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いや、いいんだよ? カワイがどんどん人間界での雑学や知識を吸収してものにして、それを楽しんでいるのはいいに決まっているさ。
だけど、こっちにだってプライドがあるんだよ!
「俺はこう見えて産まれてこの方人間界在住なんだけどさ! どうして移住して半年も経っていないカワイの方がこんなに人間界に詳しいの!」
「人間界の雑学、面白い。覚えるの、楽しい」
「──勤勉だなぁ! 偉い! 可愛い! ハナマル!」
くそうっ! 可愛いじゃないか! 俺は立ち上がって、カワイの頭をワシャワシャと撫でた。
カワイは瞳を細めて満足そうにしながら、俺をジッと見つめる。
「ありがとう。……さっきヒトが『和え物』って言ってたそれ、カラシ和えだよ。食べられる?」
「食べられる! いただきまぁ~す!」
カラシ和えかぁ。つまり、ちょっと刺激的な味がするってことかな? うんうん、それは食べるのが楽しみ──。
「──って、違ぁ~うっ!」
[──なんて鬱陶しいノリツッコミでしょうか]
ゼロ太郎の辛辣さは一旦スルーだ! 気力と体力が削がれる上に絶対勝てないからね!
それよりも、だ! 俺はカワイの頭を撫でながら問い質す。
「人間より人間じゃん! 日本人より日本人じゃん! なんでっ? ホワイ! ジャパニーズピーポー!」
「どうして、って言われても……。ボク、人間じゃない。日本人じゃないよ」
「分かってるよ! あっ、ご飯は大盛りでお願い!」
「今日もお仕事、お疲れ様」
カワイはお茶碗を持って、炊飯器の方へと移動した。
その間に、俺は椅子に座り直して頭を抱える。
「いや別に、俺は悔しいとかそういう感情は無いんだよ。じゃあなにがこんなに引っ掛かっているかって、そりゃ多少の【人間界在住歴】のプライドがプルプルしてはいるけど、そうじゃなくてさ」
[なんですか、面倒くさいですね。ハッキリ仰いなさい]
「──悪魔っ子は人間界に対して無知だからこそ際立つ可愛さもあるって話だよ!」
[──クソくだらねぇでございます]
辛辣だ! フランク且つ丁寧だけど辛辣すぎる!
お茶碗にお米をペシペシッと盛り付けるカワイを見て『悪魔らしい』とは言えないけどさ? 家事に関してカワイに甘えっきりで頼りっきりな俺がどうこう言うのも変だって分かってるよ?
それでも、言わせてほしい。カワイが、人間界に馴染みすぎていると。
俺の叫びや嘆きが伝わったのか、ゼロ太郎は普段通りのクールな低音ボイスで淡々と答えた。
[そもそも、主様とカワイ君では姿勢が違います。彼は雑学や知識を自身に取り込もうと言う前向きさがあります。しかし主様にはありません。……そういうことですよ]
「じゃあなにか! 俺の生き方が間違っていたって話か! そんなオチか!」
「どうして? ヒトのすることに間違いなんてないよ?」
[主様の異常性が際立っているので失念しがちですが、カワイ君も大概、危ない子でしたね]
ご飯が大盛りのお茶碗を持つカワイが、会話の途中から参戦。よく分からないが、カワイに擁護されたらしい。嬉しいじゃないか。俺はもう一度、カワイの頭を撫でた。
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