているのが分かる。 「あやめっ、あやめ……!」 『んんうッー!!♡』  彩芽の秘部から、ちょろ、と愛液ではないものが溢れた。持ち上がった足は、爪先までピンと伸びている。カクカクと体を痙攣させながら、溢れる潮吹きは止まらない。  リモコンを止めても、痙攣は止まらない。余韻に浸る彩芽を見ながら、僕もなんとか精液を吐き出せた。急いでティッシュに包んで、何重にも包んで捨てる。執拗なほど消臭スプレーをレジカウンター内に振りまいた。  彩芽はじっと僕を見ていた。次の言葉を待っているのか、まだ快楽が抜けきらず呆然としているだけなのかは分からない。呼吸が整ってきたのを見計らいもう一度吸引バイブの電源を入れると、目を瞑ってまた足を開いてくれた。  今度は最弱のまま、時間をかけてイかせたい。  しかしすぐに、カラン、と来客を告げる鐘が鳴る。 「お客さん来た」  短く彩芽に伝えて、イヤホンを外した。スマホはカウンター内に隠して、見れるようにしておく。 「ごめんねセキくん、遅くなっちゃった!」 「とんでもないですよ!」  予約した本を受け取りに来た常連さんだ。  荷物もスーツもびしょ濡れなのか、律儀に濡れたものは店前に置いて、財布だけを持って入ってくる。シャッター街でしかできない不用心さに、少し心配になった。 「外すごいね、傘が全然意味なかった!」  店に入る前に拭いてくれたのか、肩に掛かるタオルは見るからに濡れていた。 「明日早くから出張でさ、どうしても今日受け取りたくて。開けてくれてありがとうね」 「そんな、こちらこそいつもありがとうございます! 帰り道気を付けてくださいね」  本が濡れないように、大きめのビニール袋に入れ、畳んで、開かないようテープで留めて渡す。 「セキくんも気をつけてね」 「はい!」  今日はここに泊まるつもりだが、心配はありがたく受け取っておく。常連さんが店頭から去るの見送って、ようやく彩芽に視線を戻せた。  彩芽は自分から吸引バイブを外すことなく、びくびくと小さく跳ねながら責め苦を享受していた。 「彩芽、おまたせ」  イヤホンを付け直し声をかける。 『……んッ♡』  彩芽がちらりとこちらを一瞥し、目を瞑った。愛液を散々受け止めたタオルは、もう別の色になってしまっている。 「店、閉めるね。欲しいほうにプラグ入れておいてよ」  こく、と頷いたのを見届けて、電話を切る。吸引バイブの電源も落として大きく息を吐いてから、真っ先に店のシャッターを下ろした。 *  早く彩芽と交わりたいからと云って、掃除で手を抜くわけにはいかない。なるべく自分の出せる最高速度で店閉めの諸々の作業を終わらせた。  二階に上がると、彩芽がソファの背もたれを倒し横になっていた。上半身はシャツを着直していたが、濡れた下半身はそのままだ。ちゃぶ台の上には、サージカルテープが着いたままの吸引バイブが捨てられていた。 「おまたせ、彩芽」  おもむろにこちらを振り向いて、上目遣いで僕をじっと見る。愛らしい猫みたいなのに、いやらしい。  隣に座って両手を広げると、起き上がった彩芽が大人しく両手の間に入ってくる。抱きしめて、首筋の匂いを嗅いだ。甘過ぎない洗髪剤の香りと、汗の酸っぱい香りが混じり合う。シャツの中に手を入れて背骨を撫でると「あっ」と小さな声が漏れた。  二週間ぶりの彩芽だ。暖かくて、すべすべて、いやらしくて、美しい。  物足りなかったキスを埋めるように唇を重ね合わせる。ちゅ、ちゅ、と何度も離れては押しつけ合う。彩芽の後頭部に手を添えると、彩芽は薄く唇を開いた。顔の角度を斜めにして、唇同士が沿うように食む。それから舌を伸ばして、彩芽の舌先に触れた。 「んっ……、ふ、んッ」  どちらの声とも分からない音が、雨音と一緒に響いた。  柔らかい舌が気持ちいい。こちらの口内に招いて、唇全体で彩芽の舌を堪能する。  名残惜しくてキスをやめられずにいたら、彩芽に肩を押されてしまった。 「なげえ」  突き放すような物言いだから、焦れているのだ。 「ごめんね」  僕はソファの下に座り、彩芽の足の間に入り込む。大きく足を開かせると、性器にプラグが入っていた。 「こっちが欲しいんだ?」  プラグの取っ手に指を通し、ゆっくりと引き抜く。一番太い部分が入り口を通るところで止めて、少しだけ押し込む。とぷりと溜まった愛液が零れ出た。 「ぁっ、ン♡」  何度かプラグを抽挿させて、最後に全部抜いてしまう。どぷりと溢れた愛液は、濡れていた後孔を覆った。 「お尻も準備してる?」 「し、た」 「いい子だね」  親指でクリトリスを挟み込む柔い肉を広げる。先端だけ、中身がちらりと見えていた。舌を尖らせて剥き出しの場所を突く。 「ンッ♡」  指で皮を押し上げ、敏感な場所を剥いてしまう。ぢゅるるっ、とわざと大きな音を立てて勢いよく吸い上げる。 「ぁああアッ♡」  掠れた高い声で彩芽が啼いて、ぷしゅ、と潮がまた零れた。  苦い愛液を舌で梳くってクリトリスに押しつける。それからまた吸い上げ、小さな蕾を唇でフェラした。舌先で根元をぐりぐり抉って、何度も上下になぶり倒す。 「ひっ、ァッ♡ ~~ッぉ、ふうッ、んっ、ぁ、あッ♡」  彩芽の手が僕の頭を掴んで、筋肉の付いた太ももが僕の顔を挟んだ。快楽で力が入らないのか、そんなことじゃ僕はビクともしてやれない。  親指で、クリトリスを根元から伸ばすようにぐッと押し上げる。伸ばした舌をを膣に這わせると、「あぁんっ♡」と力が抜けたような嬌声が上がった。 「あっ、ぁ、それ、あつ、ぃ♡」  愛液を吸うたびに、彩芽の体がびくんと小さく跳ねた。膣内に舌を差し込むと、とめどなく苦い液が流れ込んでくる。僕はそれをできる限り飲み込んだ。ごく、ごく、とわざと音を立てると、その度に彩芽が恥ずかしそうに唇をきゅっと結ぶからだ。  後穴からクリトリスまでを、舌の腹で何度も往復する。途中、また潮を吹いてしまったのが分かった。尿道を舌で押し込むと、太ももが僕の顔を挟む力が強くなった。 「ああっ、あ、あッ♡ ふぅうう……ッ♡」  びちゃびちゃ濡れた顔面を離すと、彩芽は気まずそうに僕から目を逸らした。クンニの後はキスを嫌がられるから、顔を拭いてうがいをしに行く。二階が、洗面台も近いワンルームになっていてよかった。 「彩芽も水飲む?」 「飲む」  コップに水を汲んで渡す。ちびちびと喉を潤す彩芽を横目に見ながら、僕は前々から準備していた新しい玩具を取り出した。  ソファに座る彩芽の死角になるように、背を向いて作業する僕を怪しむ声が飛んでくる。 「セキ、なにしてんの」  僕は無視して、関係ないような話題を返した。 「彩芽さぁ、この前との三年との喧嘩って、女性絡みなんだよね?」 「あ? だからァんだよ。向こうが勝手に勘違いしたんだよ」  明らかに気を悪くしている。つい数十秒まで可愛くあんあん喘いでいた男とは思えない圧があった。 「勘違いさせるようなことしたってことでしょ?」 「してねぇよ。すれ違ったとき声かけられただけ。だりぃからロクに返事してやってねえわ。なに? 疑ってんの?」 「疑ってる、わけじゃないけどさぁ……」  本当は一ミリだって疑っていない。だけど、こういうシナリオが欲しかったのだ。  僕は手に持った銀のソレを彩芽に見せつける。全長五センチほどの、小さなパールが繋がった小さな玩具。 「彩芽はかっこいいから不安になるんだよ」 「はぁあ? 嘘吐け。てか、ンだよそれ」  僕は彩芽の正面に座る。訝る視線を受けながら、太ももに頭を乗せた。 「まだ一個だけ、開発してない場所あったよね?」 「……は」  彩芽は一瞬考えて、思い当たった顔をしたくせに「ねえだろ」と返事した。 「ここまで開発させてくれたら、不安もなくなっちゃうんだけどなぁ」 「い、いや、もう、全部渡しただろ、ねえよ」  それ以上後ろは無いのに、彩芽は少し体を引いた。  全部渡した、なんて熱い台詞を受け取らないのは申し訳ないが、彩芽が思っている以上に僕は彩芽の全部が欲しいのだ。 「気持ちいいよ?」 「お前は分かんねえだろ」 「気持ちよくする」 「無理だって」 「お願い、彩芽」 「やだ、じゃあ帰る」  立ち上がろうとする彩芽の腰を掴んで止める。 「帰すわけねえだろ。ねえ、彩芽」 「変態」 「好きだよ彩芽」 「……」 「彩芽も、僕のこと好きだよね?」  上手な舌打ちが返ってきた。 「良くなかったら嫌いになる」 「頑張るね」  初めて玩具を使った日も、初めてお尻をいじくった日も、こうして押し負けていたのを彼は忘れているのだろうか。 (ちょっと心配になるなあ)  僕にだけ見せてくれている甘さだと思っているけど。  彩芽にシャツを脱いでもらって、ついでに僕も全裸になってしまう。雨で肌寒い日とはいえ、こんなことをしているから暑くてしょうがない。  ソファの背もたれを倒し、彩芽に覆い被さる。額から順番に、唇と掌で愛撫するのだ。触り心地のいい肌の感触を堪能させてもらいながら、たまに胸の突起や、耳みたいな、弱いところを刺激する。 「力抜いてね」 「は、抜いてるだろ」  どうしてそんな自信ありげに僕に身を預けているのか。これからとんでもないところを開発されるというのに。とはいえ、そんな彩芽が可愛くないわけがない。気を抜くと、愛撫に夢中になってしまいそうだ。  余すことのないように触れていたら、足の爪先に辿り着くのに随分と時間がかかってしまった。彩芽は何も言わず僕に触れられていた。  ふと顔を見れば、存外蕩けた穏やかな瞳とかち合って、こちらがドキリとさせられる。 「それじゃ、いれるからね」 「どーぞ」  先ほど消毒綿で拭いた女性尿道用パールにローションをかける。ソファの下に下りて、彩芽の足をM字に開かせた。左手の指で小陰唇を開き、尿道の場所を確認する。まだ暴かれたことのない小さな穴に、尿道用パールの先端をあてがった。 「ゆっくり息吐いて」 「ん、……」  彩芽の呼吸に合わせて、少しずつ尿道用パールを押し込む。一番小さなパールが飲み込まれると、あとは案外すんなりと奥に吸い込まれてしまった。 「んんッ、……ふぅ……」 「痛くない?」 「ない」  太ももや足の付け根、腹にキスして、慣れるのを待つ。 「なん、か、変なかんじ、する」 「気持ちいいんだよ」  彩芽は唇を尖らせた。隣に横になって、後ろから抱き込むように抱える。寝転がっていると身長差が誤魔化されて、彩芽が少し小さく見えた。  彩芽の左足を抱えて、僕の足に引っかけさせる。はしたなく大股を開かせると、控えめに主張するクリトリスが良く見えた。 「振動させるね」 「これ、バイブ機能あんの?」 「そうだよ」  慎重に、一番小さな振動から与えていく。腹を撫でてGスポットのあたりをぐっと押し込んだ。 「ぁあッ!?」 「すごいよね、ここからGスポットもクリトリスも刺激できるんだよ」  腹を撫でる手をどかそうとしている。僕はそっとその手を払って、クリトリスのうえに指を置いた。 「ひっ」  逃げるように前屈みになるから、右手を彩芽の体の下に差し込んで抱えた。 「せきっ、これ、やば、ぁ、あッ」 「痛い?」 「いた、くは、……っ、ぁ、んっ、ぁ、ああっ」  痛いと云えばやめてもらえるのに。痛くないと言質が取れてしまえば、振動を強くしてしまう。  三段階のうち二段階目に振動をあげると、すぐに体を反らすように跳ねた。もだえる体を押さえつけながら、くるくると優しくクリトリスを撫で回す。彩芽の嬌声が、どんどん大きくなってきた。 「あっあっあっあっあっ♡ アッ! ぁあッ♡」  撫で回していたクリトリスの先端を、優しくトンと叩く。 「おうッ!?♡」  良かったのか、彩芽は足をピンと伸ばしながら、大げさにのけぞった。 「思ってたより気持ちいいんじゃない?」 「んッ、あ、あっああッ♡ ~~ッ! ふ、ん、は、あっあっ、あっ、ああッ! アアッ♡」 「しゃべれない?」  トン、トン、と一定の間隔で叩くのをやめずに尋ねる。彩芽は僕から逃げるように手を伸ばし、ソファカバーを掴んでいた。  敏感なクリトリスが、表面からも内側からも責められ、逃げたいのだろうけど後ろには僕がいるから腰を引けない。かといって腰を突き出せば僕の指に押しつけることになるから、彩芽に逃げ場はなかった。 「あっ、あンッ♡ んっ、はっ、あっあっあッアッ♡」 「ね、あんまり暴れないで」  彩芽が身もだえると、腰の辺りが完全に勃ち上がった僕自身を擦る。息が荒くなるのを止められない。僕の息が耳にかかると、彩芽は「だめ」と情けない声を上げた。  クリトリスへの刺激をやめてあげる。 「あつ、あついっ、でそ……、うっ、あ、んっ♡」 「なにがでそう? 出してみてよ」  今度は彩芽に黙って振動を三段階目に上げる。途端に、嬌声は悲鳴に変わっていた。 「ぁああぁあああッ!?♡」  閉じそうになった足を持ち上げる。 「あっあっあああァッ!!♡ イくイくイくイくッ! せきっ、やだ、でるッ、でちゃう!♡」 「出して良いよ」 「やッ……ッ♡♡」  彩芽の意思に反して、今日何度目かの潮吹きは泊まらない。 「っ、ぁああ~~ッ!!♡」  今日一番盛大に噴き出された潮は、漏らしたみたいにソファや床がびしょ濡れにしていく。外の大雨みたいだ。 「はっ♡ はっ♡ あ、ッ、……くそっ」  涙を滲ませ睨んでくる姿が、こんなに可愛い。振動は止めてあげて、欲望のままにキスをした。彩芽は馬鹿だ。僕が止まってあげられたことなんて無いのに、すぐ僕に身を委ねてしまう。 「じょうずじょうず」  尿道パールをちゅこちゅこと抽挿させながら、息を整える彩芽の口を塞いだ。 「んッ♡ ふううッ♡ ンーッ! んーんッ!」  力ない手で肩を押される。仕方なく離れると、鼻を摘ままれた。 「ばかっ! このっ、ばか!」 「でも気持ちよかったでしょ?」 「よ、…………かった、けどなぁ!」 「じゃあいいじゃない」  また尿道パールを一番深いところまで挿れてしまう。そして、僕の指を柔らかい膣内に差し込んだ。プラグ入っていた場所はとっくに柔らかくなっていて、三本指を苦も無く飲み込んでしまう。 「あっ、かってに、ん、んんっ♡」  柔らかく熱い手触りを堪能しながら、彩芽に尿道用パールのリモコンを持たせた。 「一番強い振動に自分でできたら、一緒に手マンしてあげる」  彩芽のナカがきゅんと締まった。 「む、むりだ」 「でも一緒に刺激されたら、気持ち良さそうだと思わない?」 「おもっ……、や、むり、だって」 「ほんと?」  ぐ、と何度も刺激したことのあるGスポットを、指で押し込む。 「~~ぉおッ!?♡」 「一瞬、ボタン押すだけだよ?」  赤くなった目尻。引っ込んでいた涙がまたにじみ出している。真っ赤な顔で、パニックになっているのか「でも」「いや」と譫言のように繰り返していた。  快感に貪欲なのは僕だけじゃない。 「やれよ」  命じるように言いつけると、彩芽はキツく目を瞑った。 「~~~~ッ!」  その目はすぐに大きく見開かれて、悲鳴じみた嬌声を上げ始める。 「~~ッぁあぁあぁあアアッ!!♡」  一気にナカの締め付けが強くなった。彩芽の腰のくねりに合わせて、Gスポットを刺激するように指を動かす。 「イぐッイぐッ♡ ~~ッはあ♡ んッ、おっ……♡ ふ、ぅうぅッ、ぁああああぁあッ!♡」  ぶしゅっ、ぶしゅっ、と噴き出す潮が腕にかかる。愛液も洪水みたいにあふれ出ていた。  顔を隠そうとする両腕を押さえつけ、白目を剥きそうなはしたない顔を味わう。「おッ♡」と突き出された舌を吸うと、かくかくとオモチャみたいに腰が振れた。  ソファを蹴って、腰を突き上げたと思えば、逃げていく。色素の薄い肌は桃色に染まり始めていた。 「おッおッおッおッ♡ イぐッ♡ でるッ♡ でるぅッ♡ ~~ッ♡♡」  ひときわ大きく彩芽の体が跳ねて、静かになった。小さく「ぉッ♡ ぉッ♡」と喘ぎ声を漏らしているが、意識をトばしてしまったらしい。  尿道用パールを抜いてやると、出し切れていなかった潮がまた噴き出した。 (もっとタオルが必要だったな)  ひとまず、拭ける範囲で床やちゃぶ台に飛び散ったものを拭いておく。  トんだ彩芽は、浅い呼吸でぐったりとしたままだ。  乱れた髪と、火照るからだ。頬を伝う涙も相俟って、やはり芸術品みたいだと思う。直接云えばまたキツいだのきしょいだの言われるのだろうけど。  こんなにぐったりとしているが、彩芽は体力おばけだ。案の定、体を拭いていると、ゆっくり瞼が持ち上がる。 「おはよ」 「……カス」  まっすぐな罵倒が飛んできた。そうは云うけど、尿道用パールの電源を入れたのは彩芽だ。唆したのが僕とはいえ、僕だけが悪いわけじゃない。 「水飲む?」 「ったりめえだろ」  力が入らなさそうな彩芽の体を抱き越して、唇にコップをあてる。慎重に、少しずつ、飲ませる。時間をかけて一杯飲み終わる頃には、自分でコップを持っていた。 「彩芽、挿れていい?」 「挿れていい? じゃねえだろ」  むっと唇を尖らせながら、かなり放っておかれた僕自身を握る。 「あっ、ちょっ」 「まだもらってない」  彩芽の親指に鈴口を抉られた。うっかり出ないように頬肉を噛んで堪える。 「大好きじゃん、僕のちんこ」 「そぉだよ」  つい先ほどまで意識をトばしていたとは思えない身軽さで、胡座をかいた僕の上に跨がった。先走りがあふれ出る亀頭に、濡れそぼつ蜜壷が当てられる。 「セキ」  甘ったるい声に答えるべく、彩芽の腰を掴んでゆっくりと下ろさせた。 「っはあ……♡ あっ、ん♡」  柔らかい場所は簡単に僕を飲み込んでいく。彩芽はとろりと目を細め、僕の首に腕を回した。  僕自身のすべてを吸い取らんと、膣全体が絡みついてくる。子宮口を押し上げると、締め付けは一層強くなった。 「ぁあ、あっ、あ、んんッ♡」  ぐう、とゆっくり押し上げたまま、彩芽の背中を撫でる。気持ちいいのか、僕に体重を預けてきた。  激しくは揺さぶらず、奥をぐりぐりと亀頭で刺激する。嬌声は激しさこそ無いが、感じ入っているのはよく分かった。 「んぅ……っ♡ んっ♡ はっ♡ っせき……♡」  僕を抱きしめる力が強くなっていく。首筋に顔をうずめられ、彩芽の吐息が熱く僕をくすぐった。 「体勢、変えていい? 動きにくい」 「いいよ」  と言ったくせに、キスしてきた。伸びてきた舌を吸うとナカも締まる。このままめちゃくちゃに突き回してやりたくなったが、彩芽のナカは穏やかに責められるほうが深くイくのだ。  唇を這わせるだけのキスを繰り返す、息継ぎの合間に、ナカを刺激させすぎないように抱え込みながらソファに背中を付けさせる。  首に回っていた腕を外させると、腕は一瞬彷徨って、寂しそうに僕の太ももを撫でた。  彩芽の両足を肩に担いで、また奥深くを押し上げる。 「んン……♡」  ナカの感触を確かめながら、優しくGスポットを抉るように引き抜くと、彩芽の足がまたピンと伸びた。そのまままたGスポットを擦り上げながら子宮口に押し込む。 「は……、あ、ぁ、……っ、ん、んッ♡」 「あや、め、綺麗だよ……、かわいい」 「うん……、んッ♡ あ、……ぁ、せき、あ、あッ♡」  ナカがビクビクと震え始めた。彩芽の手はソファに爪を立てている。穏やかだった嬌声がどんどん大きくなり始めた。体が絶頂に向かい始めている。  責めるペースを崩さないように、慎重に腰を振る。歯を食いしばっていないと、がっついてしまいそうだ。 「あ、あ♡ くる、くるっ、んッ♡ イく、イくっ♡」 「彩芽っ、あやめ……!」  僕の情けない声に応えるように、彩芽の足が僕の顔を挟んだ。 「せきっ、せきぃっ…………♡」  きゅううっとナカが締まる、耐えきれず吐精したあとに、彩芽も果てたのだと気付いた。果てながら、僕自身を全部搾り取らんばかりにうねっている。 「ごめ、なか、だした……!」  彩芽に僕の謝罪は届いていないようで、イキながら腰が揺れている。刺激しないよう、そろそろと引き抜くが、それすら感じ入ってしまうらしい。彩芽は「だめ、だめ」と首を振る。  ちゅぽ、と引き抜くと、吐き出してしまった白濁が垂れ落ちた。蜜壷はいやらしく開閉している。思わず絶景に喉を鳴らすと、気付いた彩芽が「変態」とまた罵ってきた。 「彩芽がエロいのが悪くない?」  彩芽の隣に横たわり、彩芽を腕の中に招く。顔にかかったブロンドを耳にかけると、彩芽は楽しそうに口角をあげた。 「お前のせいなのに」  それはそうなのだけど。  誤魔化すべく、彩芽の腰に手を回す。尾てい骨を撫で、尻たぶの隙間を辿り、まだ触れられていない萎みを撫でた。 「あっ、ほら」 「うるさいな。二週間我慢させたんだから付き合ってよ」  咎めるように言うと、彩芽は仕方なさそうに「勝手にしろよ」と笑った。 *  消臭スプレーを大量にかけたソファは、まだ全然乾く気配が無い。仕方なく畳に直接座って、二人並んでテレビを見ていた。  洪水警報も出ていたらしく、近くの川が氾濫している様子が流れている。 「うわあ、すごいねえ」  風呂も済ませて眠たいのか、僕の膝を枕にして転がる彩芽からの返事は無い。 「そういえば、結局なんで三年と揉めたの?」  気にせず次を尋ねると、こちらは答えてくれるらしく、んん、と考えている声が聞こえた。 「なんだっけ、前に三年の女に駅で絡まれて……、適当に返事してたんだけど、なんか勘違いしたっぽくて、俺と付き合う、みたいな、ことを思った、……らしく? て、別れ話になって、突っかかってきた、らしい」 「曖昧すぎる。何言ったら勘違いされたんだよ」 「興味ねえから覚えてねえ」 「もう女性と喋らないでほしい」 「ははっ、だる」  彩芽は僕を見上げ、鼻を摘まんだ。 「でもラッキーだったわ、久々にぶん殴れて気持ちよかった」  そうだ、彩芽はこういう男だ。どこでネジが狂ってしまったのか、暴力で快感を得てしまう。 「危ないんだからやめてよ」  一応咎めてみるけど、僕だって楽しそうに暴力を振るう彩芽に惹かれているから、同罪だ。どうしたものかと、彩芽のブロンドを指で梳く。 「お前が飽きたらな考える」 「……なにに? 彩芽に?」 「俺の悪いところに」  戯れの、撫でるようなグーパンチが頬に飛んできた。  バレている。もしかして、むしろ、僕のせいだったりするのだろうか。次はあまり熱視線を送ってしまわないように気を付けなければいけない、いや、そもそも次が無いように彩芽から目を離さないようにしないと。  彩芽は大きく欠伸して、僕の膝上で目を瞑ってしまった。

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