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ビッチの運命の出会い

僕にとって彼との出会いは、運命的だった。 整った顔立ち、スっと伸びた鼻筋、風に揺れふわふわとした黒髪 公園のベンチで眠り込んでいたその彼の姿に、思わず見惚れてしまった なんて美しいんだろう、と 「この公園にして、良かった……」 都内のそこそこ有名な美大に通っている僕は、今週末締め切りの提出課題のスケッチの下見として色々なスポットを巡っていた 色々といっても、たったの二ヶ所だけだけど 最初は家から十分ほど歩いたところにある神社にしようかと思ったが、カップルがデートコースとして参内している姿が多く見受けるため、気分が萎えるので家の近所の公園に変更した もの寂しい公園で、あるのはたったのブランコ一つ そんな公園で昼間から遊んでいる子供は全くおらず、僕もスケッチするには物足りなく感じていて、今まで無視し続けていた しかし、今回の課題が自然と神秘としたテーマとあったので、徒歩で行ける思い付く場所が神社とここ以外に浮かばなかった そしてそこで僕と彼は、運命的な出会い(一方的)を果たした 「ふわぁぁ…!綺麗!眩しい!まるで王宮に暮らす王子さまみたいだ!か、描きたいッ!」 背負っていたリュックからドサドサとうるさく音を立てスケッチブックと鉛筆を取りだし、静かに眠りにつく王子の前に腰を落とし、その姿を紙に焼き付けるよう描き写す 「こんな綺麗な人今まで見たことないっ!」 随分と大きな独り言を度々連発しつつ、爽快と筆を躍らせる 漆のように黒くサラサラのショートヘアに、長く毛量の多いまつ毛、筋の通った形の良い鼻筋に血色の良い薄い唇 ベンチに座っていても分かるスラリと長い脚がえも言われぬ曲線美を造形していた 「うわぁっ筆が進む〜!!」 そのやかましい音に心地よく眠っていた王子は、ついに目を覚ました 「………ん、なんだ?うるさ……」 バチッと王子と目が合う その瞬間、時が止まったようだった 「……お前、何してる…?」 眠気眼なまま訝しげに僕を睨む王子の眼差しに、僕は釘付けになった そしてそのままスケッチブックから手を離し、王子の前に膝をついて手を取る 「あっ!僕、風見彰(かざみあきら)といいます!貴方がとても美しくお休みになっていたので!つい!描いてしまいました!!」 何の悪気もなく言い放ったその言葉に、ベンチに座る王子は完全に目を覚ました状態でポカンとしている 「あ、あの!ついでに僕と付き合って下さい!」 「は?」 なんのついでだ、と言わんばかりに王子は眉間に皺を寄せる 「僕たち、きっと運命だと思います!」 そう言って僕はそのまま座っている王子の膝の上に跨がろうとした 「おいおいおい、まてまてまて!何やってんだ、お前」 「気持ちよくしてあげますよ!」 バコンと、大きな音が小さな公園に響く その音の主は、王子の側に置いてあった仕事用のカバンが、彰の頭を強く打った音だった 「い、痛いですぅ……!」 「何なんだ、お前は。警察呼ぶぞ!」 痛みに悶えている彰を突き飛ばし、カバンを抱え身を守る王子 「そんな!僕はただ!貴方を気持ちよくさせようと…」 「きっ……?余計なお世話だ!それに第一、会って間もないヤツと、しかも男と、付き合うか!」 ドン引きしながらまるでゴミでも見るかのようなその眼差しも、僕には興奮材料にしかならない 「意外に荒っぽい王子さまだなぁ、でもそんな所もギャップ萌えです!」 「キモいぞお前!」 めげずに再び近づこうとしている彰に、王子は急いでその場から逃げようとする 「あっだめ!!」 しかし一歩遅く、王子の背中を逃がさんとばかりに彰はキツく抱きしめた 「ま、待ってください!僕は男だけど、顔は結構可愛い方だし、会って間もなくても、運命だと思えば別に…」 「良くねーよ!おい、離せ!俺はまだ仕事があるんだ!」 どうやら仕事の休み時間に、王子はここで仮眠をとっていたらしい 「そんな!せ、せめて名前だけでも教えて下さい!じゃないと離しませんから!!」 「大原!大原聡一(おおはらそういち)!分かったら離せ!」 背中から王子を掴んでいた両手をパッと離す 「大原さん!また会いたいです…!電話番号も教えてください!」 そんな彰のナンパな言葉を無視し、大原はそそくさと公園から立ち去ろうとする 「明日も!この時間にここにいますから!絶対!絶対来てください!!」 「………。」 そんな叫び声も虚しく、大原は返事も振り返ることもなくこの公園から姿を消した 「あ~ぁ、行っちゃった……あんな人、もう二度と出会えないのに」 最後までこちらを見ることなく立ち去った大原を見送り、僕は呆然と立ち尽す そして暫くして、手に握っている物に目を落とした 「ま、いっか。これがあれば、嫌でもここに来るだろうし」 手に握っていたそれは、先ほど大原に手を回していた際に手を忍ばせて手に入れた、胸ポケットに入っていた彼のスマートフォンだった 「それに、スケッチも中途半端だし、来てもらわなきゃ困る」 地面に放り出されたスケッチブックを取り上げ数回砂を落とすようはたいた後に、リュックに仕舞い込む 「ふふ、早く明日にならないかな」 るんるんと彰はハミングしながら、リュックに大原のケータイも詰める そしてその代わりに自身のケータイを取りだし、どこかに電話をかけた 「もしもし湊?今から会えない?ヤるつもりだったのに逃げられてさ、今すっごいムラムラしてるんだよね………え、バイト?何だよもう!…………あ、亮太が暇してる?おっけ、そっちに電話かけるわ………何、バイト終わったらシたい?仕方ないないなぁ、高くつくよ?うん、ばいばい」 数秒も立たないうちに通話を切り、彰は次の相手に電話を繋ぐ 「あ、もしもし亮太?――――」 . 不覚だった、俺はあまりに不覚だった まさかあの時にケータイをスられているとは思いもよらず、二度と来ないと決心していたあの公園に、再び行く羽目になってしまった 「あ、待ってましたよ!大原さん!」 昨日は連日続いた仕事の激務の一時の憩いの場として利用している公園で、いつもの通り仮眠を取っていたら何やら側でブツブツとうるさく、目を覚ましたら目の前に俺を勝手にモデルにして、俺のことを突然王子と呼び、そしていきなり告白までしてきたキチガイな少年と出会った そんなせっかくの貴重な休み時間がとんだ災難になってしまったのにも関わらず、俺は再びコイツの元にやってきてしまった 「おい、ケータイ返せ、窃盗犯で訴えるぞ」 「そんな恐い顔しないで下さいよ!せっかくの美人が台無しですよっ!」 ニコニコと笑顔で側に寄ってくるこの男は、まるで自分のしていることに一切の詫びも感じていないようだ 「ケータイは返してあげますよちゃんと……あ、僕の番号も登録してあげたので、電話して下さいねっ」 即着信拒否して消してやる、と心で思った さっさと返せ、と無言で手を差し出す 「あの、怒ってます……?」 「怒ってないわけないだろ!いいから返せ!」 ケータイを取り上げようと掴みかかったが、逆に抱きつかれてしまう 「あの!僕たち絶対運命だと思います!ヤれば分かります!」 「ハァ?」 ヤれば分かるって何をだ、分かってたまるか しがみついている腕をひっぺがし、スーツの皺を整える 「残念だが、俺には彼女がいる」 「嘘です。昨日ケータイ見ましたけど、そんな感じの人いませんでした」 「おいそれ犯罪だぞ!」 一瞬で嘘がばれたが、そんなことよりも常識外れの目の前にいるアンポンタンを咎める 「お願いします……付き合ってくれなくても、せめてセフレになって下さい、絶対悪くはしませんから!」 口を開けば次から次へと頭を抱えたくなるような爆弾発言が飛び出してきて、昨日も頭の隅で感じていたが、再びそんな素振りを見せられて、やはり確信した コイツ、ビッチだ、と 「仕事ばかりで溜まっているでしょう?僕を使って下さい!」 こんな可愛らしい顔のヤツから、こんな不似合いな発言にキリキリと胃が痛む そんな痛みを露知らず、目の前のビッチ学生はキラキラと無駄にデカい瞳をこちらに向ける 「あのなぁ、お前中学生だろ?そんなことしたら、俺が捕ま…」 「僕大学生ですよ!失礼な!もう22です!」 こんな小柄な見た目から大学生やら22など、信じられない言葉が耳に飛び込んでくる なんだと、俺とたったの四つしか違わないなんて 「もう怒ったのでチ◯コ舐めます!」 いつの間にかガチャガチャと俺のズボンのベルトに手をかけていたソイツの頭を思いっきりバシンとひっぱたいた 「ッッ!?痛いですよ、もう!」 プンプンと頬を膨らませ、頭を抑え下から見上げてくるビッチ学生の涙ぐんだ容姿を、不覚にも可愛いと感じてしまう なッ……バカ!なに考えてんだ、俺は! 「……マジでいい加減にしないと、本気で訴えるからな」 ゴホンと咳払いをして、気持ちの軌道修正をする 疲れているんだ。もう三日も家に帰って寝ていないし、どうかしている これ以上取り返しのつかないことになる前に、早くコイツから離れようと思った 「じゃあせめて一回、一回だけでいいからヤらせて下さい…!」 服の袖を掴んでうるうると、健気に訴え続けるコイツに、若干にも心を許しそうになってしまう 「ーーッ」  ハッ、ダメだダメだ、コイツは多分こうやって何度も男を落としているに違いない、と一瞬傾きかけた理性を必死に抑え我に返る 「はぁ、俺の代わりなんていくらでもいるだろ……」 「貴方が付き合ってくれるなら、その人たちとは縁を切ります!僕、それくらい貴方のことを好きになってしまったんです!」 これまでにないくらいのダイレクトにぶつけてくる愛の言葉に、また心が揺らぎそうになる 「僕、本気ですから!」 真っ直ぐに見つめてくるその瞳に、遂に断念してしまった 「わ……かった……から、考えておく……今は取り合えずケータイを返せ、まだ仕事があるんだこっちは」 「すいません、ケータイ家に置いてます」 「はぁ!?」 今日と昨日でどれくらい大きな声を出したことだろう、仕事以外でこんなに疲れるのは本当に無駄な労力でしかない。勘弁して欲しい 「でも大丈夫です!僕、すぐそこのアパートに住んでいるので、今から取りに行きましょう!」 ぐい、と手を引かれる 絶対何かよからぬことを考えているに違いないが、ケータイを取り返す為に、グッと堪えてソイツに身を委ねた . やった!上手くいった! 大原さんを家に連れ込むことが出来そうだ! 公園から徒歩三分の所にあるアパートの二階に、大原さんの手を引いて向かっていく 「あ、僕この先の203号室に住んでます!」 笑顔で振り返って大原さんの顔を伺ったが、こちらにも伝わってくる程の警戒の色を滲み出していた あちゃ~、すっかり防御体制に入ってるな~ ま、いっか、家に連れ込めばこっちのモンだし! 大して気にすることもなく、僕はルンルンと自身の住処である203号室の前に来た そしてポケットから鍵を取りだし、ドアを開け玄関に入る すると突然、僕の腕を大原さんが強引に引っ張る 「あっ、なんだ。意外に満更でもないんじゃ……」 そのまま僕は両手を背中に回され、何か紐のようなものでギッチリと固定された 「え…?」 あれ、実は大原さんそういう趣味の人なの? と聞こうとするや否や、僕を玄関にほったらかし、土足で部屋に上がっていく 「ケータイケータイ……お、あった」 僕のベッドに置いてあったケータイを取り上げ、再び玄関に向かう ふと見ると大原さんの首のネクタイがなくなっていたので、後ろで頑なに結ばれているのがそのネクタイだとすぐに察した しかし、そんなことを考えるよりも彼の行動に疑問を浮かべる え、まさか、そのまま帰る気……!? 僕はそそくさと玄関のドアに背をもたれる 「おい、どけ」 「嫌です!ヤってくれなきゃ退きません!」 「腹に一発お見舞いされたくなければ、どけ」 「それは僕のケツマ◯コに中出ししてくれるってことですか?」 「ちげーよ!」 大原さんは僕の肩を掴み、強引に引き離そうとする このままだと、大原さんが行っちゃう! どうしたら、どうしたらいい? いつもなら簡単に男を虜に出来ていた僕は、初めて訪れた危機に焦っていた こんなに手強いとは思いもよらなかった 「お願いッ!お願いです!せめてチ◯コ舐めさせて!」 「あのなぁ!?」 そしてこんなに必死になる自分も、はじめてだった 誰かにこんなにも執着するなんて、僕らしくもない ただセックスができれば、それで良かったのに 相手なんて、誰でも良かったのに 大学に入って先輩たちから無理やりヌードモデルをさせられそのまま輪姦されて以来、僕は見事にビッチと化した 同級生から年下、おじさんと幅広い人を食ってきた僕に、恋愛感情なんてもう芽生えないと思っていた それなのにここまで必死に誰かに執着して、こんなみっともない姿を見せるなんて、今の今までに一度もなかったのに やっぱり、これは運命なんだ 「絶対満足させてあげますから!」 だから初めての初恋に、僕はがむしゃらになっていて、ただ逃げてほしくないと空回りするばかりだった 「あのなぁ、俺まだ仕事残ってるって言ったよな?まあ、確かにいますっげえ溜まってるけどな…」 「!!だったら舐めさせ……」 「うるせえ最後まで聞け、だから今お前が俺のチ◯コ舐めたりなんかしたら、もしかしたらそのままじゃ済まないかもしれない」 大原さんはとても気恥ずかしそうにしている。僕はそのまま黙って言葉の続きを待った 「それで仕事に戻れなくなったら困るし、それに俺はお前にちゃんと考えとくって言ったよな?」 その言葉はまるでまだ脈があるような、それともただの思わせ振りなのか、分からず僕はもどかしかった 「仕事はあと三時間で終わる、それが終わったらその手の拘束解きに来てやるよ」 ポン、と頭に手を乗せて、だからそこをどけ、と大原さんは一言付け加える 僕は感極まって涙がボロボロとこぼれ出した 「ま、待ってます!何時間でも待ってます!!」 僕はそれまで塞いでいた玄関の扉から易々と離れ、大原さんを見送る 「彰」 大原さんはスマホのディスプレイに映る画面を見て、僕を呼んだ 初めて呼ばれた自分の名に、僕は酷く興奮した 「な、なんでしょう!?」 天使のようなスマイルを浮かべ、彰は大原の呼び掛けに答える 「それ、見苦しいからなんとかしとけよ」 大原さんはこちらに指を差す たったそれだけ言い残して、玄関の扉を開け仕事に向かってしまった 僕はなんのことかと差された方向に目を落とすと、そこには自分の息子がズボンの下から自身を強く主張するかのように盛り上がっていた なんとかしろって…………え…… 手で抜こうにも後ろに拘束されていて身動きも取れず、僕は冷や汗をかく 「ってこれ放置プレイじゃん!大原さんやっぱそっちの趣味の人なんだ!うわーん!!!鬼畜王子ー!!」 部屋で一人取り残された僕は、そんなことを誰もいない玄関に向かって一人で叫び、自身の昂りをどうすることも出来ず、三時間の拷問に耐え、大原さんの帰りをひたすら待つのでした

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