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 月君から見事にドン引きされた後も、業務は続行。ダカダカとキーボードを打ち、時間が流れる。  そして、ついに……! 「きた! 待ちに待った昼休憩の時間!」  昼休憩を知らせる時計の音が響くと同時に、俺はキーボードでショートカットキー【画面ロック】を叩いた。  隣で月君が驚いていようが、関係ない。俺はカワイが握ってくれたおむすびを食べるのだ。 「センパイ、嬉しそうッスね」 「へへっ、分かる?」 「むしろこれで分からない相手がいるんなら、目玉を取り出して洗浄してあげたいレベルッスよ」 「えっ、そんなにっ?」  なんだか、ごめんなさい? と、言った方が良いのだろうか。 「オレ、今日はコンビニで朝のうちにお弁当買ってきたんスよ。良かったら昼、ご一緒しても?」 「うん、勿論っ」  ということで、俺と月君は昼食のためにデスクから移動。休憩スペースへ向かった。  その間も、会話は続行だ。 「センパイっていつも不健康そうな昼食だったんで正直心配だったんスけど、カワイ君がお弁当を持たせてくれるなら安心ですねっ」 「えっ、嘘っ? 俺、月君から心配されてたの? 別にお昼を抜いているわけじゃないのに?」 「そりゃ心配もしますよ~。いっつもゼリー飲料ばっかりですし、かと思ったら、時々『何食分なんだ?』って量のお弁当とかパンを食らい始めるし……。健康云々の前に、胃に悪そうだなーって」 「あちゃー。面目ない」  後輩に不必要な心配を抱かせてしまっていたとは。食に頓着がないとはいえ、反省しなくてはいけない。  休憩スペースに到着し、俺たちは開いている席を見つける。二人用のテーブルを見つけたので、俺たちは各々の昼食を用意した。 「さーて、カワイお手製のおむすびとご対面だ~っ」 「あれ? 意外と普通のおにぎり、ッスね」 「まん丸で可愛いよねぇ~っ。食べちゃいたいくらいだよ~っ」 「いや食べ物なんで。……でも正直、悪魔ってもっとヤバい料理をするんだと思ってました」 「ふっふ~ん! スゴイでしょ~?」 「なんでセンパイが自慢げに?」  自慢げにもなるでしょう! うちのカワイが初めて作ったご飯なんだから! 「それでは早速、いただきますっ!」  両手を合わせ、食前の挨拶をしてから、いざ実食! ……の前に、いつの間にか鞄の中に用意されていたウェットティッシュで手を拭く。万全の態勢で食さないとね、失礼に当たるからね。  よし、今度こそ実食! ……おっと、その前に写真を撮っておかないと。これは記念だからね、写真は必須だ。  よしよし、今度こそ実食だ! はてさて、ゼロ太郎に教わりながら作ったカワイのおむすびは、いったいどんな味がするのかなぁ~っ? ウキウキと気持ちを弾ませながら、パクリと一口。  しっかりと咀嚼をし、味わい、嚥下して。俺は、カッと刮目した。 「──あっ、なんだろう。天使の味がする。天使だ、メイドバイ天使だ、天使イン天使だ、天使の味だ」 「──天使を食っているみたいな言い方やめてください……」  満足なんてものじゃない。今まで食べたどのお米よりもおいしい。さすがゼロ太郎とカワイだ、天才すぎる!  俺が感動に打ち震えている中、月君はコンビニ弁当を食べながら小首を傾げた。 「ちなみにセンパイって、どのくらいの頻度でカワイ君を口説いているんですか?」 「くどっ、いているつもりは、ないけど……。うーん」  月君の中で俺がどんなイメージなのか気にはなるけど、そうだなぁ。カワイと過ごした日々を思い返し、ザックリと計算をする。 「──週に三十五回、かな」 「──それ『一日に五回』って回答じゃダメだったんスか?」  いやいや、いやいやいや! 確かにその通りなんだけどさ!  でもその言い方だと、なんとなく週換算より重たい感じがするじゃん! ……なんて俺の訴えは、見事に月君へ届かなかった。

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