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タッパーの重さをしっかりと受け止めながら、俺は依然としてポニーテール姿のカワイに目を向けた。
「……家事スキル、とな?」
なんだ、それは。ゲームの話か? 俺には無縁の単語だ、ということしか分からないぞ。
ということで、こんな時はゼロ太郎だ。俺はすぐに、宙を見た。
それが合図兼ヘルプだと理解したゼロ太郎は、相変わらずの低い声をポンと響かせる。
[主様の生活能力がゴミクズ底辺なのは周知の事実です]
「いや『周知』って、それを知ってるのはゼロ太郎とカワイだけだよね?」
辛辣すぎる前置きに、俺の胸はグサリと貫かれたような痛みが奔った。
つまり、これは現実ということ。このカワイお手製お弁当はマジのマジ、大マジだということだ。
では、このまま説明を乞おう。視線を上げたまま、続くゼロ太郎の言葉を待つ。
[私は生活習慣の見直しを主様に言葉で諭すことはできますが、しかし、物理的なサポートにはどうしても限界があります]
「なんか、すみません……」
続いて、カワイが口を開いた。
「そこで名乗り出たのが、ボク。ゼロタローに教わって、ボクが家事をする。掃除とかゴミ捨てだけじゃなくて、もっともっと家庭的なことを学んで、実践する」
[ということで、手始めにそちらのお弁当を準備した次第です。ご理解いただけましたか?]
なるほど、そういうことか。ようやく、俺は事態を呑み込めた。
あのトンデモ部屋を掃除し切ったことにより、ゼロ太郎とカワイの間には強い絆のようなものが生まれたのだろう。【追着陽斗の生活能力がド底辺なので、どうにかしなくては】的な、こう、なんだ、同盟心みたいなものが。
そこで二人は、ついにワンステップ上がったのだ。俺が一度も口にしなかった【料理】というステップに。
第一歩として作られたのが、タッパーに入ったおにぎりか。なるほど、そうかそうか、納得納得……。
「待って、今ちょっと調べ物するから」
一度、タッパーを食卓テーブルの上に。俺は二人に断りを入れてから、すぐにスマホを取り出した。
カワイはなにも言わず、コクリと頷く。俺が言った『待って』を忠実にこなそうとしてくれているのだ。可愛い、堪らない、後で頭を撫でたい。
ゼロ太郎は思うことがあるのか、スマホを素早く操作する俺に疑問を投げた。
[もしや、料理のレシピですか? それは私の方で用意をしてカワイ君に指示いたしますよ?]
スマホに目を向けたまま、俺はカッと刮目する。
「──なに言ってるの! カワイが着るエプロンだよッ!」
[──そちらこそなにを言っているのですか]
分かってない、分かってないよ!
ポニーテール姿だけじゃ足りない、足りないじゃないか! 料理をする幼な妻ときたら、必須の装備品は? そう、エプロンだよ!
料理なんてしない俺の部屋に、エプロンなんてありはしない。だったら? そう、買うしかないよね!
「フリフリがいいかなぁ? それとも、ここはあえて黒とか青とかシンプルなデザインか? いやぁ~っ、迷っちゃうなぁっ!」
[……]
「カワイ、カワイ~っ! ちょっとこっち来て~っ! 一緒にエプロンを選ぼ~っ!」
「よく分からないけど、ヒトがそう言うなら」
カワイはパタパタとスリッパを鳴らしながら、俺に近寄る。
俺とカワイがエプロンを見て和気あいあいとしている中、ゼロ太郎はと言うと……。
[……。……クソが]
ご主人様に、呆れていた。それはもう、心の底から。
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