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 ……以上。多少の脱線はありながらも、回想終了。 「確かにスマホは渡したし、そうすればゼロ太郎を携帯して外にも出られる……! 俺としたことが、どうしてその可能性に気付けなかったんだ!」  頭上からゼロ太郎が[本当ですよ。どうして気付かなかったのですか?]と冷酷な声を浴びせてきたけど、スルーだ。  腕の中にいるカワイが「そのためにくれたんじゃないの?」と言っているが、それもスルーしよう。頭の回転が悪すぎる自分を認めたくない!  ポニーテールなカワイをしっかりと堪能しつつ匂いを嗅ぎ、俺は存分にカワイを充電する。……ふぅ。ようやく、落ち着いてきたぞ。 「なにはともあれ、人間界に馴染んできたのはいいことだと思うよ。カワイは勉強とかをいっぱい頑張って人間界に来たんだから、できることが増えるのはカワイにとっても嬉しいことだと思うし」 「うん。できることが増えるのは嬉しいし、楽しい。全部、ヒトとゼロタローのおかげ」  すり、と。カワイが俺の胸に、顔を埋める。 「部屋の中で使うことはないけど、ゼロタローとどこにでも行けるのはすごくすごい。改めて、スマホをくれてありがとう、ヒト」  それから顔を上げて、カワイは真っ直ぐと俺を見つめた。  なんということだ。きちんと相手の目を見てお礼を言えるなんて、いったい誰がカワイをこんなにいい子に育てたんだろう。ご両親か? ありがとうございます。 「ど、どういたしまして……」 「うん。……ゼロタローも、いつもありがとう」 [とんでもございません。こちらこそ、私にできないことをしてくださってありがとうございます]  ゼロ太郎にもしっかりお礼を言うなんて、この子は最高だ!  そうだ、ご褒美。ハグだけじゃなくて、もっともっと素敵なご褒美をあげなくちゃ。俺はカワイの肩をガシッと掴み、目線を合わせる。 「カワイ、お外に出るのは楽しいかい?」 「うん、楽しい。色々なものが見られて、ワクワクする」 「そうだよね、そうだよね。カワイはお外に出て、色々なものが見たいんだよね」 「……ヒト? どうして、悪巧みをしているような顔をしているの?」  カワイの目が、くりっと丸くなった。なんという愛らしさだろう。堪らなく胸がときめく。  ……これはもう、あれしかない。 「──大丈夫だよ、カワイ! 俺と一緒ならさらにもっと遠いところまで行けちゃうからね! ということで、今日は休みにしよう! ゼロ太郎、今すぐ会社に電話を!」  ──有給休暇しかないよね!  カワイの肩を掴んだまま、俺は頭上に向けてオーダーを口にする。主から指示を受けたゼロ太郎は、勿論俺のオーダーを──。 [カワイ君、いつものをお願いします] 「うん、分かった。ヒト、今日もお仕事頑張ってね。はい、カバン。中に水筒も入れたからね」 [行ってらっしゃいませ、主様] 「行ってらっしゃい、ヒト」 「──あ~れ~っ」  ……受けてくれるはずもなくて。  グイグイ、ドンッ。今日も今日とて、カワイの力技によって追い出されてしまった。  くっ! 日に日に、カワイとゼロ太郎のタッグが強くなっていくぞ! ついには抵抗する間もなく追い出されるようになってしまった!  ……いや、それは初めからか? 鞄を抱きながら、俺はトホホと肩を落とした。

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