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 そんなこんなで、気付けば金曜日。今日も今日とてカワイの発言で見事に起床を果たした俺は、寝惚け眼を擦りながらカワイに近付いた。 「おはよう~。カワイは今日も、朝から素敵な男の子だね~」 「ありがとう。ヒトもステキだよ」 「受け答えまで最高なんだけど! 素敵だねっ!」 「笑顔のヒトもステキだよ」 [──朝から妙な即興劇はおやめください]  俺たちどっちも真剣なのに、まさかのエチュード扱い。ゼロ太郎は相変わらずだ。  カワイはポニーテールを解き、食卓テーブルに俺を引っ張る。朝食が並んでいるのだ。  いったい、カワイはいつも何時に起きているのだろう。……気になったので、訊いてみよう。 「ねぇ、カワイ。君は、いつも何時に起きてるんだい?」 「『起きなくちゃ』って思ったら起きてる。それよりも、今日のオススメはもやしの和え物。食べて」 「はぁ~いっ、食べまぁ~すっ」  モグモグ。……ふむ、オススメと言うだけあっておいしいぞ。もやしのシャキシャキ感が歯と耳に心地いい。これぞ、もやし。つまり和え物が乗ったこのお皿は、もやしの独壇場ではないか? 素晴らしい、スタンディングオベーションだ。  ……って、あれっ? 話題がサラッと変わっている。なぜ? 「どう? おいしい?」 「うん! とってもおいしいよっ。いつも本当に、お料理ありがとう」 「色々覚えるの、楽しい。もっと沢山のご飯を作れるようになるね」 「それは楽しみだな~っ。……って、おっと。また脱線だ。あのね、カワイ。実は俺、早起きが苦手なんだ」 「うん、知ってる」 「ですよね」  いや、違う違う。俺の不甲斐なさを再認識してもらいたかったんじゃなくて。 「つまりなにが言いたいかと言うと──」 [──カワイ君が無理をしていないかが心配なのですよね] 「──お願い。俺に言わせて?」  まぁ、そういうことなんだけども。もやしのシャキッと感を味わいながら、俺は肩を落とす。  いやいや。ゼロ太郎に大事な部分を横取りされたけど、だからと言って気を落としている場合ではないか。俺は気を取り直して、カワイと向き合う。 「つまりゼロ太郎が言った通りで、そういうこと。だから、眠たい日とかは無理しなくていいからね?」 「分かった、ムリしない」 「早起きがつらい時は誰にだってあるからね、恥ずかしいことじゃないよ。だから、無茶はしちゃ駄目。……分かった?」 「分かった。ムチャもしない」  無表情のまま、カワイはコクコクと頷く。なんだ、素直で可愛いぞ。カワイが可愛いのは、今に始まったことではないが。  しかし、ふと。カワイはフォークで食事を進めながら、ポソッと呟いた。 「でもたぶん、ボクはずっと平気だよ」  食器に落としたカワイの視線が、上がる。宝石のように綺麗なカワイの瞳が、俺に向けられて──。 「──ヒトが喜んでくれたら、ボクも喜んじゃうから。『全ての過程がヒトの笑顔に繋がっている』って思うと、ボクはなんでも嬉しい」  かちゃっ。俺はそっと、箸を下ろした。  それから俺は、箸を持っていた手で己の目頭に触れて……。 「──ちょっとこのもやし、ワサビ強めじゃない?」 「──ワサビは入れてないよ」  そっと、泣いた。

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