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 捲られたエプロンを下げさせつつ、俺はカッと上を睨みつける。 「ちょっとゼロ太郎! カワイになんてこと教えてるのさ!」 [冤罪です。通報しますよ] 「それこそ冤罪じゃないかな!」  駄目だ、勝てない。話題を変えるという意味も込めて、俺はカワイの疑問に答えることとした。 「えっと、なんだっけ。ズボンの長さ、だっけ? もしかしてカワイ、ズボンが短くて寒い?」  エプロンから覗く膝小僧に癒されつつ、俺は今まで失念していたことを訊ねる。  対するカワイの返事は、サッパリしていた。 「ううん、寒くない。悪魔は脆弱な人間と違って、この程度の温度じゃ体調は左右されない。真冬に裸でも平気だよ」 「そっかそっか。だけど、服は着てね。俺、どうにかなっちゃうから」 「よく分からないけど、ヒトがそう言うなら」  頷くカワイを見つめつつ、俺はカワイの手をギュッと握る。 「でも、ごめんね。今まで、暑さとか寒さについて考えてあげられなくて」 「ヒト……」  んー、っと? ちょっぴり、カワイの頬が赤くなったような気がするぞ。なぜだろう?  カワイは顔をうっすらと赤らめつつ、尻尾をブンブンと左右に振りながら、首もフルフルと左右に振った。 「い、いいの。大丈夫。ちょっと、気になっただけだから」 「本当に? 遠慮とかしてない?」 「してない、大丈夫。ホントだよ」  キュッと俺の手を握り返して、カワイは赤い顔を上げて俺を見つめてくれる。その顔は、嘘を吐いているようではなさそうだ。  だけど、念のため確認しないとな。俺はカワイをジッと見つめ返しながら、訊ねる。 「短パン、嫌い? 短いズボン、嫌になっちゃった?」 「そっ、そんなことない。嫌いじゃないよ、いいの。ヒトが喜んでくれるなら、服はなんでも嬉しい」 「良かった。ありがとう、カワイ」 「……っ」  あれっ? カワイの頭から湯気が出てきたぞっ? なっ、なぜっ?  ……なんて、俺たちが各々別の意味で慌てている中、ただ一人。 [……]  ゼロ太郎だけは、回想していたらしい。  遡ること、数週間前。忘れもしない、悲劇を回避したあの日のこと。 『お願いぃ~っ! デザインも素材もゼロ太郎のセンスに任せるけど、カワイの脚だけは隠さないでぇえ~っ!』 『ニーソックスとかハイソックスとかはいいけど、ズボンはっ、ズボンでカワイの脚を隠されたら俺死んじゃうぅ~っ!』  俺が情けなくゼロ太郎に縋りつき、カワイの生足魅惑な魔ーメイドを死守した日のやり取りだ。  ゼロ太郎は小さな声で、俺たちに聞こえないようにぼやく。 [──カワイ君が常時短パンの理由は『主様がヘンタイなだけです』と、伝えるべきか否か……]  悩むこと、数秒。ゼロ太郎は後者を選択してくれたらしい。  言うまでもなく、当然ながら……。 「ヒト、あの、手。まだ、ギュッてしててもいい?」 「うんっ、勿論っ。いっそのこと、このままずっとず~っと、俺と手を繋いでいよっか?」 「うん、繋いでいたい。ヒトの手、温かくてほっこりする」 「カワイのちょっぴり冷えた手も可愛くて癒しだよ~」  お互いの手を褒め合っていた俺たちは、ゼロ太郎の思考に全く気付いていないのであった。

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